ウクライナ戦争の停戦はなぜ難しいのか(中)領土の新確定が最大の難関

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・ウクライナ戦争はソ連崩壊後のロシアの勢力圏拡大と、ウクライナのNATO接近が原因で2022年に開戦。
・2014年のクリミア併合や東部二州の分離など、領土の新確定が停戦・休戦に向けた最大の難関に。
・2025年末時点で4年近く続く消耗戦となり、トランプ大統領が早期の停戦と和平への探求を主導している。
ではウクライナ戦争が朝鮮戦争のように休戦や停戦に向かう可能性があるのだろうか。その展望を探るためにウクライナ戦争とはなんなのか、出発点に戻って、考察してみよう。
ウクライナ戦争は2020年2月24日、ロシアの大部隊が隣国であるウクライナに軍事攻撃をかけたことで本格的に始まった。ロシアのプーチン大統領は当初、明らかにウクライナという国家の全面的な征服を目指していた。だから最初の段階からロシア領からかなりの距離にあるウクライナの首都キーウにまで軍事攻撃をかけた。その意味ではロシアの軍事行動はウクライナに対する完全な侵略戦争だった。
だがどの戦争にも複雑な背景がある。歴史をさかのぼれば、ロシアとウクライナが同じ国同士だった時期の「原因」までが浮かびあがる。両国ともにソ連共産党政権の支配下にあったのだ。ロシア共和国、ウクライナ共和国と、いずれもかなりの自治権を与えられてはいたが、帰属する国家はあくまで同じソビエト連邦だった。
だがソ連の共産党政権は長年のアメリカ側との東西冷戦の拮抗の末に、1991年、内部崩壊の形で解体となった。その結果、ソ連邦内の各共和国はそれぞれ独立を宣言したのだ。
だが新生国家群のなかではロシアが圧倒的に強大だった。プーチン大統領はロシアをソ連邦のように強力で単一の国家に復元させようと、領土の再奪回を図った。2014年にはウクライナ共和国領内の東部にあるクリミア半島をロシア領に併合する措置を強引にとった。クリミアにはもともとロシア系の住民が多かった。
ロシアは同年、さらにウクライナ領内の東部のルハンスク州とドネツク州を占拠し、それぞれ独立の人民共和国としてウクライナから分離させる措置をとった。一応、住民投票の結果という形をとったが、現実には軍事力をテコにウクライナの意思を無視しての強引な勢力圏の拡大だった。だが国際的な認知は得られなかった。
そんなロシアが2022年にウクライナへの全面攻撃に踏み切ったのは、一つにはウクライナがゼレンスキーという人気の高い大統領の下で、米欧軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)への加盟の動きをみせ始めたことが原因だった。NATOは疑いなくロシアを脅威とみていた。だからプーチン大統領からすれば、本来の同胞であるはずのウクライナが潜在敵の側に回ってしまうという危険な状況を意味していた。
しかし実際にロシアの侵略がウクライナ各地で始まるとウクライナ軍は驚くほどの強さを発揮した。その背景にはアメリカからの兵器や弾薬の大規模な援助があった。戦場で致命的な重要性を発揮するインテリジェンス(軍事情報)の提供もあった。そして激しい戦闘が2年、3年と続き、2026年2月にはまる4年という長期の消耗戦を迎える見通しとなったのだ。
トランプ大統領は2期目の就任前からウクライナ戦争の停戦や和平を求める意向を明らかにしていた。この戦争はそもそも民主党のバイデン政権時代に起きた。しかもバイデン大統領はロシアの侵略が確実になった時点でもアメリカとしては「経済制裁でロシアの侵略を抑制する」と述べ、軍事的な行動をとらない意思を明示していた。
トランプ陣営はバイデン政権のそんな対応を「軟弱な宥和であり、その消極的な態度がロシアの侵略を助長することになった」と批判していた。トランプ大統領が主唱する「力による平和」策であれば、ロシアはそんな大胆な侵略行動には出なかっただろう、とも主張し続けた。
トランプ氏は2期目の大統領就任以来、ウクライナ戦争の停戦と和平への探求を明らかにしてきた。その一方、ウクライナへの軍事支援は惜しまなかった。ただしドイツやフランスなど西欧諸国がロシアの侵略を非難はしても、実際の軍事援助はさほど積極的ではないことをトランプ大統領は批判し続けた。
ロシアとウクライナとの血なまぐさい戦闘は2025年12月末の時点ですでに4年近くもの継続となった。その間、連日、多数の人命が失われていった。複数の統計を総合すると、死者の総計はロシアの軍人が約25万人、ウクライナの将兵が約4万5千人、民間人は両国合わせて1万5千人ほどとなる。トランプ大統領は「連日、数千人もの命が奪われる悲劇を一日でも早く終わらせたい」と頻繁に語っている。
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トップ写真:英雄の路地裏軍人墓地で-2025年8月10日 ウクライナ、クラマトルスク




























