ウクライナ戦争の和平はなぜ難しいのか(上)停戦できなかった多数の歴史的事例

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・トランプ大統領が和平交渉を進めるも、ロシア・ウクライナの両大統領は米主導の和平にどう応じるか不明。
・アフガニスタン戦争やベトナム戦争、第二次世界大戦をみるに、戦争は激戦の最中では終わりにくい。
・例外中の例外は、朝鮮戦争である。
ウクライナ戦争はどうなるのか――
ロシアのウクライナ侵略が大きな転機を迎えるにいたった。2025年12月末の現在、アメリカのドナルド・トランプ大統領が和平交渉を全力投入の形で進めている。だが戦争の当事者のロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、いずれもがこのアメリカ主導の和平にどう応じるか、不明のままである。
激しく続く戦争をその途中で停戦から和平へと持ち込む作業は至難である。一般に主権国家同士の戦争は戦場での軍事的な勝敗でのみ決着にいたる。激しい戦闘が続き、その勝敗がまだ決まらない段階でいきなり停戦から和平へと進む事例は近代の世界の歴史でも、きわめて少ないのだ。この点にいま全世界から注視されるウクライナ戦争への対応の難しさがある。
戦争は激戦の最中では終わりにくい。終わるのは一方が他方を圧倒する、あるいは降伏させるという明白な勝敗の結果が出てこそ初めて終わりとなる。そんな事例が世界の現実なのだ。
近年ではアメリカが全面介入したアフガニスタンでの戦争の決着はそのほんの一例である。
2001年のイスラム過激派アルカーイダのアメリカへの同時多数テロ攻撃を支援したアフガニスタンのタリバン政権をアメリカのブッシュ政権が攻撃した。タリバン政権は首都カブールから撤退し、山岳地帯でかろうじて生き延びた。
アフガ二スタンのほぼ全土はアメリカに支援された民主主義志向の新政権が支配した。だがその新政権とタリバンとの戦争は多数の局地で続いた。新政権は米軍に支援されていた。そしてその20年後、2021年8月31日、アメリカのバイデン大統領は「アフガン戦争終結」を一方的に宣言し、残留の米軍6000人を急遽、撤退させた。すると、それこそあっという間にそれまでのアフガン政権は崩壊し、タリバンの武装勢力が首都カブールを支配してしまった。
タリバンの完全勝利による戦争の終結だった。
もう一つの歴史的実例はベトナム戦争だった。
ベトナム戦争は私自身が新聞記者として最後まで現地での報道にあたった。その体験での教訓は強烈だった。この戦争では結局は民族独立と共産主義革命とを同時に求めた北ベトナムがソ連や中国の支援を受けて、南ベトナムと戦った。南側はアメリカに支援されていた。
米軍の全面介入により8年ほども激しく戦った双方は1973年1月にはパリ和平協定で一応は停戦した。米軍は全面撤退した。2年後にはベトナム全体での選挙で新たな政権を選ぶという取り決めだった。だが真の停戦も和平も実現はせず、北ベトナムは1975年春に大規模な軍事攻撃に出た。そして南ベトナムの軍隊も政府をも完全に粉砕してしまった。短期だが激しい戦闘の末だった。そして停戦と和平がやっと実現した。戦争の一方の当事者が軍事力で敵を完全に打ちのめした末の平和だったのだ。
同様の真実は第二次世界大戦でも立証されていた。欧州での戦争では1945年5月にナチス・ドイツは完全に軍事粉砕された。ヒトラー総統はベルリンの地下壕にこもり、自殺した。
一方、日本はアメリカとの3年半もの大激戦の末に沖縄を占領された。広島と長崎に原爆を落とされた。数百万人もの犠牲者を出したうえでの敗戦だった。戦争の最中に、しかも勝敗が定かでない段階での講和の難しさは、世界の近年の歴史で、これでもか、これでもかと明示されてきたのだ。
ただし稀ながら例外中の例外もあった。朝鮮戦争である。
1950年6月に北朝鮮軍の大部隊が突然、韓国領に攻撃をかけることで始まった朝鮮戦争はアメリカ軍と中国軍が介入して、血なまぐさい激戦が延々と続いた。アメリカは国連安全保障理事会でソ連の拒否権をうまくかわして、「北朝鮮の軍事侵略」への非難を採択させた。その結果、米軍は自由主義陣営の他の諸国をも引き込んで国連軍を結成し、北朝鮮軍と戦った。
戦闘は一進一退だったが、米韓側がかなり優勢という状態で膠着となった。そして1953年7月には休戦協定が成立して、停戦となった。
米韓側は国連という錦の御旗のために、とにかく戦闘停止という世論を高めることに成功した。。この休戦は最終的な停戦や和平ではないが、とにかく戦闘だけは止まったまま、現在にいたっている。
(中につづく)
トップ写真:英国軍が米軍と協力し、アフガニスタンの民間人とその家族を国外に避難させている様子-2021年8月21日、 アフガニスタン、カブール
出典:MoD Crown Copyright via Getty Images




























