【W杯】データが解き明かす 因縁のオランダ戦に潜む日本代表の勝機
執筆者:松永裕司(Forbes Official Columnist)
【本稿のポイント】
・オランダはW杯グループステージで16試合連続無敗(12勝4分)と、現在進行形では世界最長の無敗記録維持。初戦に限っても9試合連続無敗で、この「負けない組織構造」が日本にとって最大の壁。
・日本は前回2022年大会で欧州勢に3戦無敗。”欧州キラー”としての自信に加え、W杯初戦も2連勝中で「初戦の勝ち方」を学習済み。
・攻撃の質は対照的で、オランダはデパイ依存のスター中心型、日本は久保・伊東・上田の3人が二桁得点に関与する分散型。死の組グループFにはスウェーデン・チュニジアも。
FIFAワールドカップ北中米大会が11日(日本時間12日)、ついに開幕した。日本代表は14日(日本時間15日)、テキサス州ダラスでグループF初戦のオランダ代表戦に臨む。歴史と実績で上回る相手に、いまの日本はどこに勝機を見いだせるのか。Forbes Official Columnist・松永裕司が、Opta by Stats Performの緻密なファクトデータをもとに、両チームの現在地を読み解く。(Japan In-depth編集部)
FIFAワールドカップ北中米大会が6月11日(日本時間12日)、いよいよ開幕となった。ホスト国アメリカは初戦4-1でパラグアイに快勝。カナダはボスニア・ヘルツェゴビナ相手に1-1と引き分け、W杯初の勝ち点を記録した。
14 日(同15日)には、テキサス州ダラスにてグループF、注目の日本対オランダ戦が行われる。この対戦をStats Perform社のOptaが提供する緻密なファクトデータをもとに、両チームの現在地、そして激戦必至のグループFの行方を紐解いてみよう。
◆スタッツ比較
| 指標 | オランダ代表 | 日本代表 |
| W杯出場回数 | 通算12回 | 8大会連続・通算8回 |
| W杯最高成績 | 準優勝3回 | ベスト16(過去4回) |
| W杯通算勝率 | 54.5%(歴代3位) | 25戦7勝 |
| 直近の傾向 | W杯GSで16試合連続無敗中 | 前回大会は欧州勢に3戦無敗 |
◆オランダ代表が誇る「負けない」組織構造
「無冠の帝王」とも称されるオランダだが、世界のトップに君臨し続けている事実はデータが証明している。今大会で通算12回目の本大会出場を果たすオランダは、W杯において優勝経験がない国としては最多となる3度の準優勝(1974年、1978年、2010年)を誇る。
特筆すべきはその高い勝率。W杯通算55試合で30勝を挙げ、勝率54.5%(PK戦を除く)を記録している。W杯の長い歴史において、この数値を上回るのは王国ブラジル(66.7%)とドイツ(60.7%)のわずか2カ国のみ。オランダがいかに高い基準でパフォーマンスを安定させているかがわかる。あと4ゴールで、W杯通算100得点という偉大なマイルストーンにも到達する。
さらに日本にとって最大の障壁となるのが、オランダのグループステージにおける絶対的なレジリエンス。現在、W杯のグループステージでは16試合連続無敗(12勝4分)という、現在進行形としては最長の無敗記録を維持している。オランダが最後に同ステージで敗れたのは、実に32年前、1994年アメリカ大会のベルギー戦(0-1)まで遡る。本大会の初戦に限定しても現在9試合連続無敗(7勝2分)であり、1938年大会のチェコスロバキア戦(0-3)を最後に黒星を喫していない。
ちなみに、1994年に最後にグループステージで敗北した際の代表監督はディック・アドフォカートだが、アドフォカートは今回、キュラソー代表を見事W杯初出場に導いている。
◆欧州キラーとしての自信 変革期を迎えた日本代表
対する日本代表は、1998年大会での初出場から8大会連続出場という、アジア圏における確固たる地位を築き上げた。アジアの国で日本より連続出場記録が長いのは韓国(11大会連続)のみ。
日本は過去に4度(2002年、2010年、2018年、2022年)ベスト16に進出している。しかし、同時に「ベスト8入りを果たしていない国の中では、最多の出場試合数(25戦)」という、ガラスの天井にぶつかり続けているデータも存在する。W杯通算成績は25試合7勝6分12敗(25得点33失点)である。この「ベスト16の壁」の突破こそが、現在の日本代表における最大のミッションだ。
しかし、近年の日本は明確な変革期を迎えている。前回2022年大会において、欧州の国相手に3戦無敗(2勝1分)という驚異的な結果を残したのだ。グループステージでW杯優勝経験国のドイツとスペインを立て続けに撃破し(各2-1)、ベスト16でもクロアチアと1-1の引き分け(PK戦の末敗退)という死闘を演じた。
両国のW杯本大会での対戦は、ウエスレイ・スナイデルの一撃に沈んだ2010年大会(0-1)以来、通算2回目。国際Aマッチでのオランダ戦通算3試合で日本は未勝利(1分2敗)だが、現在の日本は“欧州キラー”としての強固なマインドセットを備えている。加えて、W杯初戦に関しても現在連勝中(2018年コロンビア戦、2022年ドイツ戦各2-1)であり、これはそれ以前の5大会初戦で記録した勝利数(1勝1分3敗)をすでに上回っている。組織としての初戦の勝ち方はすでに学習済みと言える。
◆攻撃KPIの比較 オランダの属人化、日本の分散型
ピッチ上の戦術データを比較すると、両チームの得点創出プロセスにおける明確な違いが見て取れる。
オランダの攻撃の中枢を担うのは、メンフィス・デパイ。デパイの国際Aマッチ通算得点は、オランダ代表選手として歴代最多の55点に達している。アシスト数も1978年W杯以降の代表選手の中で最多の35を記録。今大会の欧州予選でも、チーム最多となる8ゴールを挙げ、アシストもコーディ・ガクポと並ぶトップの4アシスト。デパイは540分の出場で12得点に関与しており、特定の傑出した「個の才能」への依存度が高い、いわばスタープレイヤー中心のチームとも言える。
一方の日本は、リスクと成果を分散させた多角的な攻撃ネットワークを構築している。今大会のアジア予選において、日本は全体最多となる54得点(不戦勝となった北朝鮮戦の3-0を含む)を叩き出し、開催国を除いて世界で一番初めにW杯出場を決めた。
この圧倒的な攻撃力の源泉は、二桁得点に直接関与した3人のキーマンにある。久保建英(4ゴール8アシスト)、伊東純也(1ゴール10アシスト)、そして上田綺世(8ゴール2アシスト)である。 1つの予選で3人もの選手が10得点以上に関与するのはアジア全体でも最多。どこからでも致命傷を与えられるこの分散型システムは、相手のスカウティングと守備構築を極めて困難にするだろう。
◆指揮官の哲学と激戦のグループF
長期的なビジョンを持ったリーダーの存在も、現代サッカーには欠かせない。日本の森保一監督は、日本代表史上唯一、国際Aマッチを100試合指揮している監督であり、2大会でワールドカップ出場を勝ち取ったのもただ一人。この長期政権によるブレない哲学と戦術の浸透は、チームに強固な心理的安全性をもたらしている。
対するオランダのロナルド・クーマン監督は、現役時代に1990年、1994年のW杯に出場しているレジェンドだが、指揮官としてW杯の采配を振るうのは今回が初めて。しかし、ユーロ2024ではチームをベスト4に導いており、トップレベルでの勝負勘に疑いの余地はない。
両者がぶつかるグループFは、少しの油断が命取りとなる死の組だ。
同グループのスウェーデンは通算13回目の出場であり、本大会に出場した直近4大会(1994、2002、2006、2018年)は全て決勝トーナメントに進出している実力国だ。イングランド人のグレアム・ポッター監督が指揮を執り、欧州予選プレーオフではヴィクトル・ギェケレシュが4ゴールを挙げポーランドなどを撃破した。
さらにチュニジアは通算7回目の出場で、アフリカ予選を無失点のまま9勝1分という驚異的な守備力で首位通過している(アフリカ予選を無失点で終えたのはチュニジアとコートジボワールのみ)。前回大会でもグループステージの総失点数を全体最少タイの1点に抑えており、1978年にはアフリカの国として初めてW杯で勝利(対メキシコ:3-1)した歴史を持つ。
歴史とデータは、グループステージ16戦無敗の「オランダの優位」を強く示唆している。しかし、54ゴールを生み出した日本の緻密なネットワークが、その分厚い壁の脆弱性を突く可能性は十二分にある。過去の延長線上に留まるか、それとも新たなデータを書き加えるか。 新しい景色を目指す日本代表にとっても、いよいよ運命の幕開けとなる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年のワールドカップ(北中米大会)はどこで、どんな方式で開催される?
FIFAワールドカップ史上23回目で、初めて48カ国が出場する大会。米国・カナダ・メキシコの3カ国による初の共催で、決勝は7月19日。48カ国は4カ国ずつ12組に分かれてグループステージを戦う。
【出典】FIFA World Cup 2026™(FIFA)
Q2. 今大会から決勝トーナメントはどう変わった?
出場国が前回の32から48に拡大したことに伴い、決勝トーナメントは新たに「ラウンド32」から始まる方式になった。
【出典】同上
Q3. 記事の数値の出典「Opta(Stats Perform)」とは?
世界的なスポーツデータ・分析会社で、サッカーの試合データ(得点・アシスト関与、勝率、無敗記録など)を提供している。本記事に登場する数値はすべてこのOptaのファクトデータに基づくもの。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真)ダラス・スタジアムで行われたFIFAワールドカップ2026グループFのオランダ対日本戦を控えトレーニングする日本代表 テキサス州ダラス 2026年6月13日
出典)Koji Watanabe / GettyImages
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この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。
出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

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