なぜペルー人が戦場へ?ロシア軍による外国人「就労詐欺」
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#18
2026年5月4-10日
■本稿のポイント
・ロシア軍が兵員不足を補うため、外国人を「高待遇の就労募集」で誘い、実際には戦場へ送る事例が拡大している。
・ペルー人動員問題は、ロシアの外国人兵士獲得が中南米にまで広がっていることを示している。
・イラン情勢では、米国とイランが妥協の兆しを見せつつある一方、根本的な核問題は未解決で、将来的な再衝突リスクが残る。
ロシア軍による外国人兵士の動員が、就労詐欺に近い形で拡大している。背景には、ロシア国内で深刻化する兵員不足がある。今回はペルー人が高額報酬の仕事を装って勧誘され、戦場へ送られた疑惑が浮上した。一方、中東では米国とイランの核交渉に妥協の兆しも見えるが、キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏は、イランの核開発という火種は解決していないと指摘している。(Japan In-depth 編集部)
遺憾ながら、今週も原稿掲載が遅れてしまった。「サボった」というよりは、ゴールデンウィーク(GW)中に書いてもウェブ上に掲載できず、意に反して「遅らせた」というのが真相である、ということにしておこう。すいません。
さてさて、今次(つまり第二次)のイラン戦争も、漸く「一休み」に合意する時期に入りつつあるようだ。しかし、仮にそうであっても、ここからが本当の外交交渉であり、合意までに相当時間がかかっても決して驚かない。イラン戦争の行方については後述するとして、まずは今週の筆者の関心事から始めよう。
ロシア軍、外国人動員を拡大
次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「兵員不足のロシア軍、今度はペルーから動員――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアがロシア軍の兵員不足を如何に見ているか知る上で実に興味深い。
兵員不足に苦しむロシア軍による外国人の動員は、就労を装った形で拡大している。これまでもインドやネパールをはじめ、高額報酬をうたう求人で労働者を募集し、到着後に前線へ送る手法が度々指摘されてきたが、特に昨年秋以降、こうした事例が急増している。
出身地はアフリカや東南アジア、キューバなど数十カ国に及び、一部では外交問題にもなっている。そうした中、今回明らかになったペルーの事例は、この動きが歴史的にロシアと関係の深いキューバ以外の中南米にも広がっていることを示すものといえる。プーチン政権はこれまで破格の給与等でロシアの貧しい地域などから兵員の補充を行ってきたが、それが限界に近付きつつある可能性がある。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」が詳細を伝えている。
◆「ペルー人らが料理人、警備員、タクシー運転手として勧誘。ロシア到着後はパスポートを取り上げられ戦場へ」
5月3日付メドゥーザ(要約)ペルーの検察は5月1日、同国民が騙されてロシアに誘われ、ウクライナとの戦争に送られたとされる件について、親族からの訴えを受けて予備調査を開始した。
2025年10月以降、ペルーからロシアへ約600人が渡航したとされ、すでに135件の行方不明届が提出されているが、この数字はさらに増える可能性がある。
ウクライナとの戦闘で死亡したペルー国民は、分かっているだけで13人。警備や技術者、料理人、タクシー運転手として、月額2600ドル〜4000ドルという待遇(ペルーの平均賃金を数倍上回る)と2万ドルの「ウェルカムボーナス」が約束されていたが、最終的には支払われなかったとされる。
現地メディアによると、彼らはロシアに到着すると、書類を没収され、短期間の軍事訓練の後戦場に送られたとされる。ペルー外務省は、この状況についてロシアの臨時代理大使を呼び出し、ロシア当局に対してペルー人の所在と健康状態に関する情報提供を求めた。また、ペルー国民が外国の軍に従軍するには当局の許可が必要である点を強調した。
米・イラン交渉に妥協の兆し
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については今週も、米国とイランの「チキンゲーム」、というか「我慢比べ」が「漸く終結に近付き始めた可能性があるのでは・・・」、という何とも「奥歯に物が挟まった」表現をご容赦願いたい。筆者自身、まだ完全には楽観的になれない。トランプ氏の発言だけでは「何も動かない」と思っているからだ。
各種報道によれば、トランプ氏は6日(現地時間)、来週の中国訪問(14~15日)前にも「イランとの合意が導き出される可能性がある。米国はイランが濃縮したウランを確保する。イランの核プログラムに関連する可視的な成果を盛り込んだ合意を導き出す。合意が決裂した場合には軍事行動を再開する」などと述べたそうだ。
トランプ発言は具体的には、
- (「イランとの合意が迫っているのか」という質問に対し)そう考えている、合意に達する可能性が非常に大きいと考えている。
- (「訪中前に合意が成立するか」との問いに対し)可能だ。しかし、以前にも彼らと(交渉する際に)そのような感じがしたことがあったので、どうなるか見守らなければならない。
- 合意に至らないのであれば、我々は再び彼らを激しく爆撃しなければならないだろう」。
- (「イランの高濃縮ウラン備蓄分をおそらく米国へ搬出するという内容が合意の一部に入り得るか」という質問に対し)「おそらく」ではない、それは米国に送ることになる。
- (「核濃縮中断期間後、3.67%水準のウラン低濃縮を許容するのかとの問いに対し」ノー、彼らは(イランのウラン濃縮猶予(モラトリアム))として長い間、信頼構築の観点から(核関連措置を)履行することになるだろう。
- (イランが核プログラムに関連する要求を受け入れて合意が成立した場合)対イラン制裁などを緩和することになるだろう。
これをいつもの「対マーケット楽観論」と切り捨てることは可能だが、今回はちょっと違うかもしれない。「ウラン濃縮」と「制裁解除」にも言及があるからだ。でも、これって何のことはない、結局2015年の「イラン核合意(JCPOA)」に戻っている、いや、より正確に言えば、JCPOA+(プラス「ホルムズ海峡開放問題」)ということではないのか。
そうであれば、一体何のためにトランプ氏はJCPOAを破棄したのか、何のためにイランと戦争をしたのか。これらが問われることになるので、トランプ氏も簡単に譲歩する訳にもいかないだろう。
先週は、「最後にはイランがblink(まばたきする、すなわち譲歩)するか、それとも米側がblinkするかの戦いなのか?こんな神経戦が今後2〜3週間続く可能性がある」と書いたが、どうやら、双方が少しずつblinkし始めたようである。
いずれにせよ、仮に米側が妥協して停戦が延長され、一時的にホルムズ海峡が開通したとしても、イランの核開発という火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という従来の筆者の見立ては今も全く変わらない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
■ FAQ(よくある質問)
Q. JCPOA(イラン核合意)とは何ですか?
イラン核合意 は、2015年にイランと米欧中露などが結んだ核合意です。イランが核開発を制限する代わりに、各国が経済制裁を緩和する内容でした。2018年にトランプ政権が離脱したことで崩れました。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
■ シリーズ紹介・バックナンバー
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トップ写真:2026年5月15日にウクライナのスロヴィアンスクで、ロシアのドローン攻撃により車両が炎上する様子
出典:Photo by Pierre Crom/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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