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.国際  投稿日:2026/5/20

高市首相の訪韓と英国地方選挙が示す保守化の潮流


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#20

2026年5月18-24日

 

■本稿のポイント

・韓国内政の「保守化」の流れを背景に、日韓関係の成熟化が進んでいる可能性が高い。

・英国地方選挙で右派「リフォームUK」が大勝する一方、ウェールズ・スコットランドでは左派ナショナリズム政党も勝利し、既存政治エリートへの不満票が極右・極左双方に流れる構図が鮮明に。

・トランプ訪中についてロシアのメディア・識者は「中国の実質的勝利」と評価。

・ガザ・中東ではイラン戦争停戦交渉が停滞。筆者は「第三次イスラエル・米・イラン戦争の再発は遠くない」との見立てを維持。

 

高市早苗首相が韓国・安東を訪問し、李在明大統領と首脳会談を行った。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹を務める宮家邦彦氏は、韓国「386世代」の退潮と若者の保守化を背景に日韓関係は成熟化しつつあると指摘。また英国地方選挙での既成政党の惨敗やトランプ訪中後の米中関係について、ロシアの識者・メディアの分析を交えながら今週の国際情勢を読み解く。(Japan In-depth 編集部)

 

日韓関係はなぜ成熟化しつつあるのか?

今週は高市首相の訪韓があるので、まずは日韓関係から始めよう。筆者の日韓関係に関する見通しは、条件付きながら、かなり楽観的だ。朝鮮半島は専門ではないが、日韓関係について筆者が常に言っていることは、

 

・冷戦後の韓国内政で顕著だったのは、「386世代」と言われる反米・反日・親中・親朝・左派系のジェネレーションの登場だった。

・彼らの言動は、日本で言えば70年代に一世を風靡した中核派・革マル派などを含むいわゆる「新左翼」の世代、いわゆる後期「団塊世代」の政治行動に似ている。

・日本の場合は、21世紀に入り、この「団塊の世代」が表舞台から徐々に引退し始めるに従い、社会の保守化が進んでいった。

・安倍晋三政権2期目が始まったのは丁度その頃で、保守から見れば、全般に「左に寄っていた」日本内政の重心が徐々に「センター」に戻ってきた時期と重なる。

・中核・革マル派の世代が第一線から退き始めたため、左派的傾向の強かったメディアや政界も含め、左派の「退潮」が徐々に始まったのである。

・あくまで仮説であるが、もしかしたら、そのような過程が今韓国でも起きているのではないか。そうだとすれば、いずれ韓国内政も保守化が進むのではないか。

・但し、それは一朝一夕には進まない。なぜなら、残念ながら、日本の新左翼の世代に相当する386世代は、今もまだ平均年齢が50代であるからだ。

・逆に言えば、「団塊の世代」より20歳以上若い「386世代」はまだまだ元気、されば韓国内政の保守化は、もう20年ほど後になるのではないか・・・。

・ところが、最近の状況を見ていると、韓国内政の保守化は必ずしも20年待つ必要はなくなっているのかもしれない。

・90年代以降のIT革命と新資本主義による格差の拡大というグローバルな現象は韓国にも起きており、「若者たち」の保守化が日本以上に進んでいると思うからだ。

・逆に言えば、韓国内でも「反日」が昔のような有効な政治的手段ではなくなりつつあるのではないか・・・・。

・そうだとすれば、今後も様々な揺り戻しはあるだろうが、日韓関係は徐々に成熟化している可能性が高いだろう。今回の高市訪韓もその一環であると信じたい・・・。

 

以上を前提に、今回の高市訪韓を見てほしい。何ら共同文書が発表されなかった米中首脳会談に比べれば、日韓首脳会談は双方のプロフェショナルな外交当局が周到な準備をしたようで、それなりに中身がある。一昔前とは隔世の感がある。

 

英国地方選挙が示した不満票の流れ

今週はもう一つ、重要な話がある。トランプ訪中の裏番組であまり注目されなかったが、英国地方選挙で、反移民を掲げる右派政党「リフォームUK」が労働党を破り大勝する一方、ウェールズとスコットランドでは、それと対照的な「進歩主義的(左派的)ナショナリズム」政党も勝利を収め、スターマー首相率いる労働党が惨敗したのだ。

 

小選挙区制による二大政党制だと思っていた英国で何故こんなことが起きるのか。要するに、90年代以降のIT革命と新自由主義資本主義による格差拡大により生まれた「忘れ去られた人々」の不満票は、少なくとも英国では極右ナショナリズムだけでなく、極左ナショナリズムにも流れているということらしい。

 

逆に言えば、この90年代以降の政治的傾向は、左右の既存「政治エリート」のクレディビリティを今も直撃しているのかもしれない。この点は重要なので、次の機会に詳しく論じたいと思う。

 

トランプ訪中をロシアはどう見たか――「中国が米国の対等な競争相手になった」

さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「米トランプ大統領訪中をロシアはどう見たか――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。ロシア国内での「米中関係」に関する見方が様々あることを示す点で実に興味深い。

 

米トランプ大統領の訪中と習近平国家主席との首脳会談は、ロシアでも比較的重要な国際ニュースとして扱われたが、その結果については、例えば政府公式紙『ロシア新聞』は、アジア各国メディアの反応として、「“ビッグディール”への懸念は現実にならなかった」「儀礼的要素は多かったが、具体的成果は限られていた」と報じた。『独立新聞』も、「トランプは勝者とは言い難い形で中国訪問を終えた」といった記事を掲載した。

 

ロシアの識者の論調としては、中国専門家として著名なガブエフは、「トランプは中国からほとんど何も持ち帰ることができず、むしろ今回の会談は、中国が米国の対等な競争相手になったという“新たな現実”を確認する出来事となった」とする論考を発表している。

 

また、会談に先立ち、ロシアを代表する国際政治学者ルキヤノフも論考を発表していた。彼の論点は、世界が米国中心秩序から新たな秩序への再編期にあり、その流れは不可逆だという点にある。その中で米国は長期的秩序維持よりも、移行期における短期利益の最大化へと行動原理を変えつつあり、世界秩序に関わるような大規模取引はもはや難しいと指摘する。そのため今回の米中会談も、包括的合意ではなく、現状維持のための限定的な取引の範囲にとどまるはずだと論じた。

以下にそれぞれの論点を簡単に紹介したい。

 

◆「行き詰まりから利益を得る――トランプ訪中後米中関係はどこへ向かうのか」、アレクサンドル・ガブエフ(ベルリン・カーネギー・ロシアユーラシアセンター所長)、同センターウェブサイト、5月17日掲載(要約)

 

・今回のトランプの中国訪問は、中国側がその目的を明確に理解していたのに対し、米国側は必ずしも明確ではなかったことを浮き彫りにした。

・トランプは中国からほとんど何も持ち帰ることができず、むしろ今回の会談は、中国が米国の対等な競争相手になったという新しい現実(=米中の均衡)を確認する出来事となった。

・今後アメリカに有利な方向へ変化する可能性はある。しかし現時点では、米中間競争において、時間は中国側に有利に働いているように見える。

・背景の一つは、中国側がトランプ政権を徹底的に分析し、2025年の貿易戦争では、中国が地経学的抑止の武器(レアアース規制)を使いこなす術を身につけたことがある。

・もう一つは、米国自身の政策によるものである。トランプ政権下で、AUKUSなどバイデン政権が築いた対中戦略の基盤や同盟関係は弱体化し、半導体などの技術安全保障も交渉のひとつの材料と化した。人材削減によって政府内の対中専門家も減少し、本来なら数年に一度の重要な首脳訪問が十分に準備されないまま行われた。結果として、中国は国際秩序における対等な大国として映ることになった。

・習近平が提起した「建設的戦略的安定関係」が何を意味するかはまだ不明だが、中国側はこれを現状維持、相互の否定的措置の回避、そして競争を前提に妥協点を探る枠組みとして理解しているようだ。同時に習近平は、台湾独立支持と台湾海峡の安定を損なう行動が中国側のレッドラインであることを改めて示した。

 

◆「約束は金より安いのか?――5月の米露両首脳の訪中は、世界の変化を示すことになる」、フョードル・ルキヤノフ(外交・国防政策評議会議長)、経済誌『プロフィール』4月29日掲載、(要約)

 

・世界は冷戦後の米国中心の自由主義秩序が機能しなくなり、新たな秩序への再編のさなかにあり、その過程は不可逆である。その中で米国(トランプ政権)が目指していることは、移行期における最大限の利益を得ること。これまでの米国は、国際秩序維持のための投資など、長期的戦略的な利益に依拠してきたが、今はより短期的戦術的な利益を得ようとしている。こうした流れはトランプ後も変わらない。

・そのような中、今回の米中首脳会談で、新しい秩序で合意できると期待することはできない。米国はもはや今後の世界秩序に関わるような大規模な取引をできる状況にないからだ。米国ができるのは、世界秩序そのものを固定する包括的合意ではなく、個別的、課題ごとの限定的・短期的な取引である。

・中国も、これまでアメリカとの間に秩序を維持する妥協点を見つけることに期待していたが、その期待を転換させつつあるようだ。

・従って、5月の米中首脳会談では、中国は米国との大取引が不可能な中で、小規模なものであってもどれほどの取引なら現状を維持できるかを試すこととなる。

・そして続いて行われる中露首脳会談では、両国がアメリカの関与しない代替的なメカニズムの構築に向けて、どの程度準備が進んでいるかを測るものになるだろう。

 

今週の国際政治日程、欧米の外交専門家が注目するイベント

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

5月18日 月曜日 インド首相、ノルウェー訪問

 

5月19日 火曜日 インド首相、イタリア訪問

「グリーランドの将来」に関する民間ビジネス会合(グリーンランド)

米国アラバマ、ジョージア、アイダホ、ケンタッキー、オレゴン、ペンシルベニア州で中間選挙に向けた予備選実施

 

5月21日 木曜日 NATO事務総長、スウェーデン訪問

 

5月22日 金曜日 欧州委員会委員長メキシコ訪問

 

5月23日 土曜日 カンヌ映画祭、授賞式

 

5月24日 日曜日 キプロスで議会選挙

フレンチオープンテニス開始

イタリアで地方選挙

 

停滞するイラン停戦交渉

最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争停戦交渉は動いていない。トランプ氏は「再攻撃」など本音ではしたくないだろうが、それを知るイラン側は当然譲歩する気などない。先週書いた通り、トランプ氏は「対イラン再本格攻撃」も「一方的対イラン譲歩」もできなくなりつつあるのではないか・・・。されば、今回仮に戦火が収まったとしても、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という従来の筆者の見立ては変わらない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

■FAQ(よくある質問)

Q.英国の小選挙区制とは何ですか?

A.英国の下院選挙で採用されている選挙制度で、各選挙区で最多得票者が1議席を獲得する仕組み。死票が多く出やすい構造のため、伝統的に保守党・労働党の二大政党が議席を独占しやすい。一方、地方選挙では比例的な要素が入る場合もあり、第三党が勝利しやすい条件が生まれることがある。 

 

Q.「スターマー首相」はどんな人物ですか?

A.キア・スターマー氏は英国労働党の党首で、2024年の総選挙で保守党を破り首相に就任した。中道左派路線をとるが、今回の地方選挙では左右両翼の台頭により労働党が大きく議席を失った。

 

Q.ガブエフ、ルキヤノフとはどのような人物ですか?

A.アレクサンドル・ガブエフはベルリン・カーネギー・ロシアユーラシアセンター所長で、中国・ロシア関係を専門とする国際政治学者。フョードル・ルキヤノフは外交・国防政策評議会議長を務めるロシアを代表する国際政治学者で、ロシアの外交政策論壇で大きな影響力を持つ。

 

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

■シリーズ紹介・バックナンバー

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トップ写真:韓国・安東で行われた共同記者会見での高市早苗首相(左)と李在明大統領(右) 2026年5月19日 韓国・安東

出典:Photo by Ahn Young-Joon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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