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.国際  投稿日:2026/4/7

繰り返される石油危機 日本が中東依存を脱する「転換点」となるか


執筆:福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)

本稿のポイント

・日本は1970年代から現在に至るまで、中東情勢が悪化するたびに原油調達先の多様化を議論しながらも、依然として輸入の9割以上を中東に依存し続ける「Groundhog Day(同じことの繰り返し)」のような状況にある。

・過去に試みたベネズエラ等からの調達は現地の政情不安や環境規制により頓挫しており、米国産シェールオイルも国内の精製設備や輸送ルートの物理的制約から即座に代替とはなり得ないのが実情だ。

・現在の「唯一の希望」は中東産に近い性質を持つアラスカ原油であり、日米政府間の基本合意に基づく増産投資と国内設備の改修を進めることで、不透明な米イラン対立を依存度低減の転換点とすべきだ。

 

20264月、米国のイラン攻撃による緊張の高まりを受け、国際情勢とエネルギー政策に精通する福澤善文氏は、日本の原油調達が抱える「中東依存のループ」に警鐘を鳴らす。過去の多角化の失敗を教訓に、現在はアラスカ原油の活用など具体的な日米合意が進められている。出口の見えない米イラン対立の中、日本はいま度重なる危機から脱却する大きな転換点に立たされている。

(Japan in-depth編集部)

 

繰り返される石油危機と日本の「Groundhog Day

1993年に公開されたビル・マーレイ(Bill Murray)主演の映画『Groundhog Day』では、春の訪れを告げる祭事開催の2月2日の朝6時00分から翌朝5時59分の間に何度も同じ事が繰り返される時間帯に取り残された男性が、自己中心的な性格を改めて行く姿が描かれている。このGroundhog Dayという言葉は同じ事の繰り返しという意味で日常使われることもある。

米国のイラン攻撃により、世界的な石油危機に見舞われている日本はいまやGroundhog Day状況だ。どういうことかというと、1970年代以降、中近東での政治不安定化により石油危機が発生する度に、日本の輸入原油の94%近くを中近東からの調達に偏っているという事実がクローズアップされ、調達先を多様化しなければならないという議論が再燃される。

中近東危機、日本の原油不足、そしてガソリン価格と石油関連製品の値上げ、そして将来への懸念というループの繰り返しだ。中東で戦争が始まり、また石油危機か、と思った人も多いだろうが、第一次石油ショックが起きてから半世紀たった今も相変わらず、中東にほぼ全面依存している日本のエネルギー政策には驚かされる。

 

なぜ日本の原油調達多角化は進まなかったのか?

もっとも1990年代に日本の大手商社がベネズエラからの超重質油(オリマルジョン)の輸入を試みたこともあり、2011年には同じく日本の大手商社が融資と引き換えに軽質油の調達をベネズエラと契約も行った。前者は関西電力、北海道電力で火力発電の燃料としての実証実験が行われたものの、環境汚染の懸念が加わり、結局はベネズエラ政府の生産停止で頓挫した。後者は同国の政情不安と米国の同国に対する制裁強化で、2017年の輸入を最後に停止状態だ。

世界最大の産油国である米国からの石油はあてにできないのかというと、超軽質油であるシェールオイルは日本の精製所では中東の軽中質油とは違い、ガソリン以外のディーゼルオイル、軽油などの抽出は難しいようだ。しかも積出港がメキシコ湾沿いであるため、パナマ運河を通行するか南米の南端を回って輸送するしかない。

前者の場合、日本が中東原油を運ぶ2030万トン級の超大型タンカー(Very Large Crude Carrier=VLCC)ではパナマ運河を通航するのは不可能なため、積み替え作業が必要になる。後者は更にコストと時間がかかる。

 

アラスカ原油は日本の「唯一の希望」か?

唯一の希望は中質油で中東原油に近いアラスカ原油だ。このアラスカ原油については日米政府間でその増産、開発のための日本からの投資について基本合意ができており、官民合同での米国との具体的な詰めが急がれる。同時に中東原油に特化した国内の精製設備を、アラスカ原油向けへ転換させるという日本側の受け皿の改修も必要だ。今回の中東危機は、長年懸案であった中東への原油依存度を減らす上で日本にとっては、大きな転換点だ。

それにしても今回の米国とイランとの対立はこれまでの中東危機と比べて、異質であり、極めて深刻で、しかもその成り行きは不透明だ。トランプ大統領がイランとの話し合いはうまく行っていると言えば、他方でイランは話し合いなどしていないと発表し、この両国の対立は収まる方向へ行っているのか、それとも激化しているのか、よくわからない。

米イラン対立の不透明な行方をどう見るべきか?

この不透明さを量子力学での思考実験『シュレディンガーの猫(Schroedinger’s Cat)』にたとえることができる。『シュレディンガーの猫』とは簡単に言えば、猫と、毒ガスを発生する可能性のある装置を外からは見えない箱に入れ、箱を開けるまで猫が生きている状態なのか死んでいるのかがわからない――つまり相反する状態が重なり合って存在する状況を指す。

米国とイランの対立状況の行方について、全く見当がつかない状況はまさに「イラン版シュレディンガーの猫」状態ということになる。つまり米国とイランの対立する箱には、戦争は終結する方向で進んでいる状況と益々エスカレートしている状況が同時に存在しており、先行きが見えない中、世界中の人たちの不安を招いている。

今後、中東情勢が改善したとしても、悪化したとしても、中東への原油依存度があまりにも高すぎる日本は、今回こそは原油調達先の多様化を実現させなければならない。今後、中東危機が起きるたびに狼狽することが無いように。

 

■石油危機の本質を知るためのFAQ

Q1:なぜ日本は今も原油の9割以上を中東に依存しているのですか?

A1:地理的・コスト的要因に加え、日本の精製設備が中東産原油(軽中質油)に特化しているためです。他地域からの調達には設備改修や輸送コストの壁があります。

Q2:米国産シェールオイルを輸入すれば解決するのではないでしょうか?

 A2:シェールオイルは超軽質油であり、日本の設備ではディーゼルオイルや軽油の抽出が難しいため、そのままでは完全な代替になりにくいのが現状です。

Q3:「アラスカ原油」が期待される理由は何ですか?

A3:アラスカ原油は中東原油に近い「中質油」であり、日本の既存設備に適応しやすいためです。現在、日米間で増産投資の基本合意が進んでいます。

Q4:過去にベネズエラ等からの調達を試みた例はありますか?

A4:1990年代や2011年に試みられましたが、現地の政情不安や環境規制、米国の制裁強化などにより現在は停止状態にあります。

Q5:「シュレディンガーの猫」状態とはどういう意味ですか?

A5:量子力学の用語で、観察するまで状態が確定しないことを指します。現在の米イラン対立も、緩和と激化の可能性が重なり合い、結末が予測不能であることを例えています。

 

シリーズ・アーカイブの紹介                 

本連載は、複雑な日本社会や政策の課題を独自の視点で読み解く福澤善文によるシリーズです。個別のトピックを超えて読み進めることで、複雑に絡み合う現代の論点を立体的に理解することができます。

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トップ写真)神戸市のガソリンスタンドに掲示された燃料価格表示の写真。政府が価格高騰に対応するため石油備蓄の放出を決定したことを示している。

出典)Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師

1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。


過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。

福澤善文

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