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.国際  投稿日:2026/3/19

消耗戦か米国による平和か、或いはイランによる平和か?:中東戦争の3つのシナリオとエネルギー政策


執筆:杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)


■ 本稿のポイント

・アメリカ政府は、イランの軍事力に大きな打撃を与えつつあり、中東からのエネルギー供給も回復に向かうことに期待を示している。

・これを受けて、日本政府の対応は、備蓄放出、光熱費補助など、短期的なショックを緩和することに重点が置かれている。

・だが、戦争が長期化したり、イランの勝利に終わる場合に備えて、原子力の再稼働、石炭の利用拡大などを強力に推進すべきだ。

 

2026年2月末の対イラン攻撃以来、中東のエネルギー供給は危機にあります。キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志が、執筆時点(3月19日)の戦況から予測される「消耗戦」「米国主導」「イラン主導」の3シナリオを検証。原油・LNGの供給途絶に備え、原子力再稼働など現実的なエネルギー政策への転換を訴えます。(Japan In-depth編集部)

 

アメリカとイスラエルがイランに対して軍事攻撃を始めたのが2月28日。執筆現在3月19日である。今後について3つのシナリオを提示して、エネルギー政策の在り方を考察したい。

この戦争の最初の20日間は、イスラエルとアメリカ空母機動部隊によるイランへの長距離爆撃、それから双方によるミサイルとドローンの応酬、それへの迎撃であった。ホルムズ海峡が事実上封鎖されるなどの影響で、中東からの石油輸出は大幅に減少する事態になった。

現状の理解としては、米国政府がたびたび表明しているように、米軍がイランの軍事力に大きな打撃を抑えることで、戦局を有利に進めている、とするものがある。その一方で、イランはミサイル・ドローンを利用する非対称戦略によって戦略的には有利に立っているとするものがある(例えば、Larry Johnson, https://sonar21.com/

 

第1のシナリオ:「消耗戦」

このシナリオでは、この最初の20日間の状態が今後も長い間続くことになる。すなわち、双方は長距離爆撃やミサイル・ドローンの応酬を続けるが、決定打には至らず、戦況は大きく変わることはない。これによって、中東からのエネルギー・資源、すなわち原油、LNG、ナフサなどの石油製品に加え、尿素、肥料、ヘリウムなどの化学製品の輸出は大打撃を受け続けることになる。

ただし、ロシアとウクライナの戦争のように、この状態が4年もの間にわたって長く続くことはないだろう。なぜならば、ロシアとウクライナはいずれも大陸にある巨大な国家であり、縦深である。すなわち資源も食料も豊富で、インフラを攻撃されても、回復力はある。また陸続きの友好国から補給を受けることもできる。

イランについても、西ヨーロッパ全体よりも広い国土を有しており、食料も水もあるため、ウクライナと同様に、長期の消耗戦に十分耐えることができる。

これに対して、GCC諸国は極めて脆弱である。そのエネルギー産業や観光産業、金融産業はすでに打撃を受けており、今後、エネルギー・水供給インフラなどが一層の攻撃を受け続けると国家経済は深刻に落ち込むことになる。富裕層は海外に逃避し、出稼ぎ労働者は帰国するだろう。

イスラエルも国土は狭く、ミサイルやドローンの攻撃によって、エネルギーインフラ、水供給インフラ、港湾や空港機能が破壊されると、国民の脱出が止まらず、経済機能が麻痺するという危機的状態に追い込まれる可能性がある。

 

第2のシナリオ:「アメリカによる平和」

このシナリオでは、アメリカのイランへの攻撃が熾烈を極めて、これ以上の国土の荒廃を回避するために、イランが停戦を模索する。

アメリカとしても、戦争の長期化は避けたいので、トランプ政権は勝利を宣言して攻撃を停止する。イスラエルも、やはり国土の荒廃を回避することを優先して、この停戦に応じる。

この場合、GCC諸国の経済活動は回復に向かい、中東からの石油などの資源輸出も回復に向かうであろう。破壊された設備は修復に時間がかかり、また停止した設備は運転再開に時間がかかる場合はあるが、一時的な原油価格高騰の後、資源の価格は徐々に下がってゆくことになる。

 

第3のシナリオ:「イランによる平和」

このシナリオでは、まずアメリカは手詰まり状態に陥る。すなわち、イランにおいて軍艦などの軍事目標を多くは破壊したものの、イランが地下に格納しているミサイルやドローンを使って攻撃する「非対称戦争能力」をくじくことができない。

このため、イスラエルもGCCも絶え間ないミサイル・ドローン攻撃に苛まれ続け、経済状態が極めて悪くなる。

ここで中東との経済関係、就中(なかんずく)、石油・ガス輸入を重視する中国とインド、そしてイランを支援するロシアが仲介に入る。その支持を得てイランはGCC諸国に圧力をかけ、米軍に攻撃を止めさせる。トランプ政権は、軍事的な勝利を収めたと宣言して攻撃を停止する。

イランは、GCC諸国に対して、その貿易を認める代わりに、安全保障など何等かの名目で一定の金額を支払わせる。GCC諸国はこの原資を石油輸出収入などで賄う。イランにとってはこれは事実上の賠償金であり、破壊された国家の再建に使用する。この取り決めによって、米国およびその同盟国とみなされた国以外への中東からの資源輸出は再開する。

疲弊したイスラエルはロシアの仲介によりイランとの交戦状態を停止する。

 

日本のエネルギー政策をどうするか

さて以下では、3つのシナリオに基づいて、日本のエネルギー政策の在り方について検討しよう。

まず中東からのエネルギー・資源の供給については、

1 消耗戦:       大規模な途絶

2 アメリカによる平和: 完全な再開

3 イランによる平和:  部分的な再開

となる。

ただし3については、もともと中東からの原油輸出の約半分は中国・インド向けであり、その他のアジア・アフリカ向けも多いことから、むろん「同盟国」に日本や欧州がどこまで含まれるかには依存するものの、いずれにせよ供給の大半は再開されるということになる。

加えると、「米国および同盟国」への迂回輸出も起きるであろうし、また、世界規模での需給が緩和されることから、完全な供給途絶に比べると、日本にとって対処はしやすくなる。

さていま米国政府はシナリオ2「アメリカによる平和」を目指している。日本政府も、米国および日本の主要メディアも、本心は半信半疑なのかもしれないが、だが公式には、この将来像を前提としているようにみえる。

だがそのために、日本政府の対応が不十分になっているのではないか。というのは、日本政府としては、いまの原油価格高騰はシナリオ2に移行する前という一過性のものであると認識し、備蓄放出、光熱費補助、買い占めや売り惜しみの監視といった形で、短期的な影響を最小限に抑える政策に力点が置かれているからだ。

しかしシナリオ1「消耗戦」が続くなか、早くも、日本よりも脆弱なアジアやアフリカの諸国での燃料不足パニックが広がっている。これが報道されることで、早晩、日本にもパニックが飛び火することは避けられないのではないか。

あるいはシナリオ1「消耗戦」が1年程度の長期にわたり続いたうえにシナリオ3「イランによる平和」に移行する場合はどうか。この場合、供給力の回復にも1年程度の時間を要するかもしれない。

その間の供給途絶に予め備えるためには、いますぐに、中東を代替する供給力を確保する施策を講じる必要がある。

すなわち:

・安全規制の法改正をして、可能な限り早く原子力の再稼働をする。原子力を稼働させることによるリスクよりも、稼働させないことのリスクを重視すべきである。

・中東以外からの石油・石炭・ガス、さらには石油製品や化学原材料の調達を進めること。これを円滑に進めるためには化石燃料利用を制限する脱炭素関連の法令の撤廃を宣言すべきである。

https://japan-indepth.jp/?p=90389

また、止めるべきこともある。

・光熱費補助、就中(なかんずく)、ガソリンの価格補助は、エネルギー消費削減の動機を減ずるので不適切である。ガソリンが本当に不足すれば供給を割り当てることになりかねないが、それよりは価格で時間をかけてコントロールしたほうが経済的な悪影響をトータルで緩和することができる。

・太陽光発電や風力発電、および高価な省エネ設備の導入推進はコスト要因になるので停止すべきである。この問題点は、特に、供給ショックによるインフレと資材価格高騰が起きつつある今、重大なものとなる。

「アメリカによる平和」がすぐに訪れるというシナリオを唯一の将来像と決め打ちして、短期的影響を緩和することに力点を置くだけでは、「消耗戦」や「イランによる平和」に対する備えにはなっていない。原子力の再稼働、石炭の利用拡大などは、それぞれに反対意見はあるけれども、いまの日本にとって、その推進は死活的に重要である。

 

■ 安全保障の「今」を見つめるFAQ:エネルギーと経済

Q: なぜ中東戦争が日本に影響するのか?

A: 日本は原油・LNGの多くを中東に依存しているため、供給途絶や価格高騰が直接経済に影響する。特に海上輸送路の混乱は致命的。

Q: 最も懸念しているシナリオは?

A: 長期化する「消耗戦」である。供給途絶が続き、世界的なエネルギー不足と価格高騰が慢性化するリスクを指摘している。

Q:  日本政府の対応の問題点は?

A: 「アメリカによる平和」を前提に、補助金や備蓄放出など短期対策に偏っている点。長期リスクへの備えが不足していると批判する。

Q:  「イランによる平和」とは何か?

A: イランが非対称戦争で優位に立ち、周辺国や大国の仲介を通じて停戦を主導するシナリオ。供給は部分的に回復するが政治的制約が残る。

 

写真)原油価格の上昇はいつまで続くのか、先行きは依然として不透明。

2026年3月12日 神奈川県川崎市

出典)Tomohiro Ohsumi by Getty Images

 




この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

【学歴】


1991年 東京大学 理学部物理学科卒業


1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了


【職歴】


1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所


1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員


2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員


2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

杉山大志

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