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.国際  投稿日:2026/4/28

高市・トランプ連隊の中国抑止効果とはその3 中国への巨大な日米圧力


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授) 

■本稿のポイント

  • 日米同盟の深化とイラン問題:高市首相がトランプ政権のイラン・ホルムズ海峡戦略に理解を示したことで、日米同盟が新たな段階へ。
  • 米政界が高市首相を絶賛:ジョー・ウィルソン議員ら超党派の重鎮が、高市氏の対中・対台湾への毅然とした姿勢を「アメリカの利益に資する」と高く評価。
  • 「対中軟化説」を徹底否定:一部の観測に反し、トランプ政権の対中姿勢は不変。軍事、経済、法整備の全方位で抑止を強化中。
  • 国防予算1兆ドルへの衝撃:2026会計年度の国防費が過去最大の9100億ドルに。主眼は「太平洋抑止構想」など、中国の軍事膨張阻止にある。

 

2026年に行われた高市首相とトランプ大統領による首脳会談の裏舞台を、国際ジャーナリストの古森義久氏がワシントンでの取材に基づき解説する。イラン情勢への協力から、米政界が絶賛する高市氏の対中姿勢、さらには過去最大規模の国防予算に見るトランプ政権の本気度まで、揺るぎない日米の対中包囲網の実態を明らかにする。(Japan In-depth編集部)

 

ホルムズ海峡への協力が深める日米同盟

 しかし高市首相にとってはトランプ大統領のイラン攻撃に注ぐ熱意と使命感をかなりの程度、理解せざるを得ない。イランのテロ行動、そして核兵器開発、さらには石油運搬ルートたるホルムズ海峡の航行妨害などは日本の国益をも害するのである。高市政権は首相の訪米の前からその種の認識を示していた。

 だからこの点で今回の首脳会談で高市首相がトランプ政権の行動に改めて理解を示し、ホルムズ海峡の安全確保への実際の協力姿勢をみせたことのトランプ政権への意義はきわめて大きい。そのことが当然ながら米側の日本の重視、日米同盟の深化につながるわけだ。

 

米政界が絶賛する高市首相の「対中毅然姿勢」

 高市・トランプ首脳会談の現実の主題部分にはイラン問題という表面では異質にもみえる課題がからむことは以上、説明してきた。ところが背景としてはさらに巨大な課題が実はもう一つからんでいた。中国である。

 トランプ政権はアメリカにとって世界最大の脅威が中国の共産党政権であるとの認識を第1期から明確にしてきた。第1期にはそれまでの米側の歴代政権の対中関与政策は間違いであり、失敗だったと宣言した。そしていまのアメリカ、さらにアメリカ主導の自由民主主義陣営にとって中国こそが最大の挑戦者であり、脅威だとも宣言した。

 この基本は実はいまも変わっていない。CIA(中央情報局)など政府のインテリジェンス諸機関が共同で発表した「対外脅威評価」の2025年度の年次報告書でも、アメリカにとっての最大の脅威は中国だと明記していた。

 この中国の影響が今回の高市首相の訪米にも大きく及んでいることを私は議会での取材によりまず意外な形で認識した。前述の3月5日の議会内での「日本酒レセプション」の場だった。

 私は高市首相の来訪をどうみるのか、サウスカロライナ州選出のジョー・ウィルソン下院議員(共和党)にも直接に、1対1の会話で問うてみた。米側としてとくになにを重視するのかという質問だった。

 ウィルソン議員からは次のような答えが返ってきた。

 「まず高市首相にアメリカ側からのサンキューという言葉を伝えたい。なぜなら高市首相が中国に対して毅然たる態度をとってくれたからだ。その態度はアメリカの政策や戦略利益に資するのだ」

 同議員はもちろん高市首相の台湾有事に関する国会での発言をよく知っていたのだ。同時に中国政府がその発言に対して反発し、多様な威嚇や制裁の言動をとってきたことも熟知していて、高市首相の堅固な態度を賞讃しているのだった。

 ウィルソン議員のこの言葉は重要だといえる。なぜなら同議員は連続当選13回の超ベテランで、トランプ政権にもきわめて近いからだ。そんな人物が日本が中国に対して妥協せず、不当な制裁や圧力を断固として跳ね返すことがアメリカにとっても好ましいと述べたのだ。

 ウィルソン議員は下院全体でも共和党の首脳部に近く、外交委員会、軍事委員会で活躍してきた。中国やロシアに対する強固な政策は保守派のなかでもとくにトランプ大統領の思考に至近だとされてきたのである。だからこの言葉はトランプ陣営の思考の反映とみてもよいのだった。

 

データで読み解く「トランプ対中軟化説」の誤謬 

一方、日本側の一部ではトランプ政権の対中政策が最近は軟化してきたとする観測がある。「トランプは中国敵視を止めて、ディールを図る」、「台湾をもう守らない」、「日本の頭越しの対中和解だ」というような推測が散布されているのだ。

 ところがトランプ政権の対中政策は実際には変わってはいない。中国への基本的な融和という気配はどこからも出てこないのだ。その根拠を具体的にあげておこう。

 

 第一にトランプ政権の最近の国家安全保障戦略も、アメリカ側の国際秩序を打破しようとする中国の野望への反対を明記していた。

 トランプ大統領は目前の課題としては中国によるレアアースの輸出規制やアメリカ産の大豆の輸入制限への対処をまず優先する姿勢をとった。ところがトランプ政権の同戦略はその一方でインド太平洋での中国の膨張への反対を明記し、中国の軍事力増強への抑止の方針を強調していた。台湾に関連しては「中国による台湾軍事攻撃の抑止」を米軍全体の基本目標として位置づけていた。

 

 第二には、トランプ政権がごく最近でも台湾への武器売却を実施している点である。

 同政権はまず昨年11月に台湾に対して総額四億ドルほどの武器を売った。軍用輸送機のC130やその部品が主体だった。続いて12月中旬には合計111億ドルの兵器や弾薬類を台湾に輸出した。この時の内容は高機動ロケット砲システムの「ハイマース」82基をはじめ、地対地ミサイル「エイタクムス」四百基や対戦車ミサイル「ジャベリン」などだった。これら兵器はいずれも中国側が最も強く反対する対象だった。

 そのうえにトランプ大統領は議会両院が可決した「台湾保証実施法」という新たな法案に12月上旬、署名した。この法律はアメリカの台湾への防衛支援を改めて保証し、米台間の交流を米側の政府高官の訪問までを含めて高めることをうたっていた。

 

国防予算1兆ドル目前、対中抑止は新局面へ

 第三にはトランプ政権の国防予算が中国の軍事膨張への抑止を主眼とする画期的な増額を決めていた。

 トランプ政権の2026会計年度の国防費は初めて1兆ドルに接近する9100億ドルとなった。トランプ大統領はこの予算を執行するための国防権限法に昨年12月中旬、署名した。この権限法は国防政策の内容を実際の支出を義務づける形で確定していた。

 その主要な柱は「太平洋抑止構想」、「台湾安保協力構想」、「中国の戦略供給網とのディカップリング」、「フィリピンへの新鋭トマホーク・ミサイル供与」など、明らかに中国への軍事抑止の措置だった。まさに中国を正面の最大標的と位置づけての軍事戦略なのである。

 トランプ大統領が中国に譲歩や融和を決めて、その対中姿勢を大幅に軟化させたという構図はツユほども浮かんでこないのだ。

 

(その4につづく。その1、その2

#この記事は月刊雑誌の『正論』の2026年5月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。       

トップ写真:中国、第二次世界大戦終結と対日戦勝80周年を祝う(中国・北京 2025年9月3日)

出典:Lintao Zhang/Getty Images




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