結束確認の場で足並みの乱れ露呈 G7サミットは存在意義失った

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・主要国(G7)サミットは、ウクライナ支援に関する首脳共同宣言を見送って閉幕した。
・アメリカと各国の対立が解けなかったためだ。
・首脳同士の結束を確認することが趣旨であるサミットはもはや存在意義を失った。
■トランプ大統領、ロシア非難の宣言に反対
ことしの主要国首脳会議(G7サミット)はカナダのカナナスキスで6月16、17の両日、開かれた。
現地からの報道などによると、当初、ウクライナ問題に関する首脳共同声明が取りまとめられる予定だったが、トランプ米大統領が仲介役の立場に固執しロシアを強く非難する表現に反対。各国首脳との隔たりが埋まらなかった。
強引に発表に持ち込めば、G7の団結の脆弱さをさらけだすことになり、結果的にロシアを利すると判断されたようだ。
イスラエルーイランの紛争に関する共同宣言でも、トランプ大統領の主張が色濃く反映された。「イスラエルには自衛権がある。イランは地域の不安定化とテロの源であり核兵器の保有は許されない」というイスラエル寄りの内容となった。
サミット終了後、議長国、カナダのカーニー首相が、会議の結果報告ともいうべき「議長総括」を発表。この中で、「ロシアの侵略にさらされているウクライナ」への20億ドルの軍事支援、25億ドルの融資、侵略を支持するロシアの組織、個人への制裁などが盛り込まれた。
アメリカが表現を弱めるよう要求したためとも伝えられるが、カーニー首相は「議論のすべてが盛り込まれた」と説明した。
こうしたいわば、トランプ氏への配慮にかかわらず、大統領は初日16日の会合終了時に、予定を切りあげて、急遽、帰国してしまった。米ホワイトハウスによると、イスラエル、イラン紛争への対応を協議するためというのが理由だが、G7会議に招請されていたウクライナのゼレンスキー大統領、韓国の李在明大統領らとの会談は実現を見ずに終わってしまった。
■個別宣言にとどめる苦肉の策も水泡に
今回のサミットにあたって、G7各国間の対立表面化回避を目的に、これまで例年行われてき包括、網羅的な首脳共同宣言を取りやめ、個別の宣言にとどめる苦肉の策が採られた。結果的にそれが水泡に帰し、かえって不協和音を露呈してしまった。
トランプ大統領は今回、「ロシアをG7から追放したのは誤りだった」(カナダのカーニー首相との共同記者会見)とも述べ、復帰させるよう持論をあらためて主張、物議をかもした。
トランプ氏は一期目の2018年、今回のちょうど一巡前にカナダ・シャルルボワで開かれたサミットで、関税措置をめぐって各国首脳と対立、首脳共同宣言も難航した。大統領はこの時も、ロシア復帰を主張し一部の反発を招いた経緯がある。ちなみに、この時は日本の安倍晋三首相(当時)も、これに同調した。
■すでに半世紀、全体を見直す時か
サミットは1975年にフランスのジスカールデスタン大統領(当時)の提唱で始まった。当時の石油危機など世界的な経済問題を各国首脳が少人数で話し合おうというのが趣旨だった。
当初の参加国は日米英仏独の5か国、途中から、カナダ、EU(欧州連合)、ロシアも加わったが、ロシアは2014年のウクライナ・クリミア併合を機に追放された。
1980年代、冷戦の激化とともに政治問題の討議にも長時間が費やされ、旧ソ連(ロシアの前身)の脅威に西側主要国が結束を確認する場にもなっていた。
一時は存在感が薄れたが、今回のウクライナ問題では、侵略したのが国連安全保障常任理事国のロシアであったことから、国連は十分に機能していないとして、G7サミットの存在感が高まっていた。
今回、首脳間の結束の脆さが明らかになった以上、サミットの存在意義に強い疑問符がつく。団結維持にはかえって逆効果の存在という指摘も出てこよう。
ことしで51回目。半世紀を経過したいま、取り止め、年次方式から随時開催への変更などなど運営方法を含めを含めた全体を見直す時期に来ているというべきだろう。
トップ写真:Chip Somodevilla by gettyimages
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

