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.国際  投稿日:2026/7/22

サッカーW杯で見えた日韓の違いとホルムズ海峡の行方


執筆:宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#29

2026年7月20-26日

 

【本稿のポイント】

・米イランの「了解覚書」は「誤解覚書」を経て「決裂覚書」となりつつある。当面は「より戦争に近い状態」が続く見通しだ。

・W杯1次予選で敗退した韓国は監督・協会会長がともに引責辞職に追い込まれた一方、決勝トーナメント緒戦でブラジルに敗退した日本の森保監督は「お咎めなし」で、同じ東アジアでも日中韓のサッカー界には大きな違いがある。

・米大統領に、ホルムズ海峡の事態を進展させる「切り札」はない。

 

本稿では、米イラン「了解覚書」の事実上の決裂、W杯で露見した日韓サッカー界の差、ウクライナ攻撃で見え始めたロシア経済への広範な打撃、さらに米大統領の4つの歴史的失敗など、現在の国際情勢を多角的に整理する。キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏が、中東の戦火再拡大とルビオ国務長官の記者会見発言を俯瞰しながら、「悪い選択肢の中でより悪くない選択肢」を選ばざるを得ない米国の現状と今後のリスクを読み解く。 (Japan In-depth編集部)

 

 イラン戦争を終わらせる筈の「了解覚書」は先週、残念ながらというか、予想通りというか、「誤解覚書」になってしまった。だが、今週はそれが遂に「決裂覚書」となりつつあるようだ。週末にはイラン側が中東の米軍基地を攻撃し、米兵に死傷者が出たからだ。こうなれば、如何なる米政府であれ、決して黙ってはいられない。

 

◆W杯で露見した日中韓サッカー界の違い

 イラン問題は最後にするとして、今週筆者が気になったのはサッカーのワールドカップだ。特別好きという訳ではなかったが、今回改めて世界最高レベルのプロの技術を見て「こりゃ、やっぱり凄いわ」と脱帽した。遠くからのパスが、「接着剤」でも塗ってあるかの如く、味方選手の足に「ピタっと」止まるのだから、これはもう神業である。

 「たかがサッカー、されどサッカー」、そのワールドカップで考えさせられる事件が起きた。一次予選で敗退した韓国チームの監督と韓国サッカー協会会長は、何と韓国大統領に罵倒された挙句、引責辞職を余儀なくされた。ところが、決勝リーグには進んだものの緒戦でブラジルに敗退した日本チームの監督は、何故か、お咎めなし。

 勝負の世界は非情だが、それにしても日韓では随分扱いが異なるものだ。何故こんなことが起きるのか?サッカーは素人の筆者だが、背景を探ってみたら実は中国、韓国、日本のサッカー界には、同じ東アジアなのに、大きな違いがあると感じた。この点については今週のJapanTimesにコラムを書いたので御一読願いたい。

 

◆ウクライナによる深部攻撃はロシア経済にどこまで波及しているのか?

 さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「ウクライナによるロシア深部攻撃、経済への影響は燃料不足にとどまらない――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者も最近のロシア国内情勢には関心が高いので実に興味深く読んだ。

 

 ウクライナの長距離攻撃能力の向上や兵器生産能力の大幅な拡大により、ここ数カ月、ドローンやミサイルによるロシア深部の石油施設への攻撃が相次ぎ、それに伴うガソリンやディーゼル不足が日本でも報じられるようになった。だがその影響は燃料不足にとどまらず、すでに幅広い経済活動に波及し始めている。

 今回紹介するコメルサントの3つの記事は、燃料不足を一因とするインフレ懸念やコスト増が企業景況感全体を押し下げていること、ソチ空港の度重なる閉鎖や2014年にロシアが一方的に併合したクリミアでの深刻な燃料不足が旅行会社の経営を圧迫していることを伝えている。いずれも、ウクライナによるロシア深部への攻撃が、燃料供給だけでなく、物価、企業活動、観光などロシア経済の幅広い分野に影響を及ぼし始めていることを示している。

 

◆「物価高が見通しを圧迫、景況判断とインフレ期待が悪化」、7月16日、コメルサント(要約)

  • ロシア中央銀行が実施したアナリスト調査によると、2026〜2027年の経済成長率見通しは小幅な下方修正にとどまった一方、インフレ率と政策金利の見通しは大幅に引き上げられた。また、2026年のGDP成長率見通しは0.7%から0.6%へ、2027年は1.5%から1.3%へそれぞれ引き下げられた。
  • 2026年末時点のインフレ率見通しは、5.3%から6.2%へ、2026年の平均政策金利見通しも14.1%から14.5%へ上方修正された。
  • インフレ見通しが引き上げられた最大の要因は、6月に物価上昇率が急加速したことである。6月の月次インフレ率は年率換算で10.6%となり、5月の2%から大幅に加速した。
  • 中銀は、この急上昇について、燃料供給の混乱、燃料価格の上昇、青果・野菜価格の上昇、通信料金の値上げといった一時的要因によるものが大半であると説明している。
  • 中銀のアナリストは、燃料価格の上昇によるコスト増が、他の商品やサービス価格にも転嫁され始めた兆候が見られると指摘している。中銀は、一時的な物価ショックそのものよりも、それが他の商品やサービス価格へ波及する「二次的影響」を注視している。
  • さらに、中銀が7月15日に公表した『企業モニタリング』では、企業景況感が急速に悪化したことが確認された。企業景況感指数は7月に前月の0.9ポイントからマイナス3.6ポイントへと急低下し、2022年半ば以来の最低水準となった。
  • また、数カ月にわたって改善していた企業の価格見通し(販売価格の見通し)も再び悪化した。その主な要因として、コスト上昇の加速、燃料価格の上昇、物流費の増加が挙げられている。

 

◆「景況感は6月も低調、中小企業景況指数(RSBI)はなお好不況の分岐点に届かず」、7月7日、コメルサント(要約)

  • ロシアの中小企業の景況感は6月も低迷が続いた。
  • 中小企業の景況感を示すRSBI指数は、5月の48.4から49.6へと改善したものの、好不況の分岐点である50をなお下回った。
  • 企業の約半数(47%)が売上の減少を報告した一方、売上が増加したと答えた企業は21%にとどまった。販売不振の要因としては、需要の低迷とコストの上昇がある。
  • 6月には、回答企業の25%が人員を削減し、新規採用を行った企業は15%にとどまった。

 

◆「会社抜きの休暇へ、旅行会社の廃業件数が1.5倍に増加」、7月17日、コメルサント(要約)

  • 2026年上半期、ロシアでは観光関連企業2,700社が事業を停止した。これは前年同期比で52.3%増となる。背景には、旅行需要の冷え込みがある。
  • 特に国内旅行への需要が低下した。国内旅行市場は年初から需要減少が続いていたが、4〜5月には状況が急速に悪化。その要因には、ソチ空港の度重なる閉鎖とクリミアでの燃料不足がある。
  • 中東情勢の緊迫化により、海外旅行市場も国内旅行需要の落ち込みを補えなかった。
  • 旅行者の節約志向も強まっており、より安価な旅行や旅行期間の短縮が広がる中、旅行代理店の収益縮小につながっている。

 

◆今週のカレンダー

 続いては、これも、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

7月21日 火曜日 ASEAN外相会合(フィリピン、3日間)

レバノン大統領訪米、米大統領と首脳会談

 

7月22日 水曜日 EU各国代表、ロシアに対する新たな制裁パッケージを議論

 前ベネズエラ大統領、NY裁判所で判決予定

 米国、対ブラジル25%関税を発動

 

7月23日 木曜日 上海協力機構外相会合(キルギスタン、2日間)

 ソロモン諸島首相訪日(3日間)

 

7月24日 金曜日 国際司法裁判所の締約国特別会合が首席検察官解任を議論

 国連安保理、次期国連事務総長の選任手続きを開始

 

7月27日 月曜日 パキスタン支配下のカシミール等で立法議会選挙

 

◆イラン戦争の「真の勝者は中国」なのか?

 最後はガザ・中東情勢だが、イラン停戦交渉が進展どころか、米イラン間大規模戦闘再開を受け、事実上「了解覚書」以前の段階に戻りつつあることは既に書いた。ここまで来た以上、「停戦交渉」自体を再開することは容易ではなかろう。考えてみれば、当然である。

 要するに、子分たちではなく、「親分同士」の喧嘩だから、相互に「面子」が懸かっており、そう簡単には止められないのだ。先週は「戦争でも平和でもない状態が当面続く」などと書いたが、米側に死傷者が出た以上、「より戦争に近い」状態が当面続くのだろう。それにしても、米国の戦略的失敗は明らかだ。

 現米大統領は、①イスラエル首相の口車に乗り、②斬首作戦の効果を過大視し、③戦争目的を非核化・政府転覆等と二転三転させ、④肝心の海峡支配権はイランに奪われるという歴史的ヘマをやらかしたのだから・・・。それでも最近一部で、イラン戦争の「真の勝者は中国だ」とする論説が目立つようになった。

 その典型例がワシントンポストのコラムニスト・ファリードザカリアなのだが、これに筆者は必ずしも同意しない。そのような「戦術的勝利」は次の「戦略的失敗」を誘発する可能性があるからだ。今週の産経新聞WorldWatchには筆者がそう考える理由を詳しく書くつもりなので、ご関心のある向きは御一読願いたい。

 

◆米国務長官の発言と「切り札」なき選択

 もう一つ、中東関係で気になったのが7月19日の米国務長官の記者会見での発言内容だ。ルビオ長官はトランプ政権で「真面なことを言う」数少ない高官であり、筆者にしては珍しく、その発言内容を丹念に追っている。今回同長官はイラン情勢とホルムズ海峡の安全保障について概要を次の通り述べている。

 

  • 対イラン空爆の目的はホルムズ海峡での国際商船攻撃を阻止するためであり、ミサイルやドローンの発射拠点を標的に米軍(CENTCOM)が空爆を実施している。
  • イラン内部の対立と外交については、イラン経済は猛烈なインフレや燃料・食料不足で疲弊しており、外交的解決を望むグループと軍事行動を推進する強硬派の間で内部対立が生じている。
  • 米側は外交の扉を閉ざしていないものの、イラン側の攻撃行動の停止が前提である。
  • 米大統領が言及した通行料構想については、世界中の商船の安全を守る負担を米国のみが負うべきではなく、受益国も資金や装備面での支援を行うべきである。
  • レバノン情勢については、同国安定の鍵はイランの支援を受けるヒズボラではなく、レバノン国軍と正規政府の強化である。米国金融投資の支援や米・レバノン間の直行便再開に向けた協議を進めていく。

 

 うーん、発言は至って真面だが、これでは事態は進展しないよなぁ。残念ながら、今に至っても米大統領に「切り札」はなく、「悪い複数の選択肢」の中から「より悪くない選択肢」を選ぶしかないのだろう・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1. コメルサントとは何か?
A1. ロシアの日刊経済紙。1989年創刊で、モスクワを本拠とし、経済・政治・国際情勢を扱う総合日刊紙として機能する。本稿で吉岡明子研究員が引用した3本の記事は、いずれもコメルサント発の経済関連記事で、ロシア中央銀行の見通しや中小企業景況感、旅行業界の廃業数など、ロシア国内の経済実態を把握する上で参照される主要な情報源の一つ。

 

Q2. RSBI指数とは何か?
A2. ロシア中小企業景況指数(Russian Small Business Index)の略称で、プロムスビャジバンク(Promsvyazbank)と「オポラ・ロシア」(ロシア中小企業経営者団体)が共同で算出する景況感指標。数値50を「好不況の分岐点」とし、50を上回れば好況、下回れば不況を示す。本稿の吉岡氏引用によれば、2026年6月時点でRSBI指数は49.6となお分岐点に届かず、ロシアの中小企業の景況感は低迷が続いている。

 

Q3. トランプ大統領の「ホルムズ海峡の通行料構想」とは何か?
A3. 2026年3月にルビオ長官がG7で言及し、その後トランプ大統領も表明した構想で、ホルムズ海峡を通過する国際商船の安全を守るための「通行料」を、受益国が分担して負担するという枠組みを指す。米国のみが負担するのではなく、日本を含むアジア諸国やG7各国が資金・装備面で貢献すべきというのが米側の主張。イラン側は独自の「通行料徴収」構想を示唆しているとされ、これに対し米側は「違法かつ受け入れられない」と反発している。

 

Q4. ファリード・ザカリアとはどんな人か?
A4. ファリード・ザカリア(Fareed Zakaria)はインド系アメリカ人の国際政治評論家・コラムニスト。CNN「Fareed Zakaria GPS」の司会者で、ワシントン・ポスト紙のコラムニストも務める。ハーバード大学で博士号取得。近年、米国のイラン攻撃と中東関与拡大が、その間隙を突いた中国の中東・アジア地域での影響力拡大を可能にしているとして、「米国のイラン戦争の真の勝者は中国だ」との論説を発表。

 

シリーズ紹介・バックナンバー

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(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

トップ写真:米国の空爆によって損壊した橋 7月17日・イラン南部ホルモズガン州

出典:Handout Photo by Morteza Akhoundi via Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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