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.国際  投稿日:2026/6/18

中朝(朝中)首脳会談の核心は台湾有事


執筆者:朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

本稿のポイント

・習近平総書記の訪朝は、米中会談で「北朝鮮の非核化」が議論されたとする米国側の見解に北朝鮮が強く反発する中で行われた。

・会談で軍事交流の拡大が合意されたことで、中朝関係はこれまでの協力の枠組みを超えた、より深い関係へと入った。

・金正恩総書記が「一つの中国」原則を堅持し、中国の核心的利益を擁護する立場を再せん明したことは、本会談の核心が台湾有事に対する中朝連携の戦略的構築にあることを示している。

20266月、習近平総書記は条約締結65周年を名目に訪朝し、金正恩総書記との会談で軍事面を含む連携強化を確認した。この会談は単なる友好行事ではなく、中国の台湾戦略と朝鮮半島の安全保障環境の変化を見据え、両国が連携して戦略を構築する新たな段階に入ったことを示していると、コリア国際研究所所長・朴斗鎮が解説する。(Japan In-depth 編集部)

中国の習近平総書記・主席は6月8日~9日北朝鮮を訪問した。名目は、1961年7月11日に結ばれた「中朝相互友好援助条約」65周年を祝うというものであったが、昨年9月の金正恩訪中に対する答礼という意味もあった。とはいえ7月ではなく、1カ月前倒しの6月に訪問したのは、直前の5月14日から2日間にわたり北京で開かれた米中首脳会談と関係したと思われる。この会談で習近平主席は、トランプ大統領に「一つの中国」を強調し「台湾問題」への介入を強く警告した。

一方北朝鮮は、米中会談で「北朝鮮非核化」の話し合いが行われたとする米国側発表に神経を尖らせた。それは、会談直前の6月7日に、北朝鮮の金与正副部長が談話を発表し、米中首脳会談で北朝鮮の非核化が確認されたとする米国側の見解を「完全な捏造」と強く非難していたからも伺い知ることができる。

こうしたことから、今回の習近平の訪朝の核心が「一つの中国(台湾有事問題)」と「北朝鮮核の黙認」にあったことが推測される。習近平主席と金正恩総書記の会談に両国の国防相が参加し、経済・文化交流の強化だけでなく、軍事交流が加えられたことからも、関係改善の一般的な交流の再開ではないことも読み取れる。中朝関係は、これまでの選択的協力関係から、その枠を超えた協力関係に進む段階に入ったと言える。

習近平労働新聞寄稿文の中心内容

習近平は、訪朝直前に労働新聞に寄稿文を寄せたが、その内容から今回訪朝の狙いが明らかとなった。労働新聞(2026・6・8一面)に掲載されたこの寄稿文の中心内容は次のような内容だった。

高水準の戦略的協力には、中朝関係の時代的意味が内包されている。地域の恒久的な安全と世界の平和と安定を促進することは、両党、両国、両国人民の共同の念願である

双方は、相互の国家主権と安全、発展利益を守護することを堅固に支持し、地域の平和と安寧は、国際的な公平と正義そして戦後国際秩序を共同で守護していかなければならない。

近年、百年以来の世界的な変化局面が急速に発展し、国際情勢が複雑に絡み合っている中で、中朝双方は自分の仕事を上手く遂行することに精力を集中し、社会主義の道に沿ってしっかりと前進し、着実に奮闘した。

戦略的疎通を深めて中朝関係発展の正確な方向を堅固に堅持しなければならない。 

私たちは、両党、両国の高位級往来の偉大な伝統を継承し、親戚のように頻繁に行き来しなければならない。

中朝友好協力及び相互援助に関する条約締結65周年をきっかけに党と政府、軍隊の間の様々な部門間での意思疎通と交流、往来を強化し、双方の重要な共同認識をよく履行することにより、中朝関係発展に強力な動力を注入するだろう。 

覇権主義と強権政治に反対し、軍国主義復活(注:日本に向けた警告)を図り、地域の安全と安定に危害を与えるすべての野欲と策動に反対しなければならない。

首脳会談での習近平の主な発言

習近平は、6月8日午後、平壌錦刺繍山迎賓館で開かれた中朝(朝中)首脳会談においても寄稿文での内容に沿った発言を行った。

新華通信によると、この席で習近平は「両党各級・各分野の友好交流をさらに拡大し活性化し、党建設と国政運営経験交流を深化しなければならない」とし「外交・法執行・軍隊など分野の交流を強化し、私と総書記同志(金正恩)が到達した重要協議をしっかりと履行し、中国と北朝鮮の関係発展のための知恵と力量を集めなければならない」と話した。

また中朝関係の発展と関連して習近平は「発展戦略連携を強化し、貿易・農業・建設・科学技術・保健医療など実質協力を拡大して両国人民にもっと大きな恩恵を与えたい」とし「国境通商区の全面再開通と民港便、国際旅客列車運行再開を契機に人的交流を拡大し双方向交流を実現しなければならないとした。こうした脈絡で2014年完工後、事実上放置された新鴨緑江大橋開通問題も今回の会談で議題に上がった。

習近平はまた「血で結ばれた伝統友好は、両国人民共同の大切な財産」とし、北朝鮮内の中国軍烈士記念施設維持・管理と革命伝統教育および青少年思想教育を共に実施して伝統友好を継承したいと明らかにした。中朝の主要人的交流協力分野としては、教育、旅行、スポーツ、メディア、青年、地方、友好都市などを挙げた。

習近平はこの日の会談で中朝関係の格上を示唆する発言もおこなった。 

彼は「7年ぶりにまた美しい平壌を訪問することになり、とても嬉しくて格別に親しみやすい感情を感じる」とし「金正恩総書記同志と共に今回の訪問をきっかけに、新時代の中国・朝鮮関係に対する最上層部構成と戦略的指導を強化する」とした。今年が中朝友好協力相互援助条約締結65周年という点を強調して「両国関係を新たな高さに引き上げたい」とした。

新華社通信が公開した習近平の会談発言文には、非核化を意味する「朝鮮半島問題」はなく「中国と朝鮮両国は戦略的調律と協力を強化し、各自の主権・安保・発展利益をしっかり守護する」という内容が盛り込まれた。先月の米中首脳会談以後、米国側が公開した資料では、米中が北朝鮮非核化という共同目標を再確認したと明らかにしたが、金正恩との会談では言及しなかった。

◆中朝首脳会談で金正恩が「一つの中国」支持を再せん明

中国官営新華社通信によると、金正恩総書記は一つの中国原則を堅持し中国の核心的利益を擁護するとの立場をこれまでよりもさらに明確にした。

金正恩は朝中関係を「国家の最も重大な第1戦略事業」と規定し、「一つの中国原則」支持を再確認した。金正恩は「新しい時代の朝中友好を強固にして発展させることは人民の選択であり時代の要求」とし「北朝鮮は今後も変わらず一つの中国原則を堅持し、中国が核心利益を守護するために取る政策と立場をしっかり支持すると述べ、「台湾、チベット、新疆(しんきょう)ウイグル自治区など核心的利益に関わる問題で引き続き中国の立場を固く支持する」とした。

金正恩は、習近平が今年初の海外訪問地として平壌を選んだことに言及し、「(習近平が)朝中関係に対する格別の重視と優位を示してくれたことは、朝鮮側に大きな鼓舞となる」と述べた。

金正恩は「朝中両国関係の特殊性は、ただ隣国ということにあるのではなく、深い伝統的友好と共同の理想・信念を共有し、代を継承しているということにある」とした。

◆習近平の「一つの中国」を金正恩が再確認した意味

習近平が一つの中国原則を強調し、金正恩が公開的に支持を表明したことを決して軽く見てはならない。特に日本はこのことを注視すべきである。

今回の習近平の北朝鮮訪問は単なる外交行事ではない。大きな節目とは言えない中朝(朝中)友好相互援助条約締結65周年での今回の訪朝は、中朝関係の現在と未来を示す重要な事件だった。特に中国の台湾戦略、中朝軍事協力、朝鮮半島安保環境の変化という側面で決して軽く見ることができない意味を持っている。

それは習近平が訪朝に合わせて労働新聞に寄せた寄稿文と首脳会談での発言内容を見れば明らかである。寄稿文と発言で習近平は、中朝友好、戦略的意思疎通の強化軍隊間の交流拡大共同の核心利益の守護特には一つの中国原則が繰り返し強調された。そして金正恩が最も嫌う「北朝鮮非核化」には触れなかった。中国は最近行ったロシアとの首脳会談の共同声明でも非核化問題に言及していない。

金正恩は、こうした習近平の求めと配慮に応じて、会談後、「一つの中国」に対する支持及び支援を公開的に明らかにした。それはそのまま習近平の台湾戦略に同意するものである。こうしたことから、今回の中朝首脳会談の核心は、一言で言って台湾有事に対する中朝連携の戦略的構築であったと言える

【よくある質問(FAQ)】

Q1:「一つの中国」原則とは何ですか?
A:世界には中国が一つしか存在せず、台湾はその不可分の一部であるという中国政府の基本的な外交方針です。

Q2:中朝(朝中)相互友好援助条約とはどのような条約ですか?
A:1961年に締結された、有事の際に軍事的な支援を義務付ける相互防衛的な条約です。今回の訪朝の公式な名目はこの条約の65周年記念でしたが、両国の国防相が会談に参加したことで、単なる友好行事を超えて、現代の情勢に合わせた軍事的な結びつきを再確認する機会となりました。

Q3:「核心的利益」とはどういう意味ですか?
A:中国が外交において「絶対に譲れない」「他国からの干渉を一切認めない」と定義している国益の最上位項目です。主に台湾、チベット、新疆ウイグル自治区の問題などが含まれます。北朝鮮がこの「核心的利益」を支持するということは、中国の国内問題や台湾戦略に対して北朝鮮が政治的・軍事的に同調する姿勢を示したことになります。

Q4:なぜ軍事担当の国防相が会談に参加することが重要視されるのですか?
A:外交儀礼上の親善訪問には通常、外交や経済担当者が同行しますが、軍のトップである国防相が同席するのは、経済や文化を超えた「実務的な軍事連携」が議題であることを相手国に示すためです。これにより、両国関係が親善の枠を超え、有事に備えた戦略的な調整段階にあることを示威する狙いがあります。

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

シリーズ・アーカイブの紹介 

本連載は、朝鮮半島の政治・外交・安全保障を専門とするコリア国際研究所所長・朴斗鎮によるコラムです。北朝鮮の内部構造や権力体制の変遷を独自の視点で読み解くことで、日本のメディアでは見えにくい朝鮮半島の実像に迫ります。

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トップ写真)South Koreans React To Kim Jong-un’s Unannounced Visit To Beijing
出典)Chung Sung-Jun / スタッフ / Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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