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.社会  投稿日:2026/7/8

「優しい韓国人男性」はなぜ生まれたのか―少子化・男女葛藤・国際結婚ブームの背後にある韓国社会の構造変化


執筆者:加藤華(医療ガバナンス研究所 元インターン)

【本稿のポイント】
・家父長制の歴史的背景から生まれた、韓国人男性の「女性を守る」規範。
・経済的負担や男女間の対立が深刻化し、出生率や結婚観に悪影響を及ぼしている現状。
・韓国の男女葛藤は、日本が直面する少子化や分断を考えるうえでの先行事例。

近年、日本では「韓国人男性は優しい」「愛情表現が豊か」「恋人を大切にする」というイメージが急速に広がっている。特にSNSや動画配信サービスの普及以降、その傾向はより顕著になった。実際、日本人女性と韓国人男性の国際結婚件数は増加傾向にあり、 2024年には2015年以降最多となる1176件を記録した(KBS WORLD, 2026)。前年比40%増という数字は、単なる偶然では説明できない社会現象である。

しかし、この「優しい韓国人男性像」は単なる恋愛文化の違いではない。その背景には、韓国社会が抱えてきた強固な家父長制的秩序の歴史、急激な経済成長による家族構造の変化、そして現代的な男女葛藤の顕在化が存在している。本稿ではこれを韓流ブームとしてではなく、社会変動の帰結として捉える。そこには家族制度の変容や結婚規範の揺らぎ、さらに男女間の相互不信の拡大といった複数の変化が重層的に存在しており、これらは出生率の低下や地域共同体の弱体化といった社会基盤の変動へと連鎖している。

1.「女性に優しい韓国人男性」のイメージ

近年、日本では「韓国人男性は優しい」「愛情表現が豊か」「恋人を大切にする」というイメージが広く浸透している。プロポーズ時や記念日に高価な贈り物を用意し、デート費用を積極的に負担することに加え、頻繁に花束を贈る、「愛している」と率直に言葉で伝える、頻繁に連絡を取り合う――こうした恋愛行動は、多くの韓国人男性に共通する特徴として語られ、日本でも「韓国人男性らしさ」を象徴するイメージとして定着しつつある。

日本人が抱くこうしたイメージは、当初、韓国ドラマによって形成された。日本でも大きな人気を集めた『冬のソナタ』では、女性を気遣い、愛情を率直に表現する男性像が繰り返し描かれ、主人公を演じたペ・ヨンジュンは、その象徴的存在となった。その後、このイメージはドラマの枠を超え、K-POPやSNSなどを通じて広く浸透し、「韓国人男性は恋人を大切にする」という印象が定着していった。

一方で、このような男性像は芸能界だけに見られるものではない。近年では、李在明大統領をはじめとする政治家も、公の場で家族との関係や家庭生活に言及し、配偶者や家族への思いを語るなど、家庭人としての姿を積極的に発信する場面が見られる。もちろん、その背景には政治的なイメージ戦略もあるが、男性が家族を大切にし、愛情や感謝を率直に表現することが社会的に受け入れられるようになった韓国社会の価値観の変化を反映しているともいえる。

2.「優しい韓国人男性」はどのように形成されたのか

「韓国人男性は優しい」というイメージは、本質的な性質というより社会構造の影響が大きい。韓国では長く家父長制的価値観が強く、女性は抑圧の中で生きてきた歴史がある。筆者も実際に、女性親族が祭祀の準備を担いながら食事の場には着かず、男性や来客の後に残り物を口にする光景を目にしている。

筆者が本稿執筆に際してインタビューした20代前半の男性A氏、30代前半の男性B氏は、祖母や母親世代が強い性差別の中で生きてきた姿を見て育った世代であり、女性が経験してきた不平等を身近に見ている。取材対象の男性たちも「本当に大変な時代だった」と語り、その認識は単なる同情ではなく、「女性は長く我慢を強いられてきた存在だ」という理解に近い。こうした経験の積み重ねの中で、韓国社会では男女それぞれに異なる価値観が形成されていった。女性は抑圧的な歴史への反発から自立や能力発揮が促される一方、男性は「女性を尊重し、保護し、より多くの経済的負担を担うべき」という倫理的規範を内面化していった

重要なのは、この構造が現代では変化している点である。女性の高学歴化や社会進出により男女差は縮小しているが、男性に求められる「配慮」「経済的負担」「優先的役割」といった期待は依然として残っている。その結果、社会の変化に対して役割意識の更新が追いつかず、不公平感が生じている。実際、取材した男性たちも同様の感覚を語る。「女性の立場や収入は向上した一方で、男性の負担は当然視される」というものだ。30代のB氏は、男性として相対的に多くの経済的負担を担うこと自体には不満はないとしながらも、それが当然とされ女性から感謝されない点に強い違和感を示した。

こうしたすれ違いは、どちらか一方の問題ではなく、社会変化と意識の更新速度のずれから生じている。「優しい男性」であることを求められてきた側の疲れと、その前提を当然とする側の認識の間に距離が生まれ、それが現在の男女葛藤の背景となっている。

3.韓国社会を覆う「男女葛藤」という名の社会疲労

韓国では現在、「男女葛藤、フェミニズム、反フェミニズム」という言葉が日常的に使われるほど、ジェンダー対立が深刻化している。その背景には、単なる価値観の違いではなく、社会構造そのものの変化がある。

■ 住宅価格高騰と“結婚できない男性”の増加

韓国では伝統的に、結婚時に男性側が住居を準備する文化が強い。しかし2017年以降、特にソウル首都圏の不動産価格が急騰し、若年男性にとって住宅購入は現実的でない水準となった。これにより結婚への経済的ハードルが大きく上昇した。一方で、女性が結婚相手に経済力を求める文化は依然として残っている。その結果、男性は「結婚コスト」に耐えられず恋愛や結婚を諦め、要求事項の多い自国女性との関係から距離を置くようになる。一方で女性側も条件に合う男性が見つからず晩婚化が進み、出生率は世界最低水準へと低下している。これは単なる恋愛問題ではなく、「都市部における生活維持コストの限界」が人間関係を圧迫している現象でもある。

■ 離婚リスクへの恐怖と相互不信

韓国では離婚後の財産分与や親権をめぐる対立も激しい。男性コミュニティでは「韓国人女性と結婚すると財産を失う」といった言説が、女性コミュニティでは「あと数年耐えれば家が手に入る」といった言説が拡散されている。もちろん、これらは社会全体を代表する意見ではない。しかし重要なのは、極端な言説が支持を集めるほど相互不信が進んでいるという点である。男女葛藤は単なるSNS上の対立ではなく、社会的信頼の崩壊でもある。

■ 「男女対立」を利用する政治

さらに深刻なのは、政治がこの対立を動員し始めている点である。韓国では保守系「国民の力」と革新系「共に民主党」の2大政党が対立する中で、各政党が男女いずれかを支持基盤として取り込み、対立を強めている。例えば、深刻な就職難の中で2年近い兵役によりキャリア形成が遅れる男性が不利を被る一方で、女性の支持が厚い政党は女性の社会進出を掲げ、「女性支援政策」を強化している。

■ 度を越した女性保護

職場では女性優遇が顕著である。「女性は保護されるべき」という固定観念により、女性のみが夜勤や屋外業務を免除されるケースもある。例えば大雪の日、除雪作業をしていたのが全員男性だったにもかかわらず、オンライン上では「女性は一人もいなかった」という投稿が話題になった(キム, 2022)。これを受け、「肉体的負担が男性に偏っている」という不満も広がった。
また韓国保健社会研究院の調査では、「男性がより不平等を経験している」と答えた20~30代男性はそれぞれ74.6%、52.9%に達している(ヤン, 2021)。特に20代男性では兵役や女性優遇により不利益を感じる傾向が強いとされる(ヤン, 2021)。

■ 女性が感じる不平等

一方で女性側も、義家族への労働負担、出産・育児によるキャリア中断、デジタル性犯罪への不安などを抱えており、「女性優位社会」とは言えない。韓国政府女性家族部の調査では、不平等の原因として「女性という理由で家事・育児負担が当然視されること」「家事負担が男性の約2倍であること」が上位に挙げられている(宗教とジェンダー研究所, 2022)。またキム・スハン高麗大学教授は、「20代女性は能力があるにもかかわらず男性より不利な位置にあると感じる女性が多い」と述べている。

こうした男女対立は韓国に限った現象ではない。経済停滞、雇用不安、住宅価格高騰といった社会的閉塞感が強まると、人々は不安や不満を最も身近な他者へ向けやすくなる。そしてその対象は異性になりやすい。日本社会もこの流れと無関係ではない。男女間の相互不信が常態化すると、家庭形成だけでなく、子どもの情緒的安定、地域共同体への参加意識、教育現場での社会的信頼の形成にも影響が及ぶ。

4. おわりに

「優しい韓国人男性」という現象は、単なる恋愛文化ではない。少子化、住宅価格高騰、家族制度の変容といった社会構造の変化のなかで、ジェンダー秩序そのものが再編されつつある韓国社会の深層を映す社会的症候である。韓国で進行している男女葛藤も、単なる恋愛観や価値観の対立ではない。急速な経済成長と都市化によって従来の家族制度が揺らぐ一方、新しい男女関係や共同体の規範が十分に形成されないまま、住宅・就職・結婚・出産といった生活基盤への不安が拡大した結果として生じた、社会全体の疲弊だと言える。

そして重要なのは、この問題が韓国固有のものではないという点である。少子高齢化、住宅価格高騰、非婚化、SNSによる分断、雇用不安といった課題は、日本社会にも共通している。韓国はむしろ、日本より先にその矛盾が表面化した「先行社会」とも言える。家族の不安定化や孤立の拡大は、教育格差や精神衛生、地域共同体の弱体化にもつながる。男女葛藤を単なるSNS文化として消費するだけでは、その背後で進行する社会的孤立や共同体の崩壊を見落とすことになる。

続稿では、増加している国際結婚、とりわけ日本人女性と韓国人男性の結婚を取り上げ、その背景にある経済構造や恋愛観の変化について考察を深める。

なお、本稿の執筆にあたり、インタビューに応じてくれたA氏・B氏、ならびに貴重な助言を賜った上昌広医師に深く感謝申し上げる。

#この記事はMRIC by医療ガバナンス学会の以下の記事の転載です。「Vol.26121 「優しい韓国人男性」はなぜ生まれたのか ― 少子化・男女葛藤・国際結婚ブーム」2026年7月6日

参照
KBS WORLD (2026). 韓日で国際結婚が増加 韓国人男性と日本人女性が大幅増。https://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=92844 より取得

キムギョンフン (2022). 公務員たちは激怒する…なぜ男だけ除雪作業をするのか(韓国語)。ソウル経済新聞。https://www.sedaily.com/article/13297063 より取得

宗教とジェンダー研究所 (2022).「構造的差別はある」20代女性10人中7人の考えだ(韓国語)。http://www.genderpia.or.kr/bbs/board.php?bo_table=5020&wr_id=282 より取得

ヤンギルソン (2021).『「先生フェミニストですか?」 「企業広告に男性嫌悪」…地域・世代葛藤より怖い』。韓国経済新聞。https://n.news.naver.com/mnews/article/015/0004565994 より取得

(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)

写真)光復80周年の光復節を祝う「国民任命式」に出席した韓国の李在明大統領と、隣を歩くキム・ヘギョン夫人
韓国・ソウル

出典)Jeon Heon-Kyun – Pool by Getty Images


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加藤華 略歴
加藤 華(医療ガバナンス研究所 元インターン)
2001年生まれ。米国カリフォルニア州で公衆衛生を学ぶ。大学時代に医療ガバナンス研究所でのインターンシップに参加する。卒業後に韓国人の夫と結婚し現在は韓国在住。現在も引き続き上昌広医師の指導のもと、韓国社会における医療問題や構造的課題について、MRIC(Medical Research Information Center)にて寄稿活動を行う。




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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