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.国際  投稿日:2026/6/4

エネルギー危機が変える日韓関係 ― 対立から「社会維持」の時代へ


加藤 華(医療ガバナンス研究所 元インターン)

 

【本稿のポイント】

・中東発のエネルギー危機を背景に、5月19日の日韓首脳会談で原油、石油製品の相互融通体制づくりに合意。資源を持たない両国が「一国だけでは支えきれない」現実を共有した。

・韓国では訪日旅行が日常化し、特に若い世代を中心に「反日」一色とは言えない対日感情へと変化している。観光・文化・人の往来による結びつきが年々深まっている。

・エネルギー・物流コストの高騰は医療や教育など社会インフラの維持を圧迫している。今回の協力は友好論ではなく、「社会維持」を共通課題とする成熟国家同士の新たな協力モデルになりうる。

 

1. エネルギー危機が変える日韓関係

このニュースは単なるエネルギー政策の話ではなく、現在の日韓関係、さらには東アジア全体の変化を象徴する出来事として注目できる。今回の会談場所となった安東は、李大統領の故郷として知られる地域である。前回の首脳会談は、高市首相の地元・奈良で行われており、短期間のうちに互いの故郷を訪問し合った形となった。韓国メディアもこの点を強調し、「新しい日韓関係」の始まりとして好意的に報じていた。

特に興味深いのは、両首脳とも、以前は相手国から警戒されていた政治家だったという点である。高市首相は保守色の強い政治家として知られ、韓国では就任当初、「対韓強硬派ではないか」という見方も少なくなかった。一方、李大統領も、過去の反日的な発言や反日デモへの参加歴から、日韓両国で「対日強硬姿勢を持つ政治家」というイメージが定着していた。しかし現在では、韓国国内メディアや識者の間で、高市政権を「感情論よりも現実的な対韓管理を重視する政権」と見る論調もみられる。

また、李政権についても、「国内向けの政治発言」と「実際の外交」を切り分け、現実的な対応を優先しているという評価が目立つ。つまり両国とも、理念や感情だけでは国家を運営できない現実に直面しているのである。

その背景にはエネルギー問題がある。中東情勢の悪化によって、韓国国内ではガソリン価格が一時、リットル200円を超える水準まで上昇した。公務員や公共機関職員に対し、自家用車通勤を控えるよう要請が出された時期もあった(中央日報日本語版, 2026)。日本でも物価高は深刻だが、エネルギー資源の大半を輸入に頼る韓国では、「海外情勢次第で国民生活が容易に揺らぐ」という不安がさらに強い。だからこそ、今回の日韓協力には大きな意味がある。これは単なる「友好ムード」による協力ではない。むしろ、資源を持たない国同士が、「有事の際、一国だけでは支えきれない」という現実を共有した結果とも言える。

2. 変化する対日感情

さらに日本で根強い「韓国=反日」というイメージも、いまの韓国社会をそのまま表しているとは言い難くなっている。近年、韓国では日本旅行が完全に日常化している。日本政府観光局の最新のデータを見ても、訪日外国人の68.3%が東アジア(韓国、中国、台湾、香港)からの観光客であり、そのうち韓国人観光客が圧倒的1位を占めた (2026)。韓国メディアでは、「日本の47都道府県すべてで、最も多い外国人観光客は韓国人だった」とする報道まである。数字の正確性には検証が必要だが、少なくとも韓国社会で日本が非常に身近な存在になっていることは間違いない。

【出典】訪日外客数 2026年 各国・地域別の内訳(日本政府観光局・JNTO)

特に若い世代にとって、日本は「歴史問題で葛藤がある国」である以前に、「気軽に旅行へ行く国」「文化を楽しむ場所」として認識されている。かつて強い政治的意味を帯びていた「NO JAPAN」運動についても、現在では「むしろ航空券が安くなるのではないか」と冗談交じりに語られる場面すらみられる。

もちろん、歴史問題が消えたわけではない。政権交代や外交問題をきっかけに、日韓関係が再び悪化する可能性も十分にある。しかし、それでも以前と大きく違うのは、日韓両国がすでに「対立だけでは成り立たない関係」に入りつつある点だろう。エネルギー、安全保障、観光、文化、人の往来――そうしたつながりは年々深くなっている。政治的対立があっても、完全に関係を切り離すことが難しい段階に入り始めているのである。

3. 社会維持コストが変える東アジア

これは単なる外交やエネルギー安全保障の問題にとどまらない。近年では、エネルギー価格や物流費の高騰そのものが、社会インフラ全体を揺さぶり始めている。そして、その影響は医療や教育の分野にも及んでいる。日本と韓国はともに、少子高齢化、地方人口の流出、若年層の減少という共通課題を抱えている。

また近年はエネルギー価格や物流費の高騰が、医療・教育現場そのものを圧迫している。病院では電気代や医療機器維持費の上昇が経営を直撃し、教育機関でも施設維持費や研究コストの増加が大きな負担となっている。これまで当然のように維持されてきた社会インフラが、「コストさえ払えば永続的に維持できるものではない」という現実が、急速に可視化され始めているのである。そして、こうした問題は、もはや一国だけで完結できる性質のものではない。

エネルギー、安全保障、サプライチェーン、人材移動――そのどれか一つが不安定化するだけで、国民の日常生活は容易に影響を受ける時代になった。だからこそ今回の日韓協力は、単なる外交イベントとして片付けるべきではない。そこには、「国同士が対立していても、社会を維持するためには協力せざるを得ない」という、東アジア共通の現実が表れているのである。

特に韓国では、長期的な経済停滞や少子高齢化などによって、「国内だけで全てを維持できる」という前提そのものが揺らぎ始めている。一方、日本でも地方経済やインフラの維持は年々困難になっており、問題の本質は両国に共通している。実際、日本海側や九州地方を中心に、韓国人観光客の増加が地域経済に与える影響は年々大きくなっている。

今回の日韓協力の背景には、感情的対立よりも社会維持を優先せざるを得ないという、東アジア共通の構造変化が存在している。日韓両国は、高度成長を前提とした社会モデルそのものが転換期を迎えている。今後の日韓協力は、理想主義的な友好論ではなく、社会維持コストの上昇という現実に対応する「少子高齢化と成長鈍化に直面する成熟国家同士の新たな協力モデル」となる可能性もある。

#この記事は医療ガバナンス学会のサイトに掲載された濱木珠恵氏の記事の転載です。

参照:

読売新聞(2026)『日韓首脳会談―エネルギー確保でも協力深化』https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260519-GYT1T00325/ より取得

中央日報日本語版(2026)『石油価格規制する韓国政府、きょうからは車両5部制』

https://japanese.joins.com/JArticle/346654?sectcode=400&servcode=400 より取得

日本政府観光局(JNTO)統計データ

https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph–breakdown–by–country より取得

 

(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)

 

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加藤華 略歴

加藤  華(医療ガバナンス研究所 元インターン)

2001年生まれ。米国カリフォルニア州で公衆衛生を学ぶ。大学時代に医療ガバナンス研究所でのインターンシップに参加する。卒業後に韓国人の夫と結婚し現在は韓国在住。現在も引き続き上昌広医師の指導のもと、韓国社会における医療問題や構造的課題について、MRIC(Medical Research Information Center)にて寄稿活動を行う。




この記事を書いた人
加藤華

2001年生まれ。米国カリフォルニア州で公衆衛生を学ぶ。大学時代に医療ガバナンス研究所でのインターンシップに参加する。卒業後に韓国人の夫と結婚し現在は韓国在住。現在も引き続き上昌広医師の指導のもと、韓国社会における医療問題や構造的課題について、MRIC(Medical Research Information Center)にて寄稿活動を行う。

加藤華

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