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.国際  投稿日:2026/8/25

イラン戦争「後始末」に明け暮れるトランプ政権、次の狙いは北朝鮮か


宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#34

2026年8月24-30日

【本稿のポイント】

・トランプ政権がイラン戦争の「後始末」に明け暮れる中、中間選挙を意識した次の「目眩まし」作戦として北朝鮮再接近が浮上したが、米保守派内でも懐疑論が少なくない。

・ロシアでは、体制内の著名エコノミストであるアンドレイ・クレパチ氏(対外経済銀行チーフエコノミスト)が「ロシアは消耗戦に勝てない」「経済は持ちこたえるが社会危機に至る」と発言したことで突然解雇された。

・ベッセント米財務長官は8月24日、対イラン「経済的追放作戦(Operation Economic Outcast)」を発表し「Economic D-Day」と呼んだが、軍事作戦の失敗後に二次制裁を強化するという順序倒錯には疑問がある。

 

先週末、高校時代から続いているブラスロック系バンドのライブ公演を、何とか「成功裏」に、というか「痙攣や心臓発作」もなく、「無事に」終えることができた。平均年齢約70歳の、「オヤジ」バンドというより「ジジイ」バンドとでも呼ぶべき音楽集団にしては上出来だった。大雨の中、聞きに来て下さったお客様各位に心より御礼申し上げる。

 

さて、今週もトランプ政権はイラン戦争の「後始末」に明け暮れているようだ。「裸の王様」が、「オオカミ少年」を繰り返した挙句、「損切り」すら出来ずに、次の「目眩まし」の機会を狙うという、トランプ政権の基本パターンは今も健在だ。米財務長官が24日に発表した対イラン「経済的追放作戦」については最後に触れよう。

 

今週最も気になったのは、トランプ政権が狙う次の「目眩まし」作戦について。最近米大統領は中間選挙を意識してか「北朝鮮総書記との再会の可能性を探り始めた」などと報じられたが、これこそ「イラン戦争の失敗」を象徴する動きだ。でも、「柳の下にいつもドジョウはいない」、米保守派内でも懐疑論が少なくないようだ。

 

一方、中国は敏感に反応した。19〜20日に国務委員兼外相が約5年ぶりで韓国を単独訪問したからだ。中国側は韓国に対し「真の戦略的自主を実現し、陣営対決や陣営選択に頼らず、中国・米国などと並行不悖する大国関係を発展させていくことを希望する」などと述べたと報じられた。

 

こうした動きを「中国抜きで半島秩序が組み替えられることへの危機感」と見る向きも一部にある。そうかもしれないが、中国はもう少し余裕があるのでは?北朝鮮にとって「中国は年金」、「ロシアは宝くじ」という表現があるそうだ。最近の露朝関係の進展もあくまで一時の「宝くじ」当選であって、中長期的な収入源ではないということか。

 

だとすれば、北朝鮮にとって「米国」は宝くじ以下、もっとリスクの高い「博打」でしかない。トランプ氏が如何に「目眩まし」作戦で揺さぶりをかけても北朝鮮は「核兵器放棄」などしないし、米側だって「敵視政策」を撤回する気などないだろう。なるほど、最近北朝鮮が米側の送る「秋波」に「冷淡」な理由も分からないではない。

 

もう一つ筆者が気になったのは、中国側が「朝鮮半島の非核化」に言及しなくなったことだ。一方、韓国大統領も6月に「段階的非核化」、すなわち「核開発凍結、縮小と段階を踏みながら非核化する」案を米大統領に伝えたという。最近は米韓関係もギクシャクしている、このままでは中露朝の「高笑い」が続くのではないかと懸念する。

 

さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「“ロシアは消耗戦に勝てない”、著名エコノミストが突然解雇――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者もロシア経済の行く末には強い関心があったのでとても興味深く読んだ。

 

「“ロシアは消耗戦に勝てない”、著名エコノミストが突然解雇――ロシア・メディアより」

 

ロシアの著名な経済学者アンドレイ・クレパチ氏が、ロシアの政府系金融機関である対外経済銀行(VEB)のチーフエコノミストの職から突然解雇された。解雇の理由は明らかにされていないが、今年5月に開催された討論会での、同氏のロシア経済の現状に関する報告が原因とみられている。

この時の同氏の発言が8月14日付のモスクワ・タイムズに取り上げられ、その内容が広く拡散したわずか2日後に解雇された。VEBのトップ、イーゴリ・シュワロフ氏が、「上からの電話」を受けての決定だったとされる。

ロシアでは、2022年のウクライナ全面侵攻以降、政府に批判的な多くの学者や専門家が職を解かれたり、「外国の代理人(スパイ)」認定を受けるなどして、活動を縮小するか、あるいは海外への事実上の「亡命」を余儀なくされるなどしてきた。

だが、興味深いことに、今回解雇されたクレパチ氏は反体制派ではない。ロシアの経済政策の中枢に長く身を置いてきた、むしろ「体制内」の経済学者である。それだけに今回の解雇は注目を集めており、独立系メディアからは、これまで一定程度許容されてきた「体制内の異論」の終わりを示すとの見方も出ている。

そこで今回は、独立系メディアが伝えたクレパチ氏の発言と、解雇の背景に関する分析を紹介したい。「体制内」の経済学者でありながら、同氏のロシア経済に対する見通しは非常に厳しく、社会危機の可能性にまで言及している。こうした発言が体制内の著名な経済学者から出たこと自体、政策エリートの一部で募る危機感の表れと見ることもできそうだ。

◆「“経済は持ちこたえる。しかし、誰も予想しない時に社会危機に至る”、VEBチーフエコノミストを解雇に追い込んだ報告」、8月18日付The Insider(※一部要約)

この記事は、5月にクレパチ氏がニキーツキー・クラブの会合で行った、ロシア経済の現状に関する当該の報告の主要な内容を紹介したものである。(以下は、クレパチ氏の発言内容を一部要約したもの)

    近年、世界全体が前例のない紛争と課題に直面している。そこで問題となるのは、ロシアが今後、主権を有する大国であり続けるのか、それとも、中国に圧倒的に依存する国家へと変わってしまうのかという点だ。ロシアが中国のさまざまな規制上の要求にどこまで従うことになるのか、そして中国企業がロシア経済のさまざまな部門を支配することをどこまで認めることになるのか、ということだ。

    かつてロシアの政策は、先進的な西側文明の一員となることを目指していた。しかし、世界規模の対立が続く状況では、「特別軍事作戦」が終結した後でも、ロシアが欧州統合型のモデルに戻ることはないだろう。

    ロシアの金融政策は特異だ。戦争をして、国防産業に巨額の資金を投じながら、資金調達コストを高くすることで経済、とりわけ民間部門を締め上げている。戦時中にこのような政策をとった歴史的な例はほかにない。

    われわれが経済に対して何をしようとも、ロシア経済は生き残る。問題はむしろ、ロシアが遅れをとっていることだ。世界における技術競争でも経済競争でも、中国や米国にだけでなく、ある面ではウクライナにも負けている。この消耗戦において、ロシアが競争に勝つことはない。

    私の考えでは、経済そのものは持ちこたえる。しかし、誰も予想していない時に、社会的危機が発生する可能性がある。思い出してほしいのは、二月革命も誰も予想していなかった。

    私は、ロシアが崩壊することはないと信じている。しかし、われわれが社会的危機に至ることについては、ほぼ確信している。経済的に崩壊することはないが、われわれの立ち遅れは拡大し続け、それに伴うあらゆる結果が生じるだろう。

◆「VEBチーフエコノミストは何を語り、その解任は何を意味するのか」、8月20日付Important Stories(※一部要約)

    クレパチ氏は高い経済成長率を支持してきた。しかし戦時下では、それを達成することはできない。そして、そのことを論証する過程で、クレパチ氏はクレムリンにとって許容可能な範囲を越えてしまった。

    わずか数時間のうちに解任されたクレパチ氏のケースは、ありふれた人事ではない。これは、ロシアの国家機構内部に、戦争に対する隠れた不満がいかに深く根を張っているかを示す指標である。こうした反対論は「イソップの言葉」を使い、隠された形で、暗示によって語られている。今後数年のうちに、プーチン体制はこうした「忍び寄るような反対派」を一掃していくだろう。

    クレムリンは、経済がまずまずの状態にある間は、こうした専門家による静かな反対論を容認する用意があった。しかし、2025~2026年に状況は変わった。

    連邦予算・地方予算の赤字拡大、増税、民生産業の落ち込み、支払い遅延・未払いの増加、ウクライナ軍による製油所や物流への攻撃、そして何よりも、こうした問題があるにもかかわらず、上層部に戦争を終わらせる意思がないことによって、問題は専門家だけでなく一般の人々にとっても明白なものとなった。

    したがって、近いうちに「専門家」であることも、もはや弾圧を免れるための「保証」にはならなくなるかもしれない。「静かな専門家による反対論」は、地下に潜る時が来ている。

◆「VEB、ロシアの敗北と社会危機について発言したチーフエコノミストのアンドレイ・クレパチ氏を解任」、8月16日付The Bell(※一部要約)

    アレクサンドラ・プロコペンコ(ベルリン・カーネギー・ロシア・ユーラシア・センター上級研究員)はクレパチ氏の解雇について、次のように述べた。

    「クレパチ氏を解任したところで、彼が指摘する迫りつつある危機を先送りできるとは到底思えない」

    「ほぼゼロに近い経済成長率、軍需と民生で成長速度が二極化した産業、非生産的な国防支出が増大する一方での投資減少――こうした問題が見えないのは、尊敬される経済学者ではなく、給料をもらってプロパガンダをしている人々くらいだ」

    プロコペンコ氏によれば、クレパチ氏は以前から自らの見解を主張することを恐れない人物であり、その経済予測も「誰かに気に入られようとするのではなく、現実の評価に基づくもので、しばしば公式の数字よりも悲観的だった」という。

 

続いては、これも、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。どうやら「夏枯れ」は終わったようであるが・・・。

 

8月25日 火曜日 WHO(世界保健機関)のアフリカ地域保健相会合(エチオピア)

欧州理事会議長、欧州国歴訪を開始

 

8月26日 水曜日 仏首相、仏領海外県マヨット訪問(2日間)

インドネシアで年次軍事演習Super Garuda Shield開始、米豪加英仏日韓、NZ、シンガポールも参加

 

8月28日 金曜日 独、バルト海安全保障首脳会議を主催

 

8月29日 土曜日 アイスランド、EU加盟の是非を問う国民投票

 

8月30日日曜日 ギニアビサウ、憲法改正国民投票

パラオ、 太平洋島嶼国フォーラムを主催

 

8月31日 月曜日 カナダの3議会選挙区で補欠選挙

 

最後はガザ・中東情勢だが、米トランプ政権の迷走は続いている。24日、米財務長官は対イラン新経済制裁措置を発表し、デジタル資産や海運、航空など重要5分野を二次制裁の対象分野に加えるとともに、イランと取引する第三国にも制裁を科すと述べた。要するに、イランを支援する国々や勢力に対する「二次制裁」の強化だ。

 

ベッセント長官の発言は:

  • イランに対する「経済的追放作戦(Operation Economic Outcast)」の実施により世界中に広がるイランの金融ネットワーク、兵器関連技術、ゴールド、暗号資産(仮想通貨)等デジタル資産などに経済的な猛攻撃をかける。
  • 全ての国や組織が米国の制裁に直面することを覚悟すべきだ。いかなる者も例外とはならない。
  • 核・ミサイル開発やサイバー活動、イラン産原油や石油製品の取引に関わった60超の団体や個人、船舶に制裁を科すが、これはイランに残された選択肢を根絶やしにするための取り組みである。
  • 今週中に制裁対象となる金融機関について重要な発表を行うが、今こそ世界の指導者たちは繁栄と孤立、平和とテロ、米国とイランのどちらかを決断すべきである。

 

特に、同長官は今回の制裁措置をEconomic D-Dayとも呼んでいる。その下りを再録すれば:

「大統領とわが国の圧倒的な軍事力は、イランの軍事能力を著しく弱体化させ、核開発計画も弱体化させた。今、我々は最終局面に入りつつある。夜明けとともに経済における「D-Day」が始まる―これは敵に対する最大規模の財政的攻勢である。President Donald Trump and the overwhelming might of our military have significantly dismantled Iran’s military capabilities and weakened its nuclear programme. Now we are entering the endgame. At dawn begins an economic D-Day — the single greatest financial offensive ever marshalled against an adversary.」のだそうだ。でも、これって、順序が逆なんじゃないの?

 

普通の戦略家なら、まず敵対国に対する「経済制裁」を課し、続いてその支援国・勢力に対する「二次制裁」を課し、どうしても言うことを聞かないなら、「軍事攻撃」を仕掛ける、という順序で考えるだろう。ところが対イラン戦はこれと真逆。「軍事作戦」で目的を達成できなかったから「二次制裁」を強化するなんて話、聞いたことがない。

 

トランプ政権が今も理解していないのは、イランにとってこの戦争が「イスラム共和制の存亡」を懸けた「生きるか死ぬか」の戦いであることだ。トランプ氏にとっては「イランでの不名誉な降伏」の「気分の悪い週末」の一つに過ぎないかもしれないが、今のイランは生き残りのためなら相当程度の犠牲も厭わない精神状態なのだから・・・。

 

更に、このような米側のEconomic D-Day攻勢に対し中露が譲歩する筈はない。特に、中国は米中首脳会談を控えているからこそ、米国の足元を見ようとするだろう。米財務長官は4月に対イラン取引の疑いがある中国2銀行への制裁を警告したが、今回は具体的な中国金融機関の名は挙げなかったようだ。やれやれ、先週書いた通り、米側が「経済制裁を下手にやり過ぎれば、イランは更なる報復措置をとるだけ」だ。そうこうしている内に「レイバーデー」週末が過ぎ、中間選挙は終盤を迎え、共和党候補者の劣勢は続く・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)

 

トップ写真:記者会見にてイランに対する新たな制裁措置を発表するスコット・ベッセント米国財務長官 2026年8月24日・米国ワシントンD.C.

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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