代表と総理を分けるべきか 国民民主党代表選「総総分離」論
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・橋本幹彦氏は、党勢拡大と地方組織を担う代表と、国会で答弁する「次の総理」を分ける党運営を提案している。
・玉木雄一郎氏は、議院内閣制では国民から首相までの委任が鎖のようにつながっており、分離すれば二重権力と責任の不明確化を招くと反論した。
・対立の芯にあるのは、憲法が定める議院内閣制の統治構造と、憲法に明文規定を持たない政党の自治の、どちらを優先するかという問いである。
国民民主党代表選挙の候補者討論会が2026年8月22日、党公式YouTubeチャンネルで配信された。争点のひとつになったのが、橋本幹彦氏が掲げる党運営の分離構想である。党を代表し組織を預かる者と、国会で政権を担う「次の総理」を分ける――この提案に、玉木雄一郎氏は「二重権力になる」と正面から異を唱えた。
【動画】Go!Go!こくみんライブ~代表選候補者討論会(第1回)~(国民民主党公式YouTubeチャンネル、2026年8月22日配信) https://www.youtube.com/watch?v=TCNlMoJkgTQ
「代表」と「次の総理」を分ける
橋本氏は政見表明で「次の内閣、総理大臣、次の総理を決め、その元で政権の構想を練っていく」と述べた。候補者間討論では、その狙いを役割分担として説明した。「代表は党勢拡大について、こと地方組織について責任がある。総理は国会において責任がある」。
根拠に置くのは、国民民主党は国会議員だけの政党ではない、という党観だ。「国民民主党の中の一部が国会であるし、……一部が各支部、党員サポーターの皆さんと一緒に運営していく党支部である」。国会議員だけの党にしないための権限配分、という組み立てだ。
「チェーンが切れる」――玉木氏の議院内閣制論
玉木氏はこれを「いわゆる総総分離論」と呼び、「内閣総理大臣になる地位と、党の代表の地位を分離する」構想だと要約したうえで、「私は二重権力になるし、議院内閣制のもとでは責任の所在が曖昧になってしまうのではないか」と問うた。
論拠は憲法の統治構造にある。日本国憲法は内閣総理大臣を「国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」(67条1項)と定め、内閣は「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」(66条3項)と規定する。衆議院憲法調査会事務局がまとめた基礎的資料も、この二つを議院内閣制の中心的な要素として挙げ、その特質を「内閣と与党との一体化による迅速な意思決定と実行」と説明している。
玉木氏はこれを鎖(チェーン)に喩えた。「議会において多数を占めた、いわゆる与党のトップが行政権のトップを占めることによって、国民からチェーンのようにつながるガバナンスが、そこで繋がる」。切れればどうなるか。「政府としては進めたいけれども、与党の党首が反対しているからできない、ということにもなりかねない」。そのうえで「権力の鎖としてのガバナンスが切れるのは、古い新しいではなくて、憲法上の疑義も生じるのではないか」と述べた。
玉木氏はさらに、首相が国会答弁で立場を使い分ける現実を挙げた。「大事なことを聞こうとしたら、それは内閣総理大臣なので党のことは答えられませんとかね。……政府の立場と使い分けるわけですよね。それを正面からやるみたいなことになる」。
実際、2020年1月27日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相(当時)は「私は総理大臣としてここに立っておりますので、自民党総裁としてのお答えは差し控えさせていただきたい」と答弁している。
「使い分けはすでに起きている」――橋本氏の反論
橋本氏はこの例を逆手に取った。「それはまさに総裁と総理が一致していても、そのようなことが起きるということなんだと思います」。大事なのは「誰がどこに対して責任を持っているのかというところが明確になっていること」であり、一致させれば曖昧さが消えるわけではない、という反論である。憲法上の疑義という指摘にも「それは当たらないと思います。政党は政党としての組織ですから、党としての自治がある」と返した。
憲法に政党の規定がないのは事実である。衆議院憲法調査会事務局の資料は「日本国憲法は、政党に直接言及するところがない」と記す。最高裁も八幡製鉄献金事件(1970年6月24日判決)で「憲法は政党について規定することがなく、これに特別の地位を与えていないのであるが……憲法は政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである」と判示した。憲法が前提としながら書き込まなかった領域に、党の自治は置かれている。
宿題として残った「幹事長」
玉木氏はもう一点、分離した場合に代表と幹事長の役割をどう切り分けるのかを問うた。「あえて総理と分離した、その新しくできる総理ではない総裁と、党を司る幹事長の関係が、また極めて曖昧になるのではないか」。自民党の党則は、総裁を「党を代表し、党の最高責任者であって、党務を総理する」と定め、幹事長を「総裁を補佐し、党務を執行する」と規定している。代表の職掌を党勢拡大と地方組織に絞れば、この補佐関係の起点そのものが動く。
もっとも、政府と与党が別の意思を持つこと自体は常態である。国立国会図書館調査及び立法考査局の資料は、内閣提出法律案について「与党に対しては、説明の上、その了承を得なければ、国会への法律案の提出は事実上できない」と記す。二元性は制度に織り込まれている。問題は、意見が割れたときの裁定が通ってきた担保が、総理と総裁が同一人物であること――党務の総理者であることに置かれてきた点にある。
橋本氏の答えは、幹事長は「どこの党にもある役職」だが、他国の政党では必ずしも同じ構造ではない、というものだった。諸役職は分離に合わせて改革されるべきものだと述べるにとどまり、具体的な設計は示されなかった。
党首と首相が別人である状態自体は現実にも生じる。自民党総裁選挙の投開票は2025年10月4日、首相官邸の歴代内閣一覧によれば第104代・高市早苗内閣の発足は同年10月21日で、この間がそれにあたる。ただし政権移行に伴う一時的な状態であり、恒常的な制度として設計する橋本氏の提案とは位置づけが異なる。
議院内閣制の委任の連鎖を重んじるか、憲法が書き込まなかった党の自治を広く取るか。両氏の応酬は、党員・サポーターに政策の選択ではなく統治構造の選択を差し出した。
【動画】Go!Go!こくみんライブ~代表選候補者討論会(第1回)~(国民民主党公式YouTubeチャンネル、2026年8月22日配信) https://www.youtube.com/watch?v=TCNlMoJkgTQ
◆番組で語られたそのほかの論点
・15:56〜 党で変えるべきものと、変えてはいけないもの
・18:03〜 国民生活の捉え方と、経済政策・社会保障のあり方
・21:06〜 自治体議員と国会議員の関係、政策実現の進め方
・24:49〜 首都圏と地方都市のあり方
・28:19〜 子供たちに残したい日本の姿
・31:28〜 国家ビジョンと憲法改正(地方自治の本旨をめぐる議論)
・35:24〜 党員サポーターの意見聴取と、政権構想チームの設置
・41:49〜 代表としての発信と、政治家個人としての発信の区別
・52:25〜 就職氷河期世代への対策
【よくある質問(FAQ)】
Q.内閣総理大臣の指名について、衆議院と参議院で議決が異なった場合はどうなりますか。
A.日本国憲法67条2項は、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて10日以内に参議院が指名の議決をしないときは、「衆議院の議決を国会の議決とする」と定めています。
Q.内閣はどのようなときに総辞職しなければならないのですか。
A.日本国憲法69条は、衆議院で内閣不信任の決議案が可決され、または信任の決議案が否決されたときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、内閣は総辞職をしなければならないと定めています。
関連リンク
トップ写真:橋本幹彦候補(左)と玉木雄一郎候補(右)2026年8月22日 出典:Ⓒ国民民主党「Go!Go!こくみんライブ~代表選候補者討論会(第1回)」
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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