「80兆円の対米投資、中身を精査すべき」玉木氏
執筆者:安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
- 玉木雄一郎氏は、5,500億ドル規模の対米投資について、利益配分などの条件を改めて精査すべきだと主張した。
- 米連邦最高裁が無効と判断したのはIEEPAに基づく関税であり、対米投資の了解覚書そのものではない。
- 橋本幹彦氏は、日本が米国の意思決定を共有する同盟国として、果たしてきた役割を明確に示して交渉すべきだと訴えた。
国民民主党代表選の最終盤、9月3日のJapan In-depthチャンネルライブ討論で、玉木雄一郎氏が、5,500億ドル規模の対米投資について「中身をもう1回きちんと精査した方がいい」と述べた。玉木氏はこの投資を「80兆円」と表現した。関税引き下げと対米投資を組み合わせた日米合意のうち、相互関税の根拠とされたIEEPAについて、米連邦最高裁は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断している。
玉木氏「9対1の利益配分、不平等条約になっていないか」
玉木氏は、対米投資について「元々関税を下げてもらうために投資をすると決めた」と述べた。その上で、米連邦最高裁が関税の法的根拠を否定したと指摘し、「本当に9対1の利益配分とか、不平等条約になっていないのか」と述べ、JBICにも触れながら、条件を改めて精査すべきだとの考えを示した。
さらに「あんだけアメリカに投資するんだったら、国内にやっぱり投資をして、香川県とか埼玉県とか宮城県とかにもっと投資するように政策は誘導していくべきではないか」と続けた。発言はJapan In-depthのライブ討論(37分26秒付近から)で確認できる。
玉木氏が挙げた「9対1」は、2025年9月4日に署名された日米の戦略的投資に関する了解覚書(内閣官房の仮訳)の記述に沿う。投資から生じるキャッシュフローは、みなし配分額に等しい合計額が日米それぞれに分配されるまでは「米国に50%、日本に50%」、その後は「米国に90%、日本に10%」と定められている。
投資先は、米商務長官が議長を務める投資委員会の推薦に基づき、米大統領が選定する。ただし、推薦前には日米双方の指名者で構成される協議委員会と協議する。投資規模の5,500億ドルは財務省の共同ファクトシート発表でも確認できる。
最高裁判断はIEEPA関税に限定、投資案件は進行
米連邦最高裁は2026年2月20日、IEEPA(国際緊急経済権限法:International Emergency Economic Powers Act) は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。判決は6対3だった。
もっとも、判決によって日本向けの関税がすべて消えたわけではない。最高裁が判断したのはIEEPAに基づく関税であり、自動車・同部品などに適用される1962年通商拡大法232条に基づく関税は別の法律による。玉木氏の「法的根拠は否定されている」との発言は、日米合意のうちIEEPAを根拠とした相互関税に関する部分を指すとみられる。
対米投資はすでに動き始めている。判決の2日前に当たる2月18日、日米両政府は第1陣の3件を発表した。工業用人工ダイヤの製造(総額見込み約6億ドル)、米国産原油の輸出インフラ(約21億ドル)、AIデータセンターなどに電力を供給するガス火力(約333億ドル)である。
さらに3月19日の日米首脳会談では、第2陣として、小型モジュール炉(SMR)の建設(推定額最大400億ドル)などが発表された。玉木氏の言う「精査」は、すでに具体化が進む案件にも向けられた問いかけになる。
橋本氏は同盟国としての日本の立ち位置を強調
同じ場面で、橋本幹彦氏は金額には触れず、対米関係の立ち位置を論じた。「意思決定を共有する同盟国なんだというところを、さらにはっきりと述べていく」「日本はアメリカにおんぶに抱っこということではなかった」とした上で、日本は米国に戦略的利益を提供し、「米国にとって世界中で最大の海外拠点を提供している」と主張した。
玉木氏は投資条件の再検証を求め、橋本氏は同盟国として日本が果たしてきた役割を明確に示して交渉する必要性を訴えた。両氏の発言は正面から対立するものではなく、対米交渉を別の角度から論じたものだ。
了解覚書本文は、日本側の個別の資金提供主体や案件ごとの負担額を明記していない。政府はJBICの出融資やNEXIによる民間金融機関の融資保証などを活用する方針を示している。一方、各案件について、どの機関・企業が、いつ、どの手法で、いくら負担するのかという全体像は、なお見えにくい。
誰がどのリスクを負い、日本側にどのような利益が戻るのか。玉木氏の言う「精査」には、こうした個別案件の資金構造と判断過程の開示も含まれるだろう。
国民民主党代表選のネットの投票は9月3日(木)23:59。投開票は9月6日である。日程は国民民主党の代表選公式スケジュールで確認できる。
【よくある質問(FAQ)】
Q1 米最高裁は対米投資の了解覚書を無効にしたのか。
A 無効にしていない。最高裁が判断したのは、IEEPAが大統領に関税を課す権限を与えているかどうかであり、日米の了解覚書そのものの有効性ではない。
Q2 利益は最初から米国90%、日本10%で分配されるのか。
A 最初からではない。みなし配分額に等しい合計額が日米それぞれに分配されるまでは50%ずつで、その後に米国90%、日本10%となる。
Q3 投資先は日本側が決められるのか。
A 最終的には米国大統領が、米国側の投資委員会の推薦を受けて選定する。ただし、推薦前には日米双方の指名者で構成される協議委員会との協議が行われる。
関連リンク
- Japan In-depth「玉木雄一郎氏・橋本幹彦氏 国民民主党代表選 最後の論戦!」
- 内閣官房「日本国政府及びアメリカ合衆国政府の戦略的投資に関する了解覚書」(仮訳)
- 財務省「日米間の投資に関する共同ファクトシート」を発出しました
- 米連邦最高裁判所判決(2026年2月20日)
- 経済産業省「日米政府の戦略的投資イニシアティブの第一陣プロジェクトについて」
- 外務省「日米首脳会談及び夕食会」
- 国民民主党「代表選2026 スケジュール」
トップ写真)橋本幹彦候補(左)、玉木雄一郎候補(中央)2026年9月3日
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












執筆記事一覧
















