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.国際  投稿日:2026/10/13

『高市外交の一年を診る』その4 改憲による正常化はまだ(最終)


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授) 
「古森義久の内外透視」1112回

【本稿のポイント】

・高市政権は、軍事力の行使を禁じた憲法を改正して日本を「普通の国」にすることを外交上の重要課題と位置づけ、古屋圭司氏を衆院憲法審査会長に起用し1年以内の改憲をめざしているが、実現の見通しは不透明。

・高市政権は7月末に政府全体を統合するインテリジェンス機関「国家情報局」を新設し情報収集面で正常な国家に近づいた一方、公約としてきたスパイ防止法の制定には未着手。

・戦後日本では「国家」を否定する風潮が自衛や情報収集を妨げてきたが、高市政権は安倍路線を継いでその是正に向けた前進を示し、国民多数派もその方向を支持。 

 

さてでは最後に高市政権下での日本国内での外交に影響する動きをみよう。

 

 日本という国家が国際社会で他の諸国と同様の普通の国家になることは外交面での日本の立ち位置を大きく変える。いまの日本は特殊な憲法のために安全保障面での国際関与が厳しく抑制されている。好むと好まざるにかかわらず、国際関係を動かす主要因の一つはパワー、つまり『力』、さらに具体的に述べるならば軍事力である。

 

だが戦後の日本はそのパワーの実効力を憲法で禁止した形となってきた。国際的な現実から目を背け、自国内の特殊事情だけを押し出すという姿勢だった。アメリカ占領軍が作り、主権のない日本に押し付けた憲法のためだった。その結果、日本はたとえば国連の平和維持軍にも正常の参加はできない。特定の国が軍事力で他国を侵略しても、日本はその調停にも阻止にもかかわることはできない。この異端の現状を他の諸国並みにすれば、日本外交はより通常に、より広範となる。つまり国際規範に合った普遍性を得るわけだ。

 

 その普遍性に向けての憲法改正を高市政権は主要政策の中でも大きな比重をおいて進めているようにみえる。だが現実の見通しはまだみえてこない。高市首相自身が憲法の改正が日本の外交を変えるという基本を認識していることは間違いないだろう。だがその改正という難作業をいつ、どのように進めるのかはなお不透明である。

 

 高市氏は前回の衆議院選挙で自民党に歴史的な大勝をもたらした選挙対策委員長の古屋圭司衆議院議員を新たに衆議院憲法審査会の会長という要職に就けた。改憲への大きな第一歩の先陣である。その古屋議員は「憲法改正を今後1年以内に実現したい」と言明する。改憲発議に必要な衆参両院での3分の2の支持が確保されていない参議院でも、次回の選挙を待つことなく、現状でどうにか賛成票を得られるという見通しに立っての発言だった。

 

 日本の外交、つまりは高市政権の外交をどう変えるかの重大な指針が憲法なのである。この点では高市政権の実績はまだなにも目にはみえないが、その意欲は明確だといえる。

 

高市政権がすでに公約通りに達成した日本政府全体のインテリジェンス機関、国家情報局の新設も外交にとっては大きな前進である。ごく最近の7月末の実現だった。

 

 自国に影響のありそうな国外の情報を秘密の手段を使ってでも集める情報収集機関は世界中のすべての国がすでに保有してきたといえる。だが日本にはなかった。政府全体をまとめる形での単一の情報収集機関がなかったのである。

 

これまでは警察、自衛隊、外務省、首相官邸などが各自に情報収集組織を設けて、使ってきた。だが政府全体での統一がなく、ばらばらによる非効率が多かった。同盟国のアメリカの情報機関のCIA(中央情報局)がその日本側の不統一に苦情をもらすこともよくあった。だが今回の統一組織の新設で情報収集面では正常の国家となったわけだ。この動きが日本の外交活動に寄与することは確実である。

 

他方、高市政権はほぼ公約としてきたスパイ防止法の制定にはまだ手をつけていない。日本には外国政府の工作員が日本側の秘密情報を盗んだり、政治工作を仕かけたりすること自体を禁ずる法律がない。この点でも全世界での異端である。外国のスパイ活動、つまりインテリジェンス活動を自国内での犯罪とみなすことはどの主権国家にとっても統治上の必須条件なのだ。

 

 戦後の日本では敗戦と異端の憲法の規定により、「国家」という概念への否定がかなりの支持を得てきた。戦前、戦中の出来事から国家とは国民を弾圧し、独善的な権限をふるう悪しき存在だという思考が広まった。共産主義を信奉する勢力が体制を覆すためにいまの国家や政府を悪として否定する政治の圧力がそこに加わった。

 

その結果、日本という国家の自衛も、国家としての情報の収集も、外国スパイの禁止も、国民への不当な抑圧として描かれ、否定される傾向が生まれた。国家の象徴である国旗への尊重も否定された。

 

 こうした戦後の日本の偏った傾向をなくして、国際的な標準の通常の国にしようと顕著な努力をしたのが安倍晋三氏だった。高市早苗氏もその思考を共有してきたのである。 

 

 日本が国際的にみて普通の国家になるか否かは、日本の外交の展望をも根幹から左右することになるわけだ。だが日本国内での普通の国に向けての体制の改変は憲法を始めとして、まだまだなのである。

 

 しかしながら高市政権はこの1年で日本の外交に関して正しい方向へと確実な前進の数歩を画したことは間違いないだろう。日本国民の多数派がまだまだ道遠しとはいえ、そうした方向への自国の歩みを支持しているようにみえる点には最大の期待を寄せてよいだろう。

 

(終わり。その1、その2、その3)            

#この記事は日本戦略研究フォーラムの2026年10月発行の季報に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

 

(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)

 

写真:インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議に出席する高市首相 令和8年9月28日

出典:首相官邸




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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