「十人十色」の横浜中華街 「経営・管理」ビザ厳格化への複雑な温度差
楊 文果(Japan In-depth編集部)
「十人十色」の横浜中華街 「経営・管理」ビザ厳格化への複雑な温度差
横浜開港以来、150年の歴史を誇る横浜中華街。観光客や地元住民で賑わう飲食店や雑貨店の中には、華僑・華人をはじめ、外国にルーツを持つ経営者による店が多い。ところが、令和7年10月16日より、在留資格である「経営・管理」ビザの厳格化が施行された。資本金・出資総額要件が500万円から3000万円へ引き上げられ、1人以上の常勤職員の雇用を義務付けられるなど、個人店を経営する外国人経営者にとっては大きな打撃となる場合が多い。2028年10月16日まで3年間の経過措置があるが、不安の声が多く上がっている。横浜中華街で暮らす人々は、この事態をどう見ているのか。横浜中華街と、隣接する横浜中区役所を取材した。
そもそも中華街には誰が住んでいるのか? 十人十色の密な街
横浜中華街の住民というと、何世代にも渡り中華飯店を経営する中国人家族、いわゆる「老華僑」がイメージされやすいが、実はそれだけでは無い。日本人はもちろん、古くより台湾人や韓国人、インド人も生活し、近年ではさらに東南アジア各国も含めたニューカマーが生活圏としている。
更なる多国籍化に対応するため、横浜中区役所では、様々な資料を多言語で取り扱っている。例えば住所異動届は取材時点で29言語分の見本が作成され、その需要は絶えない。

また、隣接するなか国際交流ラウンジでは、ニューカマーの中高生らが交流するRainbowスペースが設置されている。中国籍の子供が最も多く、近年ではネパール籍やフィリピン籍、インドネシア籍の子供の割合も高い。定期的に開催されるイベントでは定員50人ほどのスペースが満杯になるほどの盛り上がりようだという。

居場所作りだけでなく、学校生活や受験といった日本で生活していく上の情報の共有も行う。さらに、区のお祭りや防災イベントの際にスペース利用者である子供らが通訳を務めることもあるという。地域での活躍により、「自分達は支援されるだけの存在では無い」という自己肯定感を高める狙いだ。

もちろん、中華街内での交流も古くから盛んである。この地と長く関わり、居住者の事情に詳しい人物によると、人種国籍問わず中華系保育園や中華系学校を介した住民同士のつながりが深く、「誰が何人という意識はあまり強くない」という。「(人種も在留資格も)十人十色。一括りでは語れない」。
経営・管理ビザ厳格化、中華街経営者への影響は「あまり無い」が、「従うしかない」雰囲気
では、今回のビザ厳格化によって中華街はどう変わるのか。日本華僑華人学会副会長を務める陳天璽(ちん てんじ)氏によると、横浜中華街で何代にも渡り店舗を経営する外国人経営者の多くは在留資格『永住者』を持つため、ビザ要件の厳格化によって影響を受けることは無い。街全体が「自分達には関係無い」という空気だという。一方で、2024年6月に成立・公布された改正入管法の規定に対しては、不安の声が多く上がった。税金や社会保険料を故意に支払わない場合などに永住許可を取り消すことを可能にするこの規定に対し、「今まで何十年も真面目に保険料を払ってきた。自分達が日本と築いてきた信頼関係はそんなものだったのか」というやるせなさが街に漂った。以降、政府による外国人在留資格の厳格化は加速しつつあるが、外国人住民らの間には「もう従うしかない」雰囲気があるという。
一方、近年横浜中華街に移住してきた「ニューカマー」の人々にとって経営・管理ビザの厳格化は命取りになり得る。しかし、ニューカマーの多くは街の他住民と繋がりを持たず、自国のSNSコミュニティで情報を得ている。ビザ厳格化についても、制度の詳細を把握せず、事態をまだ深刻に捉えていない人もいるという。

(写真)横浜中華街にある横浜関帝廟。本殿屋根の中央には、一般的な宝珠を思わせる位置に地球儀が据えられている。
厳格化の背景に「実体の乏しい事業」 中区では教育移住をめぐる指摘も
そもそも、今回の厳格化の背景には、在留資格の取得を目的に実体の乏しい事業を設けるケースへの問題意識がある。ペーパーカンパニー自体は一律に違法となるわけでは無いものの、不正取引の隠れ蓑になりやすいとされている。では、実際に経営・管理ビザを利用しペーパーカンパニーを設立しているのは誰で、何を目的としているのか?中区近郊で福祉活動に従事した経験のある人物によると、「推測に過ぎないため断言はできない」とした上で、中国人富裕層による教育投資の可能性があるという。
「経営・管理ビザ申請をする中国人の中で、中区近隣のインターナショナルスクールや、子供の教育について詳しく知りたがる富裕層が一定数いる」。中華街周辺には、中国富裕層に人気のインターナショナルスクールやタワーマンションが集まっている。ペーパーカンパニーを設立し、家族帯同での移住が可能な経営・管理ビザを取得すれば、タワーマンションに拠点を構え、子供をインターナショナルスクールに通わせることができる。ペーパーカンパニー設立の背景には、このような教育投資を目的としたケースも可能性として存在する。ただし、在留資格の審査を担う機関である入管の審査を通った個々の申請者が、実際には実体のない会社を設立しているのか、その点については確認できていない。
実体のない会社を排除できるのか――小規模経営者へのしわ寄せを懸念する声
中区で中国語系生活者の支援を経験した住民によると、厳格化によって引き上げられた資本要件の3000万円は、中国人富裕層にとって「はした金」だという。中には3000万円の資本金用意を困難とし、子供をインターナショナルスクールから退学させ帰国したケースもあるが、資金力のある層には新要件を満たせる人も少なくないとみられる。住民は「中国人富裕層の多くは、学歴目当てでは無く子供に自由で伸び伸びとした教育を受けて欲しいという気持ちで移住を求めている。その親心は分かる」と共感を示す。一方で、今回の厳格化は真面目に社会保険料の支払いやビザ要件のルールを守ってきた外国人経営者が経済的理由からビザの継続が困難になりかねないとして、不安を示した。



























