AIは「核兵器」に匹敵する――米中新時代の幕開けを予告する今週の首脳外交
宮家邦彦(キャノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026 #38
2026年9月21-27日
■本稿のポイント
・9月22日の日米、24日の米中首脳会談について、日本側は周到な準備のもと「適切な」申し入れを行ったが、いずれの首脳会談も国際情勢への大きな影響はない。
・ICC問題の本質は赤根所長が日本人か否かではなくICC自体の管轄権や存続をめぐる法的・政治的対立にあり、高市総理が国連演説で「赤根所長」に言及しなかったのは賢明な判断。
・米中両国はAI技術を「核兵器」に匹敵する戦略的技術と認識しており、開発のペースダウンには応じず優れた能力を追求し続けるため、今後は核抑止論の「相互確証破壊」に似た状態がAIの世界でも生まれる。
今週の関心事は22日の日米と24日の米中、それぞれの首脳会談だろう。だが、「それを言っちゃオシマイよ」的結論をお許し願えれば、これらの首脳会談でも国際情勢にあまり大きな影響はないだろう、と筆者は推測する。
どうせ日本のメディアは、高市首相が台湾についてトランプ氏に「対中譲歩しないよう」ちゃんと釘を刺したのか、とか、国際刑事裁判所(ICC)に対する制裁について米側に強く申し入れたのか、といったことしか関心はないのだろうが・・・。
筆者の経験則に基づく見立ては、首脳会談で日本側は周到な準備の末、「適切(correct)な」申し入れをそれぞれ行った、というもの。但し、台湾については、二日後の米中首脳談を考えれば、日米とも詳細なやりとりなど公表できる訳がない。
後者のICC問題についても似たようなものだ。日本では赤根所長への制裁ばかり注目されるが、事の本質は所長が「日本人か否か」などではなく、ICC自体が「生き残れるか否か」であるはず。日本よりもオランダの方がはるかに困っているだろう。
ICCの問題は想像以上に複雑だ。所長が日本人か否かではなく、これまでのICCの管轄権自体の法的議論や、トランプ政権と欧州諸国間の深刻な対立、米国内の「America First感情」に関わる内政問題などが、ややこしく絡んでいるからだ。
されば、国連演説で高市総理が「赤根所長」に言及しなかったのは当然であり、かつ賢明である。ここで「赤根」といえば、日本が「法の支配」ではなく、「日本人国際公務員の名誉」だけを問題にしていると誤解されかねないからだ。
米中首脳会談もほぼ同様。中身のない象徴的な「おみやげ」はあっても、安全保障、資源、経済、貿易問題、AIなどで中国側が譲歩する可能性は殆どないと思うからだ。この点は米側も同様だから、これも10年、20年の長期戦の一環に過ぎない。
米中がしのぎを削る「AI新時代」の核抑止論
今週筆者が最も気になったのは、実はAI問題である。最近一部AI企業経営者や専門家が、現在のAIの進歩の速度は余りに驚異的であり、いずれ人間がコントロールできなくなるからスローダウンすべしと論じているが、それは元々無理な話。
米中ともに、AI技術を単なる「先端技術」の一つとしてではなく、将来「核兵器」にも匹敵する「戦略的」な死活的技術だと認識しているからだ。この点については今週のJapan Timesに詳しく書いたので、お時間があればご一読願いたい。
簡単に言えば、近い将来、AI技術は「敵対国を戦略的に無力化できる可能性を持つ」戦略的価値を秘めており、米中いずれも、①開発のペースダウンには決して応じない、②最終的に敵対国より優れた能力をあくまで追求する、に違いないと思う。
となれば、今後はAIの世界でも、核抑止論で言う「相互確証破壊(mutually assured destruction)」に似た状態が生まれるのも、最早時間の問題である。今回の米中首脳会談はその「新たなゲーム」の幕開けを予告するものとなるだろう。
欧米から見た今週の世界の動き(9/22-9/28)
さて、通常なら次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週もお休みさせて頂き、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
9月22日 火曜日 国連総会、米、仏大統領ほか演説
米大統領、湾岸アラブ諸国、ウクライナ、ベネズエラなどの首脳と会談
9月23日 水曜日 国連総会でイランとウクライナの大統領が演説
米大統領、ガザの「平和委員会」会合に出席
中国国家主席、米国到着
モロッコで議会選挙
クリミア・プラットフォーム会合開催(NY)
9月24日 木曜日 米中首脳会談(ホワイトハウス)
国連総会でイスラエル首相、スーダン大統領が演説
9月25日 金曜日 国連総会でパキスタン首相が演説
9月26日 土曜日 国連総会でロシア外相が演説
9月27日 日曜日 仏上院議員の半数について選挙
9月28日 月曜日 国連総会終了
サウジを揺さぶる中東情勢とトランプ政権の影
最後はガザ・中東情勢だが、今週もホルムズ海峡とバーブ・ル・マンディブ海峡をめぐる状況は変わらない。ちなみに後者は、ネット上で「バブ・エル・マンデブ海峡(Bab-el-Mandeb)」などと表記されるが、より正確に言えば、アラビア語でバーブは「門」、マンディブは「悲嘆」なので、直訳すれば「悲嘆の門」海峡という意味だ。先週筆者は「最大の懸念はサウジの国内情勢」と書いた。案の定、米大統領がサウジ皇太子からの「対フーシ派攻撃」要請を拒否したと先週報じられ、その後仕方なくサウジは「イスラエルにも声を掛け始めた」などとも報じられている。今頃サウジ皇太子の腸は煮えくり返っていることだろうなぁ。背に腹は代えられないのだろうが、このように「サウジの安定を揺るがすのはいつもトランプ政権」状態が長く続くと、事態は一層深刻化するに違いない・・・。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:ニューヨーク市の国連本部にて二国間会談を行う日本の高市早苗内閣総理大臣(左)とドナルド・トランプ米大統領
出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images



























