[安倍宏行]アジアの介護ビジネス
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
高齢化は日本のお家芸ではない。
アジアの高齢化は我々が想像している以上のスピードで拡大中だ。(25日付け日本経済新聞朝刊「老いるアジア膨らむ介護市場)65歳の高齢者人口は、2010年3億人弱だったものが、2020人は4億人を突破するとの試算。中国だけを見てみると、介護関連市場の規模は、2015年に6兆円超に達する見通しだと言う。こうした金城湯池に目を付け、日本企業がアジア進出を狙っているとの分析だ。
確かに我が国は介護先進国。介護保険制度もあり、中国政府をはじめ、アジア各国は日本の社会保障制度と民間介護サービスに注目し、勉強を始めているという話しは何年も前から聞いてはいた。
ただ、「介護」そのものに実感は無かったのも事実だ。なにしろ、95歳になるまで母は1人暮らしで、自立した生活を送っていたのだから。自分でバスに乗り、都心にも出かけていた。それが年明け、立て続けに入退院を3回繰り返した揚句、部屋で転んで手の骨を折り、自立は無理となった。要介護2から3までに状態は悪化、本人と相談した結果、介護付き有料老人ホームに入居したのが8月。しかし、2週間前前からまた緊急入院、未だ病床にいる。
介護保険のありがたさは身をもって知った。30分単位の簡単な生活支援(買い物、掃除、入浴介助等)や、医療行為は別に看護師を派遣してくれる。訪問診療も後期高齢者保険の範囲でお金はかかるが、頼む事は可能だ。しかし、これも要介護3位までが限度。それ以上だと、やはり施設に、と言う事になる。
このわずか数カ月の体験で筆者が感じた事が幾つかある。まず、
- 総ての介護プランは、「ケアマネージャー」という資格を持った人に頼むのだが、誰に頼んだらいいか分からない。どの人が評判いいかもわからない。
- どの「ヘルパー派遣会社」を選んでいいかも、ランキングすらないから「ケアマネ」任せ。
こうした介護関連情報提供サービスはビジネスとして今後ますます必要となってくると実感した。
次に、③要介護人口が増えるに従い、国庫の負担増をどうするか、と言う問題だ。日本の社会保障給付費は2011年107.8兆円、そのうち介護・福祉その他の費用は20.6兆円に上る。2025年には給付費全体で、145.8兆円と35%も伸びる予測だ。介護保険は利用者負担は1割だが、これを引き上げる、対象者ほ減らさないと制度そのものが破たんするのではないかと危惧する。
さて、翻って、アジ化への介護ビジネスの輸出、大変結構だが、その前に我が国国内で、関連サービスを包括的なものにする必要があると感じている。まずは福島県のある基礎自治体と組み、そこの自治体にある介護、医療関連サービスを洗い出す。
これまでてんでんばらばらにやっていた各企業やNPOのサービスを比較検討し、必要なら束ねて、そこに他の企業との技術提携や、場合によっては合併などで規模の利益を出す。さらに最新のテクノロジーを導入し、高齢者ビジネスを持続可能な収益体質を可能にする。その結果、自治体の社会保障費は減り、雇用は増え、住民全体が恩恵を被る事になろう。
新たな産業を呼び込む事に繋がり、過疎化に歯止めがかかって人口増も不可能ではないだろう。筆者はそうしたソーシャルビジネスの実験に参画し、具体例を早い時期に確立させたいと強く思っている。
アジアの介護市場を狙う前に、国内でやるべきことがある。持続可能な地域活性化ビジネス=高齢者も障害者も、子供も父も母も、総ての住民が生き生きと安全で安心な生活が出来る社会の実現が、震災で打ちのめされた日本に求められていると感じている。
そして、そこには、基礎自治体の理解と協力が不可欠な事は言うまでもない。
【おあわせて読みたい】