[藤田正美]<中国に迫るバブル崩壊の予兆?>中国最大の不動産会社が自社物件の投げ売りを始めた
藤田正美(ジャーナリスト)
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中国最大の不動産会社「万科集団」が自社物件の投げ売りを始めたというニュースが流れてきた。値引きは最大で32万5000ドル(約3400万円)というから半端ではない。北京、上海、広州、重慶などの住宅が対象だという。
個人用の住宅需要は大きく落ち込んできた。今年前半だけでも9%以上売り上げが落ちているという。これまで不動産業者は何とか値引きで市場を回復させようとしてきたが、ここまで功を奏していない。
在庫はさらに積み上がると見られている。今年秋には新規住宅の完成がピークを迎えるとされ、また在庫が積み上がると、値引きプレッシャーが高まるだろう。
これだけの値引きを最大手のデベロッパーが行うということは、資金繰りに窮しているということでもある。収益も落ち込み初めている。これで赤字転落という状態にでもなればさらに資金繰りが大変になるだろう。
もともと中国では「住宅ローン」という言葉さえなかった。歴史的には20年ほどの経験もない。その意味では先進国が経験してきたような、住宅バブルが弾ける悪夢を知らないということだ。
バブルが弾けないように支えれば支えるほど後遺症は大きくなる。中国では21世紀に入ってから住宅バブルが指摘され、政府は鎮静化に動いていた。多くの都市で売買が制限されたのである。しかしそれは住宅価格の高騰につながり、そこにリーマンショックが襲った。急激に冷え込んだ住宅市場を倒さないために、結局はローンが膨らむ。
その結果は明らかである。GDP(国内総生産)に占める負債の割合は2008年末には140%だったが、今年6月末には250%になった。中国の建設ブームを表すこんな数字もある。2011年と2012年の2年間で生産されたセメントの量は、アメリカで20世紀中に生産されたセメントの量を上回るという。
問題は、ハードランディングせずにこのバブルを収めることができるかどうかにかかっている。もちろん中国経済がハードランディングすれば日本経済へのショックも大きい。
今年第2四半期は増税の影響でGDPが7%弱ほどマイナスになったが、中国経済が揺らげばとてもそれどころではない。サプライチェーンが切れることで、日本国内での生産は大打撃を受ける。もちろん日本が大打撃を受ければ、その影響がまた中国にも及ぶ。資金が流れなくなるからだ。
中国がこのショックを和らげるためには、国内でのさまざまな問題を解決していかなければなるまい。その第一弾としてすでに国営企業の合理化にいちおう一歩を踏み出した。ただ報道によると、この一歩は大胆とはとても呼べないようなものだという。
しかし、矛盾を早く解決しなければ、ますます解決が難しくなる。それは習近平政権にもよく分かっているはずだ。
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