[藤田正美]<資金が市場にあふれているのに物価が上がらない>今、経済はわれわれが経験したことのない状況にある
藤田正美(ジャーナリスト)
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昨年12月、アメリカのローレンス・サマーズ元財務長官は「長期的停滞(secular stagnation)について」という論文をフィナンシャルタイムズ紙に書いた。この言葉はもともと1938年に経済学者のアービン・ハンセンが米国経済の将来を「悲観的に」言い表したものだとされている。
2008年のリーマンショックからすでに6年が過ぎようとしている。それなのに、世界の主要経済国は、なかなか本格的立ち直ることができていない。最も順調に回復しつつあるアメリカにしても、表面上は失業率が低下していても労働市場が好転したとはなかなか言いにくい。仕事を求めているのになかなか見つからずに諦めた人が多いとされている。いわば「隠れ失業者」だ。
EU(欧州連合)は、今年4〜6月期がゼロ成長に落ち込んだ。牽引車として引っ張ってきたドイツがマイナス成長になったためである。フランスはゼロ成長だったし、イタリアは2期連続マイナス成長で「景気後退」となった。
しかも堅調ドイツの10年国債の利回りがとうとう1%を切ってしまった。それだけではない。ECB(欧州中央銀行)はインフレ率2%をターゲットとしているにもかかわらず、インフレ率は少しずつ低下し、日本型デフレに陥ることを懸念する声が高まっている。
アベノミクスで順調に回復しているかに見える日本も、いま大きな「?」がついている。しかもこの第2四半期は7%近いマイナス成長になった。もちろん4月から引き上げられた消費税の影響だが、問題はここからどれくらい持ち直すのかということ。海外メディアは比較的に弱気に見ている。
もちろん過去の歴史を振り返れば、大恐慌時代に言われた「長期停滞」は大間違いだった。その後、第二次世界大戦を経て、アメリカは急速に発展し、欧州や日本も戦争の災禍から立ち直った。その意味では、今回も「長期的停滞」には陥らないのかもしれない。
とはいえ、われわれは経験したことのない状況にある。
これだけ資金が市場にあふれ出ているのに、物価が上がらない。しかし金融資産は値上がりしている。日本の株価も安倍政権が成立してわずか1年半の間に50%も値上がりした。それが景気浮揚につながるのならよいが、どうも今年6月の第3の矢の具体策を発表して以来、株価も冴えない。
世界的にも資金の引き締めはそう急激に起こらないという見通しから、投資家は株式投資にむかい、それが世界的な株高を呼んでいる。しかし、よく言われるように、これはバブルであり、やがてはどこかで破裂するのではないか。新興国経済の代表格である中国も同様の傾向がある。
バブルが弾けることなく、どこかで健全な成長力をもった経済に脱皮できればいいが、まだ出口は見えない。
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