[清谷信一]自衛隊の情報源はウィキペディアや2ちゃんねる?③
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
もう一つの問題は防衛省内部の情報の劣化だ。
外部に情報が出す必要がない、公開される可能性がないとなれば書類を作成しても見るのは「身内」だけだ。それ故先の「正誤表」のいい加減なレポートがまかりとっているのだろう。この状態で特定秘密保護法が施行されれば、尚更メディアや政治家、納税者の監視が届かなくなり、防衛省内部の書類の質の劣化が心配される。
この「正誤表は」装備部の各部署にそれぞれに関連された部分だけが配布されていたことから考えると、国会議員に対する「ご説明」と言われるレクチャーや国会答弁用の資料ではないだろうか。
この手の本が出ると議員からこの本に書いていることは本当かという問い合わせがあったり、本の情報を元にした国会質問が行われることは少なくない。実際過去の国会質問で筆者書いた書籍や雑誌の原稿が取り上げられている。
因みにかつて石破茂氏は筆者の企画した自衛隊の問題点を指摘する書籍を読み衝撃を受けて、防衛省に本内容を確認させた。結果「内容は概ね真実」との報告を受け愕然としたそうだ。石破氏はこれが契機となって以後農政から防衛にウイングを広げたと筆者に語ってくれたことがある。
仮にこの「正誤表」がそのような資料だったとすると陸幕装備部は、議員への説明や国会答弁の資料をウィキペディアや2ちゃんねるなどを元に、いい加減に作っている可能性がある。
件の「正誤表」を作った本人及びその上司が処罰されたという話は寡聞にして聞かない。恐らくあの件は「無かったこと」になっているのだろう(情報をリークした「犯人」探しだけは一生懸命やったらしいが)。
ということは、今も同様な杜撰な書類が作成されている可能性がある。つまり大臣が受けているブリーフィングやレクチャーがこのような杜撰な資料を元に行われている可能性も否定できない。
世界有数の経済大国の防衛が、ウィキペディアや2ちゃんねるの情報を元に運営されている可能性があるのだ。これは機密漏洩以上に恐ろしい話ではないか。防衛省、自衛隊の情報強化を狙うのであれば特定機密保護法を作る前に、このような杜撰な現状の改善の方が先だ。
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