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.政治  投稿日:2013/10/29

[清谷信一]自衛隊の情報源はウィキペディアや2ちゃんねる?①


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

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お粗末なインテリジェンスなき情報意識。防衛省に特定秘密保護法はマトモに運用できない。

昨今特定秘密保護法が話題になっている。筆者は基本的には賛成だ。現状国会では防衛関連の機密性の高い話でもその日の夕刊にダダ漏れている状態だ。官僚や政治家に守秘義務が徹底されていないからだ。このため安全保障関連の委員会でも秘密会議が持てない。これではマトモな国家ではなし、同盟国からも信用は得られない。

その一方特定秘密保護法に制定によるマイナス面もかなり大きい。問題は防衛省、自衛隊の過度の秘密主義である。これはとても民主国家の「軍隊」とはいえないレベルである。これを直さないと、情報保全は現在よりも悪化する可能性がある。またこのような過度の情報統制は外部からの目が届かないために、組織が自閉化して防衛省内部の情報の劣化も心配される。

陸幕装備部は、陸自の装備調達を司る部署だが、その装備部はかつて拙著「防衛破綻」(中央公論新社)について正誤表を作成した。ところかこれがウィキペディアや、下手をすると2ちゃんねるなどを参照に作成されたと思われる杜撰なものだった。詳しい内容を書くと、筆者が得たパートが特定され、ソースに迷惑がかかるので詳細は書けない書ける範囲で紹介しよう。

筆者はその一部を入手したのだが、筆者が海外で軍や兵器メーカーの担当者といったキーパーソンに取材した内容を、ウィキペディアなどを元に「誤り」であると断じている。しかもウィキペディアでも英語版までは参照せず、日本語版だけを参照したようだ。

ご存知のようにウィキペディアは大学の学生のレポートでも引用文献と認められない。まして2ちゃんねるなど論外だ。つまりこのレポートを作成した人物のリサーチ能力は大学生以下で、英語もできない。ということなる。

いくつかの箇所の誤りはJane’s Defence Weekly などの海外の専門誌を読んでいれば到底起こさないミスだった。

また軍事用語を自衛隊用語ではないと「誤り」であると断じている箇所もあった。これが自衛隊の内部文書であればそうだが、一般書籍である。より一般的な軍事用語を使うことのどこがいけないのか。作成者は内部の書類は目を通しているのだろうが、軍事関係の書籍すら読んでいないらしい。

更に前防衛大綱、現防衛大綱に沿った、つまり防衛省の見解と一致している箇所も「個人的な見解で評価できない」としている。この作成者は防衛大綱すら読んでいないらしい。大げさにいうと、閣議で決定された大綱を「軍人」がダメ出ししていることになり、文民統制上も大きな問題だろう。少なくとも筆者は防衛大綱を書いた覚えはない。

筆者も自衛隊の情報のレベルは低いとは感じていたが、正直これほどとは思わず、大きな衝撃を受けた。だが、仮にこの正誤表を見た人物は筆者のような市井のジャーナリストよりも「権威ある陸幕装備部」の主張を信じるだろう。

筆者は陸幕広報室を通じてこの「正誤表」の全文の提供と事実関係を書面で回答するように依頼した。広報室は当初は提供すると言っていたが、広報室に出向いて見ると提出は断られ、かわりに陸幕広報室から口頭で説明があった。

広報室の説明によると、内容を精査した結果、正誤の指摘箇所は当初の51箇所からもわずか3箇所に減っていた。しかし筆者が見る限り、その内2箇所は単に国交省との法解釈の見解の相違だった。しかも筆者が気にしていた誤りは指摘されていなかった。

通常この手のことは文書で回答するのが普通だが、昨今防衛省の広報関係者は証拠が残らないように口頭を選ぶことが増えている。これも問題だ。筆者は先きに記者会見で小野寺大臣に佐藤政務官(当時)の防衛省敷地内での選挙運動に関して質問した。その回答は場局広報から来たが筆者が再三書面で回答して欲しいと要望しても口頭でしか回答しなかった。

役所では書類で残らなければその事実は存在しないに等しいからだ。だからできるだけ書面による回答を避けるのだろう。また防衛省は2011年までの5年間に廃棄した秘密指定文書は計約3万4千件を処分した。だが、その処分が妥当かどうか検証できない。さらに過去装備開発については、失敗したデータを処分していた。これらは一種の証拠隠滅である。このように防衛省では「証拠」を隠滅する体質が極めて強い。

広報室の説明によると「正誤表」は内部文書であり、公開できないとのことだ。つまりこのレポートは「正誤表」ではなく、正しい記述を誤りであるとした「誤正表」であった。だが筆者が入手した部分を見る限り、機密に属する記述はまったく無かった。

今月小野寺大臣記者会見でもこの「正誤表」の公開につて質問したのだが、報道官を通じて返ってきた回答は同じ回答だった。筆者は25日の大臣会見で再びこの件について、公開の拒否はいかなる法令に基づくものかと再度質問をし、現在その回答を待っている。

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