[為末大]【スターを待つというやり方の限界】
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
テニスで錦織選手が活躍しているのを見て、他の競技の方が”我々にもああいうスターが出てくれば人気になって競技者数もファンも増える”と言っていた。確かにそれはある程度間違いないだろうけれど、一方でそれを戦略と言ってしまうにはあまりにも弱い。
スターが出てくれば確かにいい。でもそれを意図的に行うのが錦織選手を生むのにこれだけ男子テニス界が時間とお金をかけたように、時間とお金がかかるし、また運の要素もかなり強い。宝くじさえ当たれば真っ当に生きるんだと言っている人の心理に近い。
吉本興行の分析をされていた方が、吉本SNCという工場と、劇場という切磋琢磨する場所があるからスターが出てくるんだと言っていてなるほどと思った。おそらく長期成功している組織はどこも、ある程度自動的に才能が集まり引き上げられていく仕組みを持っているのではないか。
またそもそもマイナー競技であった場合、スターを一人ぐらい作っても実は競技は人気にならない。幾つかメダリストを有するマイナー競技を知っているけれど、競技場への来場者数も競技者数も五輪の年と翌年だけ増えて、後は元に戻る。
どうやればマイナー競技が人気になりますかという質問をするとスポーツ界の上の方が”選手が頑張る事だよ”と言っていた。開発が頑張ってヒット商品を出せば全部うまくいくんだと言っている経営者に近い。地道な長期戦略を持っている所が少ない。
セルジオ越後さんのサッカー教室を体験した事のあるプロ選手はとても多い。運に頼った華やかな逆転劇もいいけれど、長期的な視点に乗っ取った地道な活動が結局じわじわと効いてくるのだと思う。
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