[田村秀男]【ドル建では下落基調の日本株】~景気減速懸念反映、株価失速も~
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)
日経平均株価は円安の追い風を受けて1万6000円台を付けているが、ちょっと変だぞ。国際標準であるドル建て相場でみると、日本の株価は下落基調にあるからだ。
グラフは主要国・地域の株価をドル建てと現地通貨建ての2つの指数で表示している日本の「MSCI」株価指数と円の対ドル相場の推移である。円建て株価指数は円安基調と並行してじりじりと上昇し、7月初めに比べた9月19日時点の株価は4・4%上昇したが、ドル建てでみると逆に3%近く下回っている。
円安の度合に比べ、円建て株価の上昇幅が少ないからだが、円建て指数とドル建て指数は日銀による異次元緩和が2013年4月4日に打ち出されて以来、ほぼ重なるようにして変動してきた。それが、8月中旬あたりからかい離し始め、現在に至る。
きっかけはどうやら、8月13日発表の4〜6月期国内総生産(GDP)第1次速報値のようである。同期の実質経済成長率は消費税増税前の駆け込み需要の反動減が「想定外」の大きさで、年率換算でマイナス6・8%となった。9月8日発表の第2次速報でマイナス7・1%に下方修正された。
家計消費は戦後最大級の落ち込みだし、住宅投資や民間設備投資はもっと激しく下ブレした。企業在庫は増え出した。7月以降の家計消費などの景気指標は停滞しており、消費税増税実施当時の「7〜9月期からのV字型回復」は望み薄だ。
欧州と同様の日本の景気減速。21日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では麻生太郎財務相や黒田東彦日銀総裁が米国などから厳しく景気てこ入れを求められる始末だった。麻生、黒田両氏とも景気回復に楽観論で終始し、来年10月からの消費税再増税を「国際公約」する手はずだったようだが、それどころではなかった。
ドル建て株価の低迷はこうした国際的な対日懸念の反映であり、日本国内の景気楽観=消費税増税推進派とのズレが生じている。気掛かりなのは、「外国人投資家」の動向だ。通常、日本株の売買の6、7割はニューヨーク・ウォール街を本拠にする投資ファンドなど外国人投資家が占める。
これら投資ファンドは、日本株など海外株と米国株をドル建てで計算し、保有シェアをしばらく固定して資産を運用する。円安に振れると、日本株のドル換算価値が下がる。すると、投資ファンドの自動売買プログラムは日本株の保有シェアを引き上げるよう日本株を買い増す。その結果、円安=日本株高の構図となる。それが、アベノミクスがもたらしてきた円安が株高につながった最大の要因である。
もちろん、米国株価も米投資ファンドの対日株式投資に影響する。米国株が上昇しているとき、投資ファンドの米国株保有シェアが基準値より上がるので、このときも自動売買プログラムが作動して、日本株を買う操作が行われる。しかし、最近の米株価は連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和打ち切りや利上げ懸念を受けて、一進一退の状況にある。日本株価は昨年のように、円安と米株高の二重の押し上げ要因を享受できそうにない。
しかも、今回は円安にもかかわらず、外国の投資ファンドの日本株買いの意欲は高くないようで、海外の多くの投資ファンドが資産構成に占める日本株のシェアを引き下げている可能性もある。
政府は国内最大の投資ファンドで、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式保有の比率を引き上げる方向など、株価底上げ策を検討している。ところが、投機的な海外の投資ファンドは日本経済の地合いがよくないと見れば、GPIF効果で一時的に日本株が上がった瞬間をとらえて売り逃げかねない。株価を高めに安定させるためには、やはり、持続的な経済成長を保つ財政・金融政策に徹するしかない。
アベノミクスの有効性への一般の信頼は、株高によってかろうじて保たれている。政府が景気動向を無視して、先行き楽観主義を押し通し、消費税増税を繰り返すようだと、最後の頼みの株価も失速しかねない。
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