[藤田正美]国際社会の●●ランキング〜ロシアが1位で日本が57位
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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1位とはロシアのプーチン大統領、57位とはわが安倍首相である。
今年のアメリカのフォーブス誌が発表した世界で最もパワフル(影響力のある)人物ランキングの結果だ。ベストテンを見ると、2位はアメリカのオバマ大統領、3位は中国の習近平総書記、4位はフランシスコ・ローマ法王、5位はメルケル独首相、そしてビル・ゲイツ、バーナンキFRB(連邦準備理事会)議長、サウジアラビアのアブドラ国王、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁、そしてウォルマートのデュークCEOと並んでいる。
日本人では39位に日銀の黒田総裁、45位にソフトバンクの孫社長、そして57位に安倍首相となる。たしかに、欧米の新聞をフォローしていると黒田総裁、孫社長の露出度は高かった。円高の流れを変えたのは黒田総裁で、そのリーダーシップは今年前半の話題だった。孫社長も米企業の買収競争で経済紙誌にはしょっちゅう顔を出していた。もちろん安倍首相も日本経済の流れを変えたリーダーであり、世界的にも注目度が高いのに、57位とはやや意外な結果である。
その安倍首相が当面のがっぷり組むことになるのが、ロシアのプーチン大統領だ。平和条約交渉、北方領土交渉、そしてエネルギー(石油や天然ガス)交渉である。
プーチン大統領の国内基盤は強い。2000年から2008年まで大統領を2期務めたときよりも低いとはいえ、今でも60%台をキープしているとされる。それでもロシアには課題が多い。最大の問題は、ロシア経済を強くすることだ。いまだに資源輸出に頼る構造から脱却できず、石油価格の動向によって経済は大きく左右される。1990年代の終わりにルーブル危機を経験したロシアは、プーチン氏が大統領に就任した2000年ごろから原油相場の上昇に助けられて経済を回復させた。
しかしロシア経済の脆弱性は今でもそのままだ。原油相場によって国家収入そのものが大きく左右されるのである。それでも天然ガスや原油の販売を増やせるうちはよかったが、最大の需要先であるヨーロッパの市場で販売量を増やせない状況になってしまった。
その最大の要因は、アメリカのシェール革命だ。これまで中東からガスを輸入していたアメリカは、シェールガスの開発が進んで、石油やガスを自給できるようになりつつある。そのために売り先を失った中東のガスが、ヨーロッパ市場に向かい、エネルギー供給元の多様化を模索していたヨーロッパ諸国がそれに飛びついたという構図である。
ヨーロッパが供給元の多様化を急いでいたのは、2006年にロシアとウクライナが対立したとばっちりで、ロシアからヨーロッパへのガス供給が途絶えたことがあったからだ。もちろんすぐに供給は再開されたが、ヨーロッパ諸国はロシアにガスの元栓を握られていることに気づいたのである。エネルギーの安全保障を考えたとき、パイプラインの元栓を握られてしまうことほど不安なものはない(当時、ロシアのシェアは25%ほどに達していた)。
ヨーロッパへの供給を増やすことが難しくなった今、資源輸出国ロシアが狙うのは、東側すなわち中国、韓国、そして日本である。中国とはすでに販売契約を結んでいるが、ロシアにとっては日本市場も重要だ。第一、安定した需要が見込め、金払いもいい。うまく行けば、ロシア東部開発の資金も提供してくれるかもしれない。
それに中国だけにサハリンなどのガスを供給することは避けたいという思惑もある。そうなると価格決定権を奪われる可能性も生じるからだ。その意味でロシアは日本市場を重視し、たとえば液化のための設備もロシア側の負担で建設するというような条件も出しているという。
ロシアとのもう一つの懸案事項が平和条約締結と北方領土問題である。ロシアとの間では,第2次大戦後の平和条約がまだ結ばれていない。日本側は北方領土の全面返還が平和条約交渉の前提というのが公式の立場だが、ここにこだわっている限りは、この問題は一歩も前に進まない。そして平和条約を結ばない限りは、中国に対する「牽制」にはならない。
エネルギーを売り、日本の資金を東部開発に導入したいロシアと、エネルギー源の多様化を図り、中国との対抗力をつけたい日本。その意味では、日ロ関係を正常な軌道に乗せるチャンスが大きくなったことはない。
プーチン大統領はシリア問題(化学兵器の国際管理)でイニシアティブを取ったことで、1位になった(逆にアメリカのオバマ大統領はこの件でみそをつけた)。安倍首相は就任以来、東南アジアを始め外交に力を入れているが、まだその実績が評価される段階にはいたっていない。その2人が今年はすでに4回も会談している。日ロ交渉をうまくやって、お互いにいい関係をつくれれば、来年の影響力番付で安倍首相の地位も上がるかもしれない。
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