[古森義久]【平壌に日本代表団派遣止めよ】~家族会も反対、制裁かけ直し、協議白紙化も~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授) 「古森義久の内外透視」
北朝鮮による日本人拉致事件の解決への動きがまたまた大きな壁にぶつかった。北朝鮮が9月上旬ごろまでに調査結果の概要をある程度は知らせるという約束を破り、そのうえに国連で「拉致問題は完全に解決済み」などと言明したのだ。その結果、10月16日には日本側の被害者の「家族会」「救う会」や自民党など政党の拉致問題対策本部もいっせいに抗議と対策協議の集会を国会内で開いた。私もそれら集会に出席した。
この集会での課題はもちろん、こうした新情勢に対し日本側としてどう動くべきか、だった。より具体的には日本政府の代表が北朝鮮から事情を聞くために平壌に行くかどうかだった。この時点ですでに外務省主体の代表団が平壌を訪れ、北朝鮮側に日本人拉致被害者らの再調査の現状などについて報告を受けることを目指すという方針が安倍晋三首相の同意をも得て、ほぼ決まっているとの話だった。
そんな状況に対し、家族会の飯塚繁雄会長は「日本側がさらに北朝鮮の主張を拝聴するために平壌まで行くことよりも、期限を切って、それまでに拉致被害者に関する調査結果を出させ、さもないと制裁をかけ直し、協議を白紙化するという断固たる措置を通告すべきだ」と述べた。
国会議員団からも「日本の外務省主導の協議はそもそも信用できないから、この際、体制を改めて北朝鮮に対するべきだ」(民主党・松原仁衆議院議員)という強固な意見が出た。いずれも日本側代表団が平壌にすぐ行くことには反対の意見だった。
確かに、いま日本側が北朝鮮のさらにいいなりとなって、平壌に政府代表団を送りこむことの効用は、まったくみえてこない。もし北側が日本になにか伝えることがあるならば、他にいくらでも方法はあるはずだ。それに北朝鮮当局は日本人拉致被害者の動向を恒常的につかんでいるはずである。であるのに、日本側が新たに代表団を平壌まで派遣しなければ、なにもいえない、という主張は支離滅裂、身勝手にすぎる。
私は北朝鮮政府の対外交渉は相手側を「楽観」→「幻滅」→「失望」というサイクルに巻き込んでいくという特徴をこの報告の第9回目で伝えた。アメリカ人専門家の考察だった。その考察は以下の内容だった。
「北朝鮮は自国の政策に基本的変化があるようにふるまい、相手国に有利となりそうな寛容な態度を示唆する。相手が楽観へと転じ、前に出てくると、自国が欲する経済援助や制裁解除を取りつけ、その後に態度を急変させ、相手を幻滅させる」
現在の日本の状況がまさにこの「幻滅」の段階だといえよう。ではその後になにが起きるか。第9回報告は以下のように書いていた。
「北朝鮮はさらに交渉の事実上の打ち切りまでに至り、相手を失望させる。相手は最悪状態のなかで、やがてまた北朝鮮の軟化を期待し、楽観への道を歩む。」
北朝鮮への交渉を試みる側はこの楽観、幻滅、失望というサイクルのなかの3つの心理状態のどれかしか抱いていないことになる」このサイクルを打ち切るためには、まず今の日本側は平壌への代表団派遣は止めておくことだろう。
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