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.国際  投稿日:2014/10/23

[岩田太郎]【米・「民主党でより高い経済成長」に説得力無し】~高い失業率、拡がる格差でオバマ不人気 ~米中間選挙リポート①~


岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

 

「1940年代の後半以降、オバマ大統領に至るまで、民主党政権の下で米国経済は年平均4.35%成長した。これは、共和党政権下の年平均2.54%の成長より著しくよい」

こんな学術研究が7月下旬に発表された。筆頭著者は民主党のクリントン政権下で米連邦準備制度理事会(FRB)副議長を務めた、プリンストン大学のアラン・ブラインダー教授だ。しかし、エコノミストは殆ど誰も相手にしなかった。また、オバマ政権の支持率を見れば、一般の米国人も無関心であるのがわかる。

米ABCテレビが10月16日に伝えた世論調査の結果によると、オバマ大統領の支持率は就任以来最低の40%まで落ち込んでいる。オバマ氏は、「財政赤字の削減や失業率の改善が経済運営の成果だ」とアピールするが、今回の調査で「経済の先行きに不安」とした回答者が77%に達するなど、米国民は納得していない。支持率低下には過激派組織「イスラム国」への対応の不満などもあるが、「体感経済」の回復の遅れが大きい。

筆者の住むイリノイ州はオバマ大統領のお膝元だが、9月の失業率は6.6%と、前年同月の9.1%より著しく低下したものの、全米平均よりはまだ高い。地元ショッピングモールでは、不採算のため閉店した大手デパート老舗のシアーズ、家電のレディオシティ、つい数年前まで若者の憧れだったファッション大手のアバクロンビー&フィッチなどの跡地に長い間新規出店がなく、引き続き厳しい状況が肌で感じられる。

全米規模で見れば、シェール革命に沸く一部地域などを除き、労働市場の質は改善されていない。7月現在で全米970万人の失業者のうち、33%に当たる320万人は半年以上就業していない長期失業者だ。この数字に入っていない何百万の人は職探しをあきらめた状態であることから、実際の失業率は11.8%と、かなり高いと専門家は言う。毎月20万人以上が新規に職にありつくものの、人口の自然増加分にやっと追いついているに過ぎず、多くの仕事は低賃金のサービス業などで創出されたものだ。

貧困率は一年前に比べ、微減の15.5%だが、未だ4,870万人が年収23,624ドル(約250万円)以下の貧困にあえぐ。その多く、4,700万人は連邦政府の低所得者向け食料購入補助に頼っている。

イエレンFRB議長は10月17日の講演で、米国で拡大する経済格差に警鐘を鳴らした。格差是正が仕事ではない金融政策のトップの発言としては異例で、オバマ政権の無策に対する間接的批判と取れなくもない。

オバマ不人気の理由は、まだある。国民皆保を目指して今年から導入された医療保険制度で、保険料の負担増や条件の悪い保険商品への乗り換えを強制される人が続出し、オバマ氏の支持基盤の労働組合からも不満が噴出している。

最近のガソリン価格下落は朗報だが、以前に比べれば高止まりだ。食品価格もじりじり上がり、家計を直撃している。住宅市場の回復は足踏み状態だが、一時減少した差し押さえが夏頃から増加に転じていることが報告されている。

また、オバマ政権が金融危機を引き起こした銀行を真っ先に救済し、罪を犯した経営者を訴追しない一方、庶民の住宅差し押さえを積極的に救済しなかったことを、米国民は覚えている。

こうしてみると、「オバマノミクス」不人気には、それなりの理由がある。民主党支持者が唱える、「共和党が引き起こした政府閉鎖などの邪魔が原因」という説だけでは、経済運営の失敗を説明できないからだ。

記事冒頭の研究は、民主党政権と共和党政権の経済運営の違いを強調するが、今の米国民にとっては恩恵が感じられず、11月4日の中間選挙の争点がぼやけているのだ。(続く)

 

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