[古森義久]【北朝鮮の「人道への罪」を許すな】~拉致問題への対応も全て対国連人権パフォーマンス~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授) 「古森義久の内外透視」
北朝鮮による日本人拉致事件の現状をどう読めばよいのか。日本政府代表団が平壌を訪問しての北朝鮮側との会合をどう解釈すれば、よいのか――
簡単な答えは、北朝鮮はいま日本人拉致をも含む人権弾圧を国連で非難され、その圧力をかわすために、人権問題改善を印象づける対外宣伝キャンペーンを始めており、日本代表団との会合もそのPRの一環に過ぎない、ということである。
10月28日の平壌での日朝会合では北側の国際メディア向けのパフォーマンスだけが目立った。いかにも大あわてで建てた、内部で人間が機能しているとはみえない白いビル、入り口の「拉致」とか「特別委員会」という言葉をことさら英語で書いた金色の看板、北側代表の徐大河と称する人物の大仰な軍服姿とメディアを意識する話しぶり、日本だけでなく他の外国メディアをもあえて招いた異様な広報態勢、そして肝心の日本人拉致被害者についてはなんの具体的な新情報を出さないという狡猾な姿勢・・・すべてが今回の会合が北朝鮮の人権問題への取り組みを外部世界に宣伝することだけに狙いがあるという実態を示していた。
北朝鮮政府がいまこうした「人権パフォーマンス」を演じなければならないのは、国連での非難の高まりがこのままだと、金正恩第一書記にまで及びかねないからだ。国連では人権理事会が今年2月に北朝鮮の政治犯大量弾圧や日本人拉致という人権侵害を「人道への罪」として激しく糾弾する報告書を採択した。
この報告書に基づき、欧州連合(EU)や日本は北朝鮮を改めて非難する新決議案を作成し、まず国連で人権案件を扱う第三委員会に提出した。決議案は国連北朝鮮人権侵害の調査委員会のカービー委員長やダルスマン特別報告官らの厳しいインプットが入り、「北朝鮮の人権侵害を国際刑事裁判所に訴える」ことと、「人権侵害の最高責任者を特定する」ことが明記された。
この二項目は北朝鮮政府にとってはなんとも避けたい一大事である。とくに金正恩第一書記自身の責任が特定されることは、絶対に防ぎたい事態となる。そのため北朝鮮当局は9月から姜錫桂・労働党書記が欧州各国を歴訪する一方、李洙墉外相が国連本部に乗り込んで、具体的にその二項目を削除することを関係各国の代表たちに必死で求め始めた。削除のかわりに北朝鮮は人権状況改善の措置をとり、国連の特別報告官らの入国調査をも受け入れるとも言明した。
前記の決議案は11月にも国連総会に公式に出される展望となった。北朝鮮当局にとっては「人権状況改善のために具体的な措置をとっている!」という国際メッセージの発信が最大急務となったのだ。北朝鮮が日本代表を熱心に平壌にこさせて、人権問題での前向きの姿勢を誇示したことにはこんな背景があったのだ。外国メディアへのこうしたパフォーマンスは北朝鮮国内でしかできなかったのである。こうみてくると、今回の日朝会合の多々あるパズルもほとんど解けてくるだろう。
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