一晩でクラファン目標額達成! コロナで窮地の慶應学食
神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)
【まとめ】
・コロナ禍で窮地、慶應義塾大学の学食 『山食』。
・クラウドファンディング始1日で目標500万円達成。
・OBからの支援止まず。今も最高額を目指す。
「まさか1日で500万円という目標額を達成するとは!!」
支援の掛け声が、SNSなどで拡散され、広めた慶大OBらは驚きの声を挙げた。
12月14日にスタートしたばかりの、クラウドファウンディング。その歴史上、初の快挙となった慶応義塾大学(以下、慶大)の『山食』の支援の輪。
コロナ渦で、創業以来の空前絶後の窮地に陥った学食を、学生やOBたちの心意気が救おうとしている。
目標額には達したものの、まだ収束の目処が全く見えない状況下で、支援募集日数は40日以上を残し、まだまだ継続している。
新型コロナの影響で売上は昨年比約80%減
慶大の学食の1つ、『山食』は昭和12年(1937)に、東京・三田の山に誕生した。現在の社長の谷村忠雄氏は、3代目に当たる。80歳の今も厨房に立つ。子供がいなかった先代夫婦(夫が初代、妻が2代目)から、食堂を託されて、勤続65年を迎えている。
創業以来83年間で、ここまで深刻な経営難に陥ったのは今回が初めて。新型コロナウィルスの影響を受けて、同大キャンパスもオンライン授業が続き、やっと最近はキャンパスに学生が戻り始めたものの、売上は昨年比約80%減少。今春の緊急事態宣言下での3か月間の休業と、収入の40%以上を占めるパーティーが現在、開催できないことが、大幅な赤字の要因として大きい。
「山食」は今、存続が危うい段階まで来ているという。月々の赤字は100万円を越え、銀行から既に500万円の借り入れもしていると谷村代表は打ち明ける。それも、今の状態が続けばその資金も半年以内に底をついてしまいそうだとも。
現在、従業員は谷村社長を含めて10人。
「誰1人として、解雇したくない」(谷村社長)
『山食』大人気メニュー、学生の味方名物“山食カレー330円”
『山食』は、慶大三田キャンパスの西校舎の中1階という、少しわかりにくい場所にある。実に良心的な価格で、学生、職員、OBらの胃袋を満たし続ける。原価率は50%という破格の価格設定。
日替わりなどメニューは35種類ほどと多彩だが、中でも人気NO.1は330円の山食カレー。ブルーレッドブルーの縁取りの皿から溢れ出しそうなカレーライス。創業以来の味は、懐かしい昭和の香りだ。平常時なら、1日の来客数は約350人、その内の200人は注文するという。大きなとんかつが乗ったかつカレーでも、530円。しかし、コロナ渦で現在の来客は約100人、多い時で120人という。
人気の秘密を、谷村社長は
「私たちがカレールーそのものから、ここで作っているからだと思います。山食ならではの自家製カレーの味は、他では出せません。カレーは出す前日に仕込んで、毎日少しずつ足していきます。また、学生たちを満足させるボリュームもしっかりこだわります。かつカレーのとんかつも、ここで揚げてますから、サクサク出来立てが食べる事が出来ます」と。
ルーは、カレー粉とショウガを豚脂で練り、オーブンで約6時間かけて焼き上げる。こげないようにまめにひっくり返さなければならない。スープは豚骨と野菜で炊き、ケチャップが隠し味で豚肉を使用。
2015年には、慶大の公式グッズとして、レトルトカレーも発売された。谷村代表の写真入りの黄色い箱で、大学内の生協や通信販売でも購入する事が出来る。
学生の胃袋を支え続ける“特選塾員”
谷村社長は、慶大卒ではないが、平成21年(2009)に名誉ある“特選塾員”になった。慶大は卒業生の事を、塾員と呼ぶ。
昭和30年(1955)の集団就職の際、16歳で山食に入社。集団就職だった当時、若いメンバーが15,6人いた中、転職や退職によってその中で最後まで残ったのは谷村社長だけだった。
谷村社長は、山食を支えるだけではなかった。夏休みの期間は、体育会の山梨県の山中湖の山荘にも出張。体育会蹴球部(ラグビー)、アメリカンフットボール部、ソッカー部、自転車部など各部の合宿の食事を平成15年(2003)まで49年間作り続けた。
その全てが認められての事だ。他には、同じく慶大生に絶大な人気を誇るラーメン二郎の山田拓美店主も、特選塾員となっている。
「第二の家庭に」。クラウドファウンディングは1日にして成った
クラウドファウンディングは1口500円から50000円まで幅広い。現状に困り果てた谷村社長が、大学に「ふるさと納税の『山食』版、みたいなものは出来ないか」と、相談して、大学の協力を得て,企画をスタートさせた。現在のクラウドファウンディングサイトの運営そのものは、谷村社長の孫の大学4年生の一希君が担当している。
リターン(編集部注:寄付をしてくれた人に対するお礼)としては、かつカレーの食券や山食の皿、体育会野球部とのコラボタオルや、食堂内への名前の掲載などがある。
今月14日にスタートし、SNSなどで学生、卒業生を中心に拡散され同日深夜には目標額をあっさりクリア。今も、順調に伸び続けている。
谷村社長は
「いやあ、驚きましたね。でも、これは自分の力でなく、大学の力や学生、卒業生、本当に皆さんのお陰だと思います」と、満面の笑みをたたえた。
支援金は、返礼品の発送・手数料を除いて、全て『山食』の存続に使われるという。
「学生たちの、第二の家庭になりたいですね。“歴史と伝統”を、守れる事になりそうで、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」(谷村社長)
クラウドファウンディングは、まだまだ40日以上の支援の日々が続く。
【クラウドファンディングはこちら↓】
トップ写真:Ⓒ神津伸子
【訂正】2020年12月16日
本記事(初掲載日2020年12月6日)の本文中で以下の間違いがありました。本文では既に訂正してあります。
誤:支援の掛け声が、SNSなどで拡散され、広めた慶大OBらは驚きの挙げた。
正:支援の掛け声が、SNSなどで拡散され、広めた慶大OBらは驚きの声を挙げた。
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この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者
1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆