[岩田太郎]【さらば、政党の“抱き合わせ商法”】~政党委任ではなく、国民が投票で選ぶ政策を議員に強制せよ~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
「ドラマで武井咲が見たいのに、剛力彩芽がついてくるバーター」のような、芸能プロダクションの都合で視聴者に選択を与えない強制に、イライラしたことはないだろうか。なぜ、「武井咲と吉高由里子」という組み合わせはないのか。政治も同じだ。
中国の軍事圧力増大に対抗するため憲法を改正して国防軍を創設したいが、同時に脱原発を目指す人は、今回の衆議院総選挙でどの党に票を投じればよいのか。財政健全化のため生活保護支給額の引き下げには賛成だが、日本の農業や医療を多国籍企業の利益に合わせて変えてしまうTPPに反対の人は、どの候補に投票すべきか。
現行の選挙制度は、最適な政策の組み合わせを選べない「抱き合わせ商法」だ。事実、アベノミクスが焦点の今回の総選挙は、焦点を一つに絞り込んだ小泉純一郎内閣の2005年郵政選挙との類似点が多い。「勝ってしまえば、原発再稼働も、TPPも、集団的自衛権行使も、労働者派遣法の改訂も、規制緩和も、すべて自民党が信任を得た」として突き進めるからだと指摘されている。
だが、ある政党の選挙における勝利は、その党に対する国民の無条件の全権委譲か。人々が投じた票の裏には、最適と思う政策の組み合わせが見当たらない不満とあきらめが隠れている。往々にして、与えられた選択は、真の選択ではない。
ここ米国でも、国民の選択肢は狭い。貧者や少数民族の権利擁護を掲げる民主党に票を投じた黒人が、民主党の同性愛婚推進政策に賛成しているとは限らない。同性愛婚は統計的に、圧倒的に白人の支持が多い政策課題であり、黒人をグループとして見た場合、反対が多いからだ。しかし、黒人の権利を公然と踏みにじる共和党を前にしては、民主党以外の選択はないのが実情だ。
選挙制度は、候補や政党に対してではなく、「実行してほしい政策と、実行してほしくない政策のリスト」への投票に変革する時だ。投票用紙には、「集団的自衛権の行使」、「消費税引き上げ」、「原発再稼働」、「カジノ合法化」、「TPP離脱」、「対北朝鮮制裁強化」、「ハーグ条約脱退」などの政策課題の賛否を問う。
一方、候補者や政党は有権者に対し、それぞれの政策への立場を明確に伝える。政策ごとに上位得票者が選出され、当選者の多い党が組閣し、民意を実行する。自党や自分の政策と違っても、得票上位の政策を実行することが、内閣と与党に義務づけられる。目指す政策が「国防軍創設」、「TPP交渉離脱」、「原発再稼働」、「カジノ廃案」という組み合わせの内閣が生まれるかもしれない。
内閣や国会は党派ではなく、政策ベースでの議員の集まりになる。より直接的に、議員が民意を実行することを義務づけられれば、投票率も上がる。もちろん、このようなアイデアは課題も多く、実現はすぐには無理だ。だが、メディアが政党別の支持率だけでなく、各政策課題についての賛否を問う世論調査を選挙前や選挙後に毎月、継続的に実施すれば、「この党に投票したのは、無条件の全権委譲ではない」ことがはっきりする。それこそが国民の代表監視者としてのメディアの役目だ。
いみじくも安倍晋三総理は、「重大な決断をした以上、そして国民の皆様とともに進めていくためには、国民の皆様の声を聞かなければならない」と述べている。総理にはその言葉通りに行動してもらおう。
米国では、「自民党が総選挙に勝ち、10-12月期の日本経済は年末賞与と年末商戦で回復し、最後に笑うのは安倍総理かも」(『ディプロマット』誌)との論調もあるが、最後に笑うのが日本国民でないと本末転倒である。
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