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.経済  投稿日:2014/12/2

[神津多可思]【成長戦略無くして経済再生無し】〜2017年消費税再増税に向けて〜


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

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7~9月のGDP速報は予想外のマイナス成長となった。今の日本経済にとって、8%への消費税アップはこれほどに大変なものだったということだろう。こうなると、特段改めて確認をしなくとも、来年に予定されていた10%への消費税再引き上げを延期した方が良いとの声が大勢になるのも無理はない。

日本経済の地力が予想以上に弱いのだから、消費税引き上げペースも当初想定よりもゆっくりにすべきだという判断は、金融市場が待ってくれている限りは、あながち非合理的ではない。もともとの絵は、アベノミクス第三の矢が効力を発揮して、消費税率10%にも耐えられるほど日本経済の体力を回復するというものだったのだろう。しかし、リーマン・ショックの後始末に加え、いっそう進展する高齢化とグローバル化といった状況の下では、思い通りに行かなかったということだ。

黒田総裁が言う「2年で2%」というインフレ目標も、かつて長いこと低インフレしか経験しておらず、さらにその後マイルド・デフレを経験した日本経済にとっては、かなり大変なことであることも分かってきた。低コストの新興国経済が供給力を増している状況では、どの先進国経済においても、耐久消費財を中心に、モノの価格はなかなか上がらない。さらに、世界経済全体としてなかなか加速感が出ない中で、原油が値下がりするなど一次産品の価格にも調整圧力が加わっている。

そのような環境にあって、安定的に2%のインフレを実現するためには、どうしてもサービス価格の持続的上昇が必要になる。サービス価格を決める重要な要因は賃金であり、そのトレンドを決める所定内賃金は1年の内に何回も引き上げられる性格ものではない。つまりマイルド・インフレの定着にも、やはり時間がかかることになる。

いま必要な経済対策はどのようなものだろうか。確かに2014年度上期はマイナス成長となったが、このままどんどん悪くなっていくという見方は少数派だろう。不振であった消費にも上向きの兆しが出ているし、大企業の収益は最高益に迫っており、それを反映して設備投資計画もなお前向きだ。GDPにしても、消費税増税前の駆け込みとその反動の中で、民間在庫の取り崩し、積み上がり、その調整という動きの影響が強く出ている。実質GDPの前期比年率は1~3月期は+6.7%、4~6月期は-7.3%となり7~9月期は-1.6%という推移だった。しかし、そこから民間在庫の変動を除いてみると、それぞれ+8.5%、-11.1%、+0.6%との試算になり、一応、反動減から抜け出した姿が見える。

日本経済の前向きの力が途絶えたわけではない、との判断から出発するなら、いまは最悪期を脱しつつあるときであり、そこでは地力の強化こそ重要だ。それは取りも直さず成長戦略である。一時的な需要サポートをしても、それがトレンド成長力の上昇に繋がらないなら、結局は元の木阿弥で、2017年には必ずやるとされている次の増税の時、日本経済はまた地力不足に喘ぐことになる。この半年、大変な思いをして増税の影響を乗り越えてきたのであるから、増税で得られた資金を、財政再建にも回さず、成長戦略にも使わず、一時的な費消に充ててしまうのでは、いったい何のための苦労であったのかということになりはしないか。

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