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.経済  投稿日:2014/11/20

[七尾藍佳]【「経済的自殺」と囁かれた消費増税の帰結】~“GDP解散”その2〜


七尾藍佳 ジャーナリスト・国際メディアコンサルタント)

「七尾藍佳の“The Perspectives”」

プロフィール執筆記事

 甘利再生相が記者会見で、今回の下ブレの最大の要因は「消費」とした通り、日本経済の6割を占める個人消費は、前期比0.4%増と、アナリスト予想の約半分という惨憺たる内容だった。特に、サービス業での遅れが目立つ。消費者が、外出やレジャーを控えている、ということだ。つまり、「センチメント」が盛り下がっている。

だが、ふるわなかったのは消費だけではない。在庫と設備投資、さらには住宅投資も弱かった。設備投資は前期比0.2%減。企業が守りに入っていることが端的に表れた。さらに、耐久財は前期比マイナス4.5%。4-6月期に前期比マイナス18.8%と大幅に減少したのに加えて追い打ちをかけるように減少。耐久財は、コンピュータや自動車などの、耐久性のある商品のことで、生産に入る前に受注されるため、設備投資などの先行指標とされている。景気の動向を早い段階で表してくれる数値なのだ。それが、悪い。やはり、企業は守りに入っている。

また、 アベノミクスによる円安を追い風に、調子がいいはずの輸出も振るわない。アジアが盛り返してはいるものの、欧米が低調。しかも、日本企業は長く続いた円高対策から、海外に生産拠点を移しているため、むしろ円安がマイナスとなる輸出企業も多い。

また、ファイナンス面では為替変動の影響を最小限に抑えるためのCMS–キャッシュ・マネジメント・システムが高度に発達している為、為替変動の影響を良くも悪くも受けない体制を作り上げている企業が増えている。このため、当初期待されたほど、円安の輸出浮揚効果が出ていない。

先行きに関しては緩やかに持ち直す、としているアナリストが多いが、それは雇用と給料は手堅いと見られているから。景気がさらに足踏みする、あるいは後退がつづくことになれば、その目算も危うくなる。

その不安は、やはり消費にあらわれている。一番気になるのは、雇用者報酬、つまり給料の伸びに対して、消費の伸びが小さいこと。手取りが増えても、みんなその分溜め込んでいる。なぜか?それは先行きが不安だから、に尽きる。

にも関わらず、甘利再生相は「アベノミクスは失敗していない」と発言。これは相当苦しい。景気が良くなることこそ、アベノミクスだったのではないか?だからこそ、内閣官房参与の浜田宏一・米エール大名誉教授は、消費増税は「アベノミクスとは真逆の方向」だったと、はっきり述べている。

増税前に、浜田氏と直接話したが、増税に関しては、ニコニコ微笑しながら、

「無理です、とてもじゃないけど、日本経済は持ちませんよ」

と語っていた。やはり、デフレ経済脱却を景気拡大によって目指す中での増税は、crazyだったのだ。

この期に及んで増税は無理だ。だが、消費税の再増税は法律で決められていること。それを変更するには、やはり選挙するしかない。それが安倍総理の大義。これに関して、欧米の投資家やアナリストなどと話をしていて、必ず聞かれるのが、「何でこうなることがわかっていたのに、安倍総理は増税に踏み切ったんだ?」と、「選挙をせずに増税延期すればいいじゃないか、なぜそうしないのか?」の二点。

一言で言えば、財政再建が至上命題である財務省と、その財務省の意を汲んだ議員たちが反対してできないから、である。だからこそ、解散して国民の信任を得た形で彼らを説得しないと増税延期ができないのだ。

財務省は、その名の通り「財」政を司る組織なのだから、増税の主張は彼らの立場からすれば当然であり、特に批判されるべきことではないと考える。だが、 景気の動向を無視して省庁の論理を優先する政治判断がなされた場合は、時の政権を批判してしかるべきであろう。

今回の解散は、妥当な政治判断をするために選挙をする必要があるといことで、安倍総理自身、こう語っている。「税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきである」確かに、それも一理ある。だが、経済状況からすれば誰もが増税延期に納得な上、野党も増税延期に賛成を表明した中、なぜ選挙をしなくてはいけないのか、という問題は本質的には解決しない。

「財務省と党内の反対勢力がどうしても許してくれないから」という答えは、「事実」として正確ではあっても、「正義」ではない。 GDPが悪いのであれば、話し合って、知恵を絞って、できることを何だってやればいい。それが政治の仕事だ。データは、政策の修正を促す一材料であるべきで、解散総選挙の根拠にすべきではない。

だが、その経済指標をシビアに、真正面から見ることができない政界官界の抵抗勢力がいるために、政権として当然の対処ができないから選挙をするという不幸な事態となった。それは、日本という国家の意思決定の場に、とてつもなく大きな欠陥があることを物語っている。これは、「GDP解散」だ。そして、そう呼ばざるを得ないことは、国民として大変不本意なことであることを意識しながら、この選挙を「GDP選挙」と呼びたいと思う。

 

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