[俵かおり]【標高2400mの高地に住む】~日本で生まれ育った私が一番困った事~
俵かおり(在エチオピアジャーナリスト)
エチオピアに住んでいる、と言うと、必ず「アフリカ・・・暑いでしょう?」と聞かれる。けれども実際はというと、エチオピアでも標高2400メートルにある首都アディス・アババに住んでいるので、暑いどころか年間を通して肌寒く、ノースリーブはおろか、半袖さえ着たことがない。(気温は年間を通して最高気温が19—25度、最低気温が8—14度ぐらい)
標高2400メートルに住むというのは、東京やロンドン、ニューヨークのように海抜ゼロの地とは全く異なる生活を意味する。主な原因は酸素。酸素の量が極めて少ないので、その影響が様々なところに出る。それもたいがい大変な方に出るのだ。これを私は「標高2400メートルの悲劇」と呼んでいる。
その中でも最も困るのが食事である。何せ、世界一のグルメ国日本出身の私。おまけに、長年の仕事柄、おいしいものをかなり食べてきた。けれども、ここエチオピアでの食生活は、“(最貧国の一つなのだから)グルメなものがなくて大変”、という贅沢な悩みではなく、もっと根本的なところにある。
アディスに越してきた2年半前。日本人の友人に引っ越しを手伝ってもらって、キッチン用品を段ボール箱から出していたら、この友人、私が持ってきた炊飯器と日本米を見て、「ここではお米は炊飯器使ってもおいしく炊けないですよ。残念だけど」。と言う。私は全く意味が分からず、理由を尋ねた。すると、彼はこう説明した。「ここは高地だから、気圧が低くて、沸点が低いんです。だから、炊飯器があってもおいしく炊けません。我が家では、だから圧力鍋で炊いてます。」私 「そんな・・・」
半信半疑でお米を炊いてみて、この友人の言葉が正しかったことを認識した。 炊きあがったお米はぼそぼそしていて、うま味が全くない。そしてこれがお米だけでなく、パスタもしかり、お味噌汁しかり、ありとあらゆる食事についてそうなのだという事実を知らされた。つまり、うま味=沸点100度が必要。このときのショックというか、落胆というか。
キッチンで火にかかったお湯を見る。ぐらぐらと沸騰はしている。にもかかわらず、沸点が低いから(この地での沸点は約90度)、“おいしく”炊けない、煮えない、のだ。紅茶もおいしく出すには沸点100度が必要と言われているが、まさにそう。紅茶なしには生きられない私は、ロンドンから大量においしい紅茶葉を買ってきているが、おいしく出ない。信じがたいのだが、悲しいかな本当なのだ。ちなみに、この煮えたぎっているお湯が手にかかっても、飛び上がるような熱さはない。
この経験を経て、日本に帰った時に圧力鍋を買い、意地でも抱えてアディスに戻った。そしてこれで炊いてみると、お米はふっくら、しっとり炊きあがり。日本にいるときと同じ味だった。ちなみに、アディスの低い沸点でおいしくできるもの、それはコーヒーと緑茶である。エチオピアはコーヒーの発祥の地であるから、メークセンスである。
ここに住むことの醍醐味?それは、低地に行った時に、ありとあらゆる食事が信じられないほどおいしく感じることである。
(トップの写真はある朝のアディス・アババの風景。高地のため、朝は例年を通じて肌寒い)
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