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スポーツ  投稿日:2014/4/24

[神津多可思]<少しずつ改善する世界経済>日本のグローバル企業はどう動くのか


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

執筆記事プロフィールWebsite

 

4月8日、IMF(国際通貨基金)が最新の世界経済予測を発表した。それを見ると、今年、来年と世界経済が全体として少しずつ成長率を高めていくという年初の見方はなお変わっていない。ウクライナ危機、中国の成長減速といった事情を勘案しても、現時点では世界経済はゆっくり良い方へ向かうという判断だ。

国別では、先進国全体の成長率予想は3か月前と同じである。その一方、新興国・開発途上国は、じわっと下方修正されている。米国は3%近い成長を遂げるとされ、欧州が最悪期から脱する中で、先進国企業の景況感も上向きだ。これに対し新興国経済は、成長率こそ先進国経済よりも高いが、先行きに対する企業の見方も慎重なようだ。先行きに対する見方が、先進国経済については上向きで、新興国経済については慎重になっているという「交差」は、リーマン・ショック後、初めてのことだ。

世界経済全体の成長に対する国別の寄与度をみると、中国の存在感が非常に大きくなっているのが最近の特徴だ。IMFは、購買力平価によって各国のGDPを評価している。したがって、為替市場で決まるレートで評価した場合とまたちょっと違った姿になるため、幅を持ってみなければならないが、たとえば2013年の世界経済の成長率3%の約3分の1は中国経済によるものという計算だ。

「大き過ぎて潰せない(Too big to fail)」というフレーズが、国際的に活動する有力銀行に関してしばしば使われてきた。中国経済がここまで大きくなってくると、世界にとっては「大き過ぎてマクロ安定化政策を失敗させられない」存在ということができる。中国経済で本当に何が起きているか、それをどう評価するか、どのような対応策を採るべきか。そうした論点について、中国も含めた関係国間で、フランクな議論が公私にわたるさまざまなチャネルでなされることがますます重要だ。

一方、グローバルに活動する日本企業はどういう構えで世界に臨めばいいのだろうか。全体としてはしっかりしつつある先進国。その先進国よりまだ成長率は高いが先行きの展望は下振れている新興国。どちらの市場に軸足を置くかで、自ずと力点を置く製品・サービスの内容も変わってくる。両方ともに重要というのであれば、単純な選択と集中ではなく、焦点を絞った多様化を考えなければならない。

加えて供給面でも、直接投資の増加、情報通信・物流の急速な進歩等もあって、企業活動におけるインプットからアウトプットまでのビジネス・チェーン全体を部分的にくくり出し、グローバルにみて最適な場所に展開することが可能な時代になった。企業が解くべき経営上の方程式は、需給両面にわたっていっそう複雑化しているということだ。したがって、経営判断はますます難しいものとなっている。

中国を例にとれば、人口13億人の経済が、低下したとは言え7%台の成長をしている。しかも貧富の差は大きい。どの所得層の需要に焦点を絞るか、決断は難しい。一方、低賃金の恩恵を享受して中国を世界の工場とする戦略は、このところの人件費高騰などによりもはや通用しなくなっている。

プラス・ワンで他の国・地域を探すのか、あるいはまた急速に変化する現地需要に対応する供給基地へと衣替えをしていくか。これも悩ましい問題だ。しかし、だからこそビジネス・チャンスが拡がっていると受け止めるのが企業家精神の真骨頂だろう。そこでのアニマル・スピリットの発揮こそが、さらなる成長の源泉だ。

 

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