[安倍宏行]【消費税免税制度の残念な結果】~手続きの煩雑さ、緩和を~
安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)「編集長の眼」
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外国人旅行客がものすごい勢いで増えている。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、今年1~11月の訪日外国人客数は、前年同期比28%増の1218万人だった。毎月100万人は突破しているので年間1300万人訪日も視野に入ってきた。どおりで街中に外国人が目につくわけだ。これはひとえに円安と、短期滞在査証(ビザ)の発給要件の緩和による。相対的な割安感が訪日旅行を後押している。
さて、こうした中、10月1日から、従来免税対象ではなかった消耗品(食品、飲料、薬品、化粧品など)を含めたすべての品目が新たに免税対象となったことはあまり知られていない。こうした様々な消耗品が対象となることで、地方の名産品が外国人旅行客を招き入れる起爆剤となるのでは、と期待してのことだ。
しかし、一方で、この免税制度が導入される前からいくつかの懸念が指摘されていた。それが、手続きの煩雑さである。
そもそも、免税店になるためには、税務署に「輸出物品販売場許可申請書」を提出し、許可を得る必要がある。そのための書類作成がまた大変だ。ざっと見ても、
・販売場の見取り図
・免税販売マニュアル
・事業内容が分かるもの(会社案内、ホームページアドレス)
・販売場の取扱商品一覧表
が最低必要だという。
さらに、許可が下りたとして、運用もこれまた煩雑だ。
例えば、免税販売する際には、国土交通大臣及び経済産業大臣が指定する方法により包装を行うことになっている。包装ご、開封した場合に開封したことがわかるシールで封印することなどが定められているのだ。
さらに、
1.旅券等の確認
2.「購入記録票」「購入者誓約書」の作成
が求められる。
「購入記録表」は免税店が作成し、外国人旅行客のパスポートに張り付けて割り印を押す。旅行客は「購入者誓約書」にサインをして免税店に提出、7年間保存が義務となっている。
こうした作業を一人一人の顧客に対して行うには、大変な工数を要する。一人当たり20分はかかる、と指摘する小売関係者もいる。となると、まず対応する人員を確保でき、それだけの作業を行ってでもスケールメリットが期待できる大手小売り店やチェーン店でないと対応出来ないのでは、と危惧する声は出ていた。
筆者が複数の小売店に聞いたところ、免税対応はしていない、と話していた。理由は、そもそも対応する人員がいないことと、わざわざ免税にしなくても買っていく外国人旅行客が多い事を上げていた。やはり円安による商品の割安感が大きいと見える。
それ自体はいいことではあるが、せっかく導入した制度なので広く普及してもらわないと意味がない。特に地方への観光客誘致が一つの目的であるのだから、手続きの煩雑さを少し緩和してもいいのではないだろうか。
(参考)国土交通省観光庁「さあ、免税事業者になろう!」
http://www.mlit.go.jp/kankocho/tax-free/index.html
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