[Japan In-depth編集部]【企業ガバナンスは何故必要なのか?】~相次ぐ不祥事と人の「心」の関係~
企業は何故不祥事を繰り返すのか。これほどコンプライアンスだ、ガバナンスだと言われているのに、だ。上場企業だろうと非上場だろうと、同族企業だろうと非同族であろうと、企業のトラブルはなくならない。
古くは西武鉄道事件。近くは、大王製紙事件やオリンパス事件。トップや一部の役員が法に反することをしていても発覚しない、もしくは知っていても他の役員が知らんぷりを決め込む、などということが何故起きるのか?
また、仮に不正ではなくてもオーナー企業でもないのにトップが何十年も君臨し続け、人事が停滞し、結果成長できずに業績を落としていく、という例も枚挙にいとまがない。
企業とは、そして組織とは、何のために存在するのか。さらにいえば人とは何を目的として仕事をしているのか?社会と個人にとっての根源的な問題である。
ある、上場している同族会社がある。トップはオーナー社長であり、思うがままに会社を、そして従業員を操ってきた。一見、何の不満も不自由もないはずのこの社長には大きな悩みがあった。それが後継者問題だ。
なんと、自分の秘書に会社を丸ごと譲りたい、というのだ。13年間傍に置いておき、深い関係の女性だ。常識的に考えれば、常軌を逸している。仮に会社の株を過半数持っていたとしてもかなわないことだろう。それでもこの社長はなんとかならないか、と画策する。 この社長とて、会社の支配と株の所有が別ものだということくらい、分かっている。会社は株を持っただけでは支配できない。人の「心」が付いてこなくては、組織を動かすことはできないと、知ってもいる。だから仕掛けが要る。
もし、自分がこの社長の腹心だったら。もし、自分がこの社長に法的な解決策を求められた弁護士だったら。人はどう動くのか?
世の中には理不尽なことがごまんとあるが、このケースは人にかなり理不尽な決断を迫る類のことだろう。しかし、起こりえない事例では、ない。現に、小説の中で、社長の腹心たる男は、なんと、全身全霊をもって社長の期待に応えようとする。隣に、男の友人の弁護士がいる。
Japan In-depthの寄稿者の一人である、弁護士の牛島信氏は企業法律小説(ビジネスロー・ノベル)の書き手としても知られるが、今回、人の「心」に焦点を当て、思いもかけない人生に翻弄されながらも前に進まねばならない人間の葛藤を描いた。
人は、果たしてどこまで自分のことをわかっているのだろう。自分の正体は、実は誰にも分らない。それは、“はらわた”のようにぐじゃぐじゃしており、絶えず蠢いているものなのかもしれない。人の集合体である組織もまた同じ。簡単に操れるものでもない。ガバナンスとは所詮、完璧にできもしないことに対する、人間が考えた弱々しい抵抗のカタチの一つなのかもしれない。
「あの男の正体(はらわた)」日経BP社 牛島信著
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