[岩田太郎]【米社会・人種的緊張、先鋭化】~大統領選に向け、特権階級の世襲制発展~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
(この記事は、1月1日【米経済、利上げで市場不安定化】の続きです。)
TPPを2015年に前進させる具体的な動きは、次の通りだ。まず、通商問題を審議する上院財政委員会の新委員長には共和党のTPP推進派、オリン・ハッチ上院議員が内定した。下院は共和党ががっちり押さえた。オバマ政権は反対派議員を説得するため、従来のマイケル・フロマン米通商代表に加え、ジャック・ルー財務長官、ペニー・プリツカー商務長官、トーマス・ペレス労働長官などの閣僚を直々に派遣して説得工作を強化している。
ピーターソン国際経済研究所のギャリー・ハフバウアー上席研究員は、TPPの交渉や承認が次の理由から大きく進展すると見ている。まず、
(1) TPPに抵抗してきた民主党のハリー・リード上院院内総務が推進派のミッチ・マッコーネル上院議員にその職務を譲ること
(2)オバマ大統領とTPPで協力することで、共和党が「駄々をこねる信頼できない政党」のイメージを払拭したいこと
(3) 大統領2期目で無力化した「レイムダック」になったオバマ氏が、何らかの功績を残したいと焦っていること。
だが筆者は、交渉や議会工作が進展するにつれ、米国内の抵抗も強烈になると予測する。具体的には、貿易が米労働者の職を奪い、賃金を引き下げ、多国籍企業のみを肥えさせると主張する民主党左派や労働組合が声を大きくしていく。農業団体や自動車業界も、日本の一方的譲歩を迫って交渉の妨害を強化する。さらに、共和党右派はオバマ大統領との協調を党の敗北と見做し、共和党主流派に挑戦する。2015年はTPPにとって、進展と抵抗の同時展開で大荒れになろう。
2015年の米国の社会と政治も、波高くなるだろう。まず、社会においては、警察による一連の丸腰の黒人射殺でこじれた人種関係が、当局の対応が後手に回る無策によって深刻化し、警官による無防備な市民の銃殺が2015年も続発し、2014年11月から12月にかけて全米各地で起こった暴動より、さらに大きな抗議行動や暴動につながるだろう。
ニューヨーク市で2014年12月20日、反警察の思想を持つ黒人男性に2人の警官が射殺されたことで、「警察こそが被害者だ」「世論の潮目が変わった」と論評する向きもある。だが、そうした見方が勢いを得ることで社会は二極化し、本質的な解決からますます遠ざかる。2015年には市民と警察、黒人と白人の対立がより先鋭化し、「市民が所有する政府」「多様性から生まれる団結」を標榜する米国の各種制度の構造的な虚構性が、ますます明らかになっていくだろう。
政治面では、「誰でも裸一貫から、成功者になれる」というアメリカン・ドリームとは正反対の現実が、2016年の大統領選への準備過程でより可視化される。
我々日本人は、幕末に米国に派遣された日本の使節が、「歴代大統領の子孫が今、どこで何をしているか分からない」と聞かされ、その清廉さに感銘を受けたのだと、歴史の授業で習ってきた。だが、実際の米国は、キャロライン・ケネディ駐日米国大使の背景にあるケネディ家は言うに及ばず、富と権力が一部の階層に集中し、世襲される王朝社会だ。
2016年の大統領選挙にむけて2015年には、パパ・ブッシュ、ブッシュ・ジュニアに次いで3代目となる、フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏の出馬が、共和党から発表されそうだ。民主党も負けていない。クリントン元大統領の妻、ヒラリー氏が2015年に大統領候補に名乗りを上げることが確実視される。両人が党予選で勝利できるかは別として、権力は狭い世界の中でのみ譲渡される。
このように2015年の米国は、経済も社会も大荒れになる一方で、権力はますます一部の階層に集中し、政治が腐敗していくだろう。
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