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.国際  投稿日:2015/1/7

[岩田太郎]【「反日」映画『アンブロークン』を斬る 2】~機能しない米社会のヒーロー願望~


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

 

(このシリーズは1月6日掲載の記事の続きです。全4回完結。8日、9日まで続きます)

注:本映画は日本での公開は現時点(1月6日)で未定だが、このシリーズ全4回)はネタバレが含まれるので注意。

アンジェリーナ・ジョリー監督(39)の『アンブロークン』は、「人間の魂の耐久力と回復力は、驚異的である」ことを示すため、第2次世界大戦中に日本軍捕虜収容所で虐待を耐え抜いた米陸軍のルイス・ザンペリーニ少尉の体験を描いている。作品名の『アンブロークン』は、「壊れていない」という意味である。

なぜ、今の米国で、「壊れていない」ことがテーマの映画が作成されるのだろうか。英語版グーグルの検索で、“America” “system” “broken”と入力してみると、その理由がわかる。やれ司法制度が崩壊しているだの、政治体制が機能していないだの、経済の仕組みが間違っているだの、無数の論文や記事、ブログがヒットする。米国は壊れており、しかもそのような状態になって久しいのである。

最近の米国のメディアでしょっちゅう聞かれる表現は、“Our system is broken.”(「我が国の制度は壊れている」)だ。世論調査でも、米国は間違った方向に進んでいるとする回答者が全体の3分の2を占め、米国の矛盾や衰退に、人々は自信を失っている。

自国中心主義の米国人が、フランス人経済学者トマ・ピケティ氏の米国に対する処方箋に真剣に耳を傾ける様子は、その典型的な例である。米国人は、解決を求めている。アンジー監督は、そのような祖国に希望をもたらす映画を作りたかったのだ。しかし、架空の世界に慰めを求めても、米国の現実は、正義や道理の正反対である。

拷問に関する矛盾が好例だ。ザンペリーニ元少尉への暴行の中心人物であり、連合国による戦犯追及を逃げ切り、2003年に亡くなった渡邊睦裕元軍曹は、生前の米CBS放送に対するインタビューで、「殴ったりという程度のものは、(収容所の)共同生活の中で、やむを得ない場合もあった」と語っている。

これに対する米国人の反応は、「どんな理由があっても、拷問は許されない」であろう。NBCニュースの著名ジャーナリスト、トム・ブロコウ氏は、『アンブロークン』製作中にアンジー監督をインタビューし、番組内でザンペリーニ氏に対する日本軍の暴行を、「野蛮な日本の戦争犯罪」と表現している。事実、多くの日本の将兵が戦犯裁判で、捕虜虐待のため死刑や重い懲役刑に処された。

ところが、2003年のイラク侵攻後、多数の米軍兵士がバクダッド近郊のアブグレイブ刑務所で、イラク兵に対する組織的拷問に加担した。キューバの米軍グアンタナモ湾収容所でも、米中央情報局(CIA)要員がテロリストとされる捕虜に水責め、氷風呂、肛門からの栄養剤注入、最大180時間(丸一週間以上)の睡眠妨害、子供や親に危害を加えるとの脅迫などの残虐行為を行い、一部の捕虜は死亡していたことが、12月9日に公開された報告書で明らかになっている。拷問プログラムを開発した米心理学者2名には、8100万ドル(約100億円)もの報酬が支払われていた。

だが、国際刑事裁判所(ICC)が拷問責任者のブッシュ前大統領や米兵などを裁く話は聞かない。米国は、自国政府高官や将兵が訴追される可能性が大きいため、ICC規程への署名を2002年に撤回しているからだ。一方、同じ法廷で多くのアフリカ人元首や高官など非白人が、「人道に対する罪」で続々と有罪にされている。

そして、本当の問題はここからだ。米世論自体が、拷問を支持しているのだ。12月15日にCBSニュースが報じたところでは、世論調査で57%の米国人が、「テロリストの拷問が有益な情報をもたらした」と答え、ほぼ半数の49%が「拷問は時には許される」と回答している。こうしたタイミングでの『アンブロークン』公開は、皮肉なアメリカン・ジョークとしか言いようがない。渡邊元軍曹は、今、米国のヒーローになれるはずだから。

(つづく。第三回は「アンジー監督が欲しい日本の過剰反応」、第四回は、「真の『アンブロークン』は誰か」。本記事には、参照した英文の元記事や動画・評論へのリンクが貼られているが、Yahoo!ではリンクが無効になる。お読みになりたい方は、Japan In-Depthのウェブサイトhttp://japan-indepth.jpをご覧いただきたい。)

 

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