[藤田正美]中国の習政権、改革の「決意と現実」
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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尖閣諸島をめぐる日中の緊張関係は弱まるどころか、むしろ強まっていると言っていいのだろう。防衛省筋は「中国側の行動は徐々にエスカレートしている」とする。11月18日付けのFT電子版にも『中国と日本は衝突コースに向かっている』と題する記事が掲載された。「両国が戦争したがっているようには見えないが、強硬姿勢が偶発的な戦いに発展する可能性はある」というのである。
ただどちらも戦争をするほど愚かではあるまい。そんなことになれば、中国から外国資本はたちまち逃げ出すだろう。そうなれば、習政権が描く成長による「改革」は絵に描いた餅になってしまう。せっかく11月上旬から開かれた3中全会(第18期中国共産党中央委員会第3回全体会議)で改革路線を打ち出したばかり、しかも外国のメディアは総じて好意的かつ習政権に期待する記事を掲載していた。それが戦争ということになれば、一斉に中国批判が強まるだろう。
それに何と言っても、GDP(国内総生産)で第2位と第3位の国だ。これだけの大国が衝突することと、中国とベトナムが小競り合いするのはわけが違う。しかも経済的には相互依存の関係が強い。中国にとって日本は貿易総額でみると2012年の実績で約3300億ドル、第5位の貿易相手国である。日本にとっては中国が第1位の貿易相手だ。
その中国経済が減速している。それでも7%台の成長率は決して低くない。BRICsの一つとして期待されていたインドは、インフレ率が高まったことで金利を引き上げざるをえず、経済成長率は急低下している。ブラジルやロシアも同様だ。それに比べれば中国経済は、統計数字を見れば順調である。
しかし不安はつきまとう。最も懸念されるのは金融だろう。3中全会でも、資源配分で市場が果たす役割を強化するとされていた。金利についても徐々に自由化している。とはいえ中国が不動産バブルに踊ったことは事実である。そしてバブルは必ずはじける。はじけた後に残るのは不良債権であり、それを誰の負担で処理するかが大問題だ。日本でもこのバブルがはじけた後、不良債権の処理が遅れ、その結果、ゾンビ企業やゾンビ銀行が生き残ってしまった。それを処理しないかぎり、新しい資金が新しい融資先になかなか回らない。つまりは経済が再生しないのである。
中国のバブルの原因は、地方政府による不動産開発だ。地方政府は原則的に債券発行による資金調達を認められていないため、銀行融資に頼ってきた。しかし銀行がプロジェクトなどの先行きを懸念して蛇口を締めるようになると、地方政府は融資平台という投資会社を設立、そこが債券を発行して資金を調達した。その資金調達の一つが「理財商品」である。こうして集められた資金は130兆円から500兆円の間でいろいろ説がある。もちろん全部が全部、不良債権になるわけではない。しかしいったんそういった話が流れると、どこかで取り付け騒ぎが起き、波紋のように広がる。
理財商品が懸念されるようになった今年の前半、金融関係者は中国に行ってその実態を探ろうとした。そして多くの人は「たいした問題ではない」と話す。それでも懸念は残る。日本でも欧米でもバブルのとき、中央銀行関係者も含めて、バブルの深刻さを予言した人はほとんどいなかった。せいぜい「このまま行けるはずがない」という程度だったのである。その意味では、金融関係者の中国に対する見方は楽観的すぎると言っても過言ではないかもしれない。
中国が果たしてハードランディングせずに行けるのかどうか、それは国有企業の改革をどのぐらいのペースでやるかにかかっているのかもしれない。国有企業の改革を先延ばしにすればするほど、そこに融資せざるをえないし、その分だけ不良債権の予備軍がたまることになる。そうなれば、いずれかの時点で破綻処理をしたときの傷も深くなる。
長期金利は急上昇し、その結果、中国経済は大打撃を受けるかもしれない。最悪のシナリオを避けるために、習政権は改革を進めるとしているが、抵抗勢力も強い。抵抗勢力とは現在のシステムの中で甘い汁を吸っている党幹部の子弟、そして国有企業と地方政府である。改革が進めば、膿を出す間は痛みを伴うが傷口は早くふさがる。改革が遅れると腫れはどんどん大きくなって、悪くすると破裂するかもしれない。その時は、日本が受けるショックも大きいが、中国共産党の一党支配が終わるときになるかもしれない。
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