[清谷信一]調達自体が目的化した陸上自衛隊の10式戦車は税金の浪費〜根拠のない国産兵器崇拝は一種のカルト
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
これまでの筆者の連載でも述べてきたように、我が国の陸上自衛隊は、本来、90式戦車、74式戦車を近代化してコストを抑え本当に必要な装備を調達すればよかった。筆者は様々なメディアで長年そのように主張してきた。戦車相手の戦闘はまずありえないし、ゲリ・コマ(ゲリラ・コマンド)対処ならば105ミリ砲で十分だし、イスラエルやドイツなど外国製の装甲パッケージを採用すれば10式よりも遥かに高い生存性を確保できる。
よく74式戦車は寿命だとかいう話がまことしやかにネット上でささやかれているが、それは「迷信」の類である。現在でも50年代に製造されたT-55やセンチュリオン(設計は大戦中)を近代化して運用している国があるくらいだ。仮に74式が寿命であるのならば、粗悪品の欠陥戦車ということになる。
トランスポーターを十分に確保すれば機動戦闘車も必要ない。万が本土決戦になって戦車戦なるのなら近代化した90式を北海道から持って来ればいい。もっとも敵が師団規模で上陸してくるようでは、日米の空海戦力は全滅し、制空権は相手のものであり、戦車があっても役には立たないが。
繰り返すが、10式戦車は設計思想が古く全く必要がない。調達自体が目的化している。これを漫然と調達し付けるのは国費の浪費であり、自衛隊の体力を削いていくようなものだ。
90式は現在約340輛が存在する。新防衛大綱の戦車の定数が300輛になるとすれば90式だけでも十分な数が存在する。現在毎年約15輛程度の10式戦車が調達されているが、これを続けるならばまだ使える90式を大量に廃棄する必要がある。税金の無駄遣い以外なにものでもない。早急に10式戦車の調達をやめるべきだ。戦車は90式に統一これを近代化すべきだ。北海道以外では軽量な戦車がどうしても必要ならば(筆者はそうは思わないが)これまで生産した10式を使えばよい。だが、ゲリ・コマ対処が主であれば副次被害が少ない105ミリ砲を有している74式を近代化して使用する方が合理的だ。
陸自をマトモに戦える組織にするためには、装備を近代化し、バランスよい兵器体系を構築しC4IR環境を整え、兵站を充実させるためには部隊の規模を縮小するしかない。先進国は元より、ロシアや中国でもそうやっている。島嶼防衛のための投資も必要だ。置物同然の400両の戦車よりも確実に戦力となる100両の戦車の方を選ぶべきだ。戦車の数は300輛でも多い。最低限の機甲戦闘の運用能力の継続のために1個機甲旅団と、ゲリ・コマ対処のための1個独立戦車連隊があればいい。その連隊の戦車を各方面隊に中隊規模で分散配備すればよい。つまり100~150輛もあれば十分だ。
国産兵器に対して素朴な愛着を持ったり、愛国心を刺激されるのは自然な感情であり、それ自体を非難するつもりは毛頭ない。だが、根拠のない国産兵器崇拝は一種のカルトである。国産戦車可愛さのあまり、必要のない設計思想の遅れた中途半端な戦車を延々と生産し、運用するのは税金のも無駄使いであり、自衛隊を弱体化させるだけだ。
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