[古森義久]【米中宇宙戦争に現実味】〜中国の衛星破壊兵器(ASAT)の開発が脅威〜
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカと中国の宇宙戦争のシナリオがアメリカ議会で真剣に論じられた。ついこの2015年2月20日のことである。この動きは米側が中国の宇宙への軍事進出への警戒を高めている結果だった。中国のこの種の軍事動向には最大の注意を向けねばならない立場にある日本にとっても他人事ではない。
アメリカ議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は同20日、「中国の宇宙・対宇宙計画」と題する公聴会を開いた。同委員会は米中両国の経済関係がアメリカの国家安全保障にどう影響するかの調査を主眼とする超党派の組織である。2000年に発足して以来、一貫して活発な調査、分析、提言、発表などの活動を続けてきた。
この日の公聴会は午前8時半から午後3時すぎまで3部にわたり合計9人の官民の専門家たちを証人として催された。その主眼は簡単にいえば、中国が将来の台湾や日本、アメリカを想定とする戦争の際に宇宙を軍事利用する可能性についての多角的な考察だった。
証人の一人、米海軍大学のジョーン・ジョンソンフリース教授はいま地球を回って飛ぶ人工衛星は合計1215基、そのうち512がアメリカ、135がロシア、116が中国だと述べた。別の証人の民間研究機関「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー上級研究員は中国の現存の人工衛星のうち少なくとも75基は人民解放軍が独占して使用している、と証言した。
この公聴会では9人の専門家たちが中国の宇宙の軍事利用の具体的な状況について、それぞれ報告した。中国は総合的な軍事力ではなお先を越されるアメリカに対し、宇宙を使ってのゲリラ的な作戦を実行できる能力を近年、強めてきた。
米側がまず最大の懸念を向けるのは中国の衛星破壊兵器(ASAT)の開発と配備だといえる。中国はそのASATの実験を2007年に実施し、自国が以前に打ち上げた古い衛星に新たに開発した衛星破壊ミサイルを命中させ、こなごなにしたのだ。米軍はまだこのASATの開発をそれほどは進めていない。
フィッシャー氏らは今回の公聴会では中国軍が地上配備の新たな衛星破壊兵器や逆に宇宙から地上を攻撃できるレーザー光線兵器などの開発を進めていることを明らかにした。
将来の戦争、あるいは局地的な軍事衝突で宇宙を使って敵を攻撃し、混乱させるという発想は日本ではまったく非現実的とされるだろうが、米中両国の陰に陽にのせめぎあいではすでにこうした具体的な対策が進められているのである。