[遠藤功治]【分析:円安と自動車産業の関係】その2~海外生産比率増え円安メリットは減少~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
ピラミッド構造に於いて、頂点が何らかのマクロ要因で、利益がプラス、ないしはマイナスになった場合、他の部品や素材産業にも波及効果が表れる訳です。これを海外ではよくMultiplier effect、まさに波及効果指数と呼びます。自動車産業の場合、これが約3.5程度とされます。
つまり、トヨタに1の付加価値増が生まれた場合、直接・間接を含め、トヨタ関連の産業全体に与える付加価値は3.5倍になるという訳です。自動車の場合は、自動車部品・電機・鉄鋼・非鉄金属・化学・ガラス・繊維・ゴム製品など、製造業のありとあらゆるものに波及効果が出てくるほか、小売・通信・IT・商社・運送・人材派遣・不動産・建設・食品など、非製造の産業にも多大な影響を与え、税収にも多額の影響が出るはず、ということになります。
故に、その波及効果は絶大であり、円安効果によって自動車産業が潤えば、ある程度の時差はあるにせよ、最終的には日本全体としてプラス要因が大きい、という理論です。ただその一方で、2次から3次、3次から4次下請けへ行く過程で、プラス要因がどんどんと希薄化されて行く、当然のこととして、上から下りてきたプラス要因を、各層はなるべく多く己の段階で受け取ろうとする、水をろ過する過程で不純物が途中で除去されていくのと同じことです。よって、末端の下請け業者には、殆どプラス要因が残らない、という図式が多々起こりえる訳です。
円安が進んでも必ずしもプラス要因とはならない、という議論もあります。まず輸出への影響です。2000年代の日本国内の自動車生産台数は、1,000万台から1,100万台、うち約50%-60%に当たる600万台から670万台が輸出向け、残り500-600万台前後が日本国内向けという比率でした。
これが今年では、国内生産台数が約970万台程度、うち国内販売が545万台、輸出が450万台程度、輸出比率46%程度と推定されます。国内販売が永い景気や消費の低迷、若者の車離れ、高齢化、人口減少、東京一極集中により減少、結果、鶏と卵ではありませんが、販売も収益も伸びない日本に多くの経営資源を振り分けることをしなくなった日本の自動車メーカーという図式です。一方でそれ以上に減少したのが輸出台数。為替がつい2年前まで、対ドル70-80円という超ハイパー円高となり、どんなに企業努力をしても、輸出からは利益が全くあがらない、と言う状況下、また米国・中国は勿論、アジア各国、欧州、南米など、現地生産に移行する流れに、1990年代から加速がつきました。
結果として国内生産は減少に転じ、かつては輸出比率が50%を優に超えていたホンダや日産といったメーカーでも、現在では輸出比率が1ケタ台、などという水準まで落ち込んだ訳です。その分、米国・中国・東南アジア・南米など、各地に大規模な組み立て工場が出来、原則は現地で販売される自動車は現地で生産するという地産地消の体制に移行していきました。
<表2:日本自動車メーカーの生産・販売・輸出推移と今後の推計>
2014年、日本車の世界生産台数は約2,670万台、うち国内生産は970万台で全体の36%、海外は1,700万台と全体の64%。2000年に、国内62%対海外38%であったものが、2014年はまさにこの真逆となる訳で、当然この分は現地生産への移行=輸出比率の低下ということになります。
表に示しましたが、2020年には、日本車の世界生産台数は2,800万台程度と想定、うち、国内生産比率は29%、海外生産比率は71%、結果、輸出比率は、43%程度と現状から更に低下する見込みです。
(続く)
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