[安倍宏行]被災地農業復興の新しい形〜被災地・宮城の最高級イチゴで作られたスパークリング・ワイン
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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「あま~~い!」「飲みやすいっ!」「香りがいい!」「色もかわいい!」女子の口から出るわ出るわ、招賛の嵐…。この淡いピンクの液体を飲んだ直後、彼女たちに感想を聞いた。一見、普通のロゼ・スパークリングワインに見えるのだが、このボトルには様々な顔がある。
「ミガキイチゴ・ムスー」と名付けられたこのスパークリングワイン。その名の通り、原材料は「ミガキイチゴ」。宮城県山元町という被災地で作られている最高級イチゴである。その地には、イチゴ栽培の匠の技にITをかけ合わせた、最先端のハウスがある。いちご農家を30年以上やってきた橋元忠嗣さんと出会い、震災で大きなダメージを受けた山元町のイチゴ栽培を復活させようと思い立ったのが、農業生産法人株式会社GRAの岩佐大輝さんだった。
岩佐さんも山元町出身でおじいさんもイチゴ農家。そして彼はハウス内を栽培に最適な環境に管理する為にITを利用することにした。二酸化炭素が足りないとセンサーが感知し、二酸化炭素が出てくる。温度が低くなれば、暖房が自動的に入る。湿度も管理されている。これまで人力に頼っていた農業が、ITで効率的に生まれ変わった。
元々山元町は、山と海に囲まれた空気の綺麗な町であり、長い日照時間と昼夜の寒暖差や南西の冷たい風などが甘いイチゴを作るのに最適だった。そこにITを掛け合わせ、高品質なイチゴを安定的に生産することができるようになった。さらに、熟練のイチゴマイスターが、一番おいしい瞬間を逃さず摘み取り、最高のイチゴを消費者に届ける努力をしているという。
甘さ、香り、食感、大きさ、形、輝き、色、どれをとっても最高級のイチゴが出来あがった。それが、「ミガキイチゴ」なのだ。そして、このスパークリングワイン、「ミガキイチゴ・ムスー」。「ミガキイチゴ」を100%使って作ったワインで、やや甘めの味、強めの炭酸、高めのアルコール度数(12度)、フルーティーなイチゴの香り、着色料を使わないサーモンピンクの淡い色が特徴である。
筆者も一口飲んでその強烈な香りに驚かされた。そして、甘い酒は苦手だが、そんな私でも何の違和感もなく飲める、不思議な味。おそらくは強めの泡が舌を刺激し、甘さを中和しているのではないだろうか。
ミガキイチゴ・ブランドマネージャーの馬場俊輔氏に聞いた。
このプロジェクトは、4つの側面を持っています。一つは、震災からの復興。2番目は、農業にITを利用している技術革新。3番目はいわゆる農業の6次化。そして最後が、日本の農業の海外展開、クール・ジャパンです。
なんと、岩佐氏は、インドにいちごの植物工場を建てているという。インドという巨大マーケットを視野に入れている。被災地からグローバル企業を輩出するんだ、という物凄いチャレンジだ。そして、ソーシャルでもある。女性の就労機会が無いインドで、イチゴ栽培という働く場を提供していきたいと岩佐氏は言う。震災という負の遺産から決別する、いや、それを踏み台にして世界に飛び出していく。アジアの社会の課題を解決できるかもしれない。いや、するんだ。
震災は一時的に農業や漁業にダメージを与えた。しかし、逆に人は強くなった。山元町の匠の技が。日本の農業xITが。日本を飛び出し、アジアに広がって行く。
私達の知らない内に、それは既に始まっているのだ。
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