【アイルランド、国民投票で同性婚合法に】~若年層向けキャンペーンから学ぶこと~
齋藤実央(教育ファシリテーター)
「齋藤実央のシティズンシップ論考」
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今月22日、アイルランドで、同性婚の解禁に向けた憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。結果として、賛成票(約62%)が反対票(約38%)を上回り、アイルランドは「多数決」により同性婚が認められた世界で最初の国となった。同国では、2011年から、同性カップルに結婚とほぼ同等の社会的権利・責任を付与するシビル・パートナーシップ制度が導入されていたが、今回の国民投票の結果により、同性同士の結婚そのものが認められる。なお英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)では、イングランドとウェールズ(2013年)、そしてスコットランド(2014年)でのみ、同性カップルに結婚の権利を認める法案が可決されている。
さて、日本では先日の「大阪都構想」をめぐる住民投票結果を受けて、「シルバーデモクラシー」、つまり少子高齢化社会において、若年層よりも高齢層の意見の方が色濃く政治に反映される状況を指摘する声が上がっていた。今回アイルランドで行われた国民投票は、世代別の投票率がまだ発表されていない(全体の投票率は約61%だった)ものの、同世代に投票を促す若年層有権者による働きかけは、日本でも参考になる部分があるかもしれない。ここでは、BeLonG Toというユースグループが中心となって展開したキャンペーンについて簡単に共有したい。
BeLonG Toは、LGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)を自称するアイルランドの若者のための組織だ。今回の国民投票で、同性婚解禁に向けて「YES」(憲法改正に賛成)と投票するよう、”BeLonG To YES”というキャンペーンを通じて若年層に働きかけた。
このキャンペーンには、National Youth Council of Ireland(以下NYCI)をはじめ、子どもの権利や若者の社会参加促進などをミッションとするアイルランド国内の14のユースグループが賛同。同キャンペーンの一環で電子リーフレットや動画が作成され、「今回の国民投票がアイルランドの歴史にとって重要な理由」、そして「結婚の平等がLGBTの若者にとってもそうでない人にとっても大切である理由」をシンプルな言葉で伝え、若年層(メインターゲットは18~25歳)のみならず彼らの親世代に対しても広く同性婚への理解を求めた。
また、NYICのウェブサイトでは、これまで選挙で投票経験のない若者のために「投票所に着いてからの簡単な6ステップ」という記事が公開された。アイリッシュ・タイムズの取材に対し、NYICの副代表である学生は次のようにコメントしている。「この国民投票は、アイルランド全土の若者に対して、彼らが平等に価値を認められているという強いメッセージを届け、他者への敬意を高め、ホモフォビア(同性愛嫌悪)を減らす機会だ」。賛成票が過半数を上回るという結果を受けて、当キャンペーンの賛同団体はそれぞれに喜びの声を上げている。
今回のアイルランドにおける若年層有権者向けのキャンペーンから学べるのは、まずは投票行為自体のハードルを下げること、また投票結果が自分たちの将来にどのような影響与えるのかを明確に伝えること、そしてそのために、若年層にリーチできるネットワークを持ったユースグループが互いに連携し、統一されたメッセージをシンプルに拡散する重要性だと言えよう。世代間の対話を促しながら、「自分たちの手で社会に良い変化をもたらしたい」というポジティブなうねりを生み出すことが、シルバーデモクラシーを打ち破る一つの鍵なのではないだろうか。
写真:BeLonG To YESキャンペーンページより