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.政治  投稿日:2015/7/3

[清谷信一]【自衛隊は空中給油機活用を見直せ】〜その高い費用対効果〜


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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航空自衛隊には旅客機のKC-767をベースにした空中給油機が4機、戦術輸送機であるC-130Hに空中給油機能を付加したものが1機存在している。C-130Hは更に1機分の改修が今年度予算で発注されており、最終的には3機体制になる予定だ。KC-767は空自の戦闘機に空中給油を行うためのものであり、C-130Hの給油機は空自の救難ヘリUH-6OJ(及びその改良型)に給油を行うためのものだ。前者は米空軍と同じ、フライングブーム方式を採用し、一度に1機の航空機に対して給油が可能だ。対して後者は米海軍や海兵隊などと同じくプローブ・アンド・ドローグ方式を採用しており、ヘリにも給油が可能である。

当然ながら空中給油によって航空機の航続距離は大きく延びる。この為より遠距離に飛べる。また兵装や貨物を満載した場合に搭載燃料を減らし、離陸後に燃料を給油することもできる。例えば空中給油なしで遠距離に輸送機を飛ばす場合、ペイロードは大幅に減少するが空中給油を行えばより大きなペイロードで目的地まで飛行できる。

戦闘機の場合、長距離を飛ぶ気は増槽を胴体下部に装備するがその分重量が増え、またハードポイントを使用するので兵装が減る。空中給油を行うのであれば、フル装備の兵装を搭載したまま長距離の飛行が可能となる。航続距離に余裕がでることで戦術的な柔軟性も大きく増す。更に訓練飛行の時間を延ばすこともでき訓練でも有用だ。

例えば戦闘機にしても空中給油を行えば10機の戦闘機が、20機分の働きをすることも可能だ。特に戦闘機の機数で中国に対して劣勢な空自の戦闘機部隊にとって空中給油は必要不可欠だ。

島嶼防衛を念頭に置くならば、固定翼及び回転翼機の航続距離を増やし、また戦術的な柔軟性を高めることために空中給油機は必要不可欠だ。だが諸外国と比べて自衛隊の空中給油機の機数は少ない。

このため空自は新たな空中給油機の調達が予定されている。下馬評では767をベースにした米空軍向けのKC-46が本命視されている。米軍との相互互換を考えた場合これが有利なのは当然だが、コストなども含めてエアバスのMRTTなど他の候補も真剣に検討すべきだろう。そうしないと言い値で買わされることになる。

また空自のKC-767にはフライングブームしか装備されていないが、これでは米海軍や海兵隊の機体には給油できない。対してタリアが採用したKC-767には併せてプローブ・アンド・ドローグ方式も採用されている。同盟国との共同作戦、あるいは海外任務などを考慮した場合には二方式併用が望ましい。新型空中給油機を導入するならば、二方式併用が望ましい。

陸自は速度、航続距離に優れたオスプレイを導入する。オスプレイはヘリでは到達できない距離を移動することが可能だ。だが、むしろ本来陸自の保有するCH-47やUH-60シリーズにも空中給油能力を付加させるべきだった。既に運用しているシステムを利用するのでコストも安いし、訓練や整備面でも有利だ。また運べる貨物や人員も多い。

既存ヘリの空中給油機能付加を行うのであれば、オスプレイ導入の理由の航続距離は意味をなさなくなり、速度だけが利点となる。だがそれに数千億円をつぎ込むだけのメリットはなかったはずだ。

またオスプレイを導入するにしても、オスプレイは空中給油が可能であり、その能力を引き出すためには空中給油機の増勢は必要だ。またオスプレイのペイロードは22名程度の兵員が輸送できる程度であり、UH-60とCH-47の中間程度であり、たいして大きくはなく、重装備は運べない。このため回転翼機による輸送力、特に遠距離への兵力投射能力は十分とは言えない。陸自のヘリが海自のDDHなどとランデブーするにもヘリへの空中給油機能付加は是非必要だ。

空自では早期警戒機の増強のために米海軍が採用した、E-2Dの採用を決定した。これは現用のE-2Cの後継機だが、米海軍は早くもE-2Dに空中給油機能を付加させるプログラムを進めている。この計画は現在4~5時間の同機の滞空時間を8時間以上に延ばそうというものだ。

飛行時間が延びると、艦載機であるためにただでさえ居住環境が悪いE-2Dのクルーの身体的負担が増えるので、新しいより快適なシートを導入するなどの疲労軽減対策もなされるようだ。また同機で採用されている新しいハミルトン社のプロペラは振動が少ないので、E-2Cよりはクルーの負担が少ない。

運用の柔軟性の確保を考えれば、空自のE-2Dにもこの空中給油機能を導入すべきだ。問題は現在も空自のE-2C運用で問題となっているクルーの肉体的な負担だ。これは前記のように対策が取られているが、負担軽減のためには例えばクルーを倍増して2交代制にするというのも一案だ。哨戒時間を二倍以上に伸ばせるメリットは大きい。

ヘリ、E-2D、オスプレイはプローブ・アンド・ドローグの給油システムを採用している。是非とも3自衛隊の統合運用能力向上のため、空中給油を行えるシステムを構築すべきだ。だがこれらの機体に対してKC-767は空中給油できない。空中給油を行うのであれば、C-130Hの給油機を使用することになるが、機数が少なすぎる。

少なくとも空自の保有する全C-130Hに空中給油機能を付加させるべきだ。海自は近年中古のKC-130Rを3機調達したが、給油機能を外している。統合作戦を視野にいれるならば、これも復活させるべきだ。

空自では現在開発中のC-2にもプローブ・アンド・ドローグ方式の給油装置を装備すべきだ。輸送機を空中給油機として使用する場合、当然ながら輸送機としては使用できず、その分輸送機の調達を増やす必要がある。輸送機、空中給油機のポートフォリオを検討舌上で輸送機の数を増やすべきだ。

ただ搭載量の大きいC-2を空中給油用に使用するならば貨物運搬能力が大きく減じることになる。またC-2は調達価格が高騰しており、調達機数が大幅に削減される可能性がある。そしてなによりも開発が遅延しており、戦力化も遅れている。

効率を考えるならばC-2より安価で既に入手可能なC-130Jや、あるいはより小型のC-27Jあたりの導入も検討する必要がある。またエンブラエルが開発中で、C-130よりも若干大きい新型機、KC-390も候補となるだろう。現用のC-130Hは既に老朽化しており、これらに空中給油機能を付加するにしても併せて近代化、延命化が必要である。

また併せて先述のようにC-130の最新型であるC−130J、KC-390、C-27Jなどの調達が必要だろう。むしろC-2を増やすよりもこれらの戦術輸送機を増やすべきだ。適切な空中給油機の導入は戦闘機などの作戦用航空機の定数を増やすよりも費用対効果が高い。是非とも検討すべきだ。

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