都知事として見失っていた当事者意識が危機管理を狂わせた〜猪瀬直樹都知事の辞任が教えるもの
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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急転直下、猪瀬辞任の流れが固まった。
偽証すると罰金や禁固刑がある調査特別委員会(百条委員会)設置が決まった事が決め手となった。また18日、自民党からも、安倍総理からも辞任の圧力が高まっていた。文字通り、進退極まった、ということだろう。昨年12月の都知事選直前に徳州会グループから5000万円を受け取った問題について、今後の東京地検特捜部の動きが気になる。
それにしても、今回の問題、猪瀬氏の脇の甘さが際立った。そもそも、何故選挙直前に5000万円を受け取ったのか。東電病院の売却を声高に主張していた猪瀬氏に対し、徳州会側に何の思惑も無かった、というのは極めて不自然だ。仮に個人的な借り入れにしろ、贈収賄を少しでも疑われる可能性があるなら、1円たりとも受け取ってはならないだろう。
もうひとつは、説明が極めて稚拙だったことだ。都議会からの追求に、苦しい説明が続いた。危機管理の観点から、首を傾げる対応に終始した。専門的なアドバイスを受ける為のチームが周囲にいないのか、と訝る向きも多かった。最初こそ、猪瀬氏がのらりくらりと逃げ切れば年を越すのではないか、などという見方もあったが、5000万円の受け取った後の時系列的行動の説明が二転三転したことが致命的だった。説明責任を果たさないとこういうことになる、という典型的な事例となってしまった。
危機管理の要諦は、トップの「当事者意識」にある。今回の問題は東京都という組織が何か不祥事を起こしたわけではなく、猪瀬氏自身の行動に起因しているのが特徴だ。したがって、組織防衛の論理が全く働かなかったのは仕方が無いにしても、猪瀬氏にどれだけ当事者意識があったのか。猪瀬氏が都知事として当事者意識を強固に持ち、事実に基づき、迅速かつ率直に説明責任を果たしていれば、事態は少しは変わっていただろう。いい訳に終始し、彼を選んだ433万人の有権者に対する説明は無かった。
街頭では「オリンピック招致は評価していたので(辞任は)残念」、との声も多かっただけに、残念な結果となった。
今後の焦点は、次の都知事に誰を選ぶかだが、またぞろ人気投票にならないように、都民も良く候補者を見定めねばならない。次期都知事は2020年のオリンピックを迎える人となる。東京都を世界一魅力ある都市に育て上げる手腕を持った人を選びたい。
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