[清谷信一]これではまるで中国政府の記者会見だ!〜情報発信強化を謳いながら、安全保障報道で外国メディアを差別する安倍政権
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)、「中期防衛力整備計画」(中期防)が閣議決定され、17日に発表された。だがこの報道では外国メディアは差別されている。筆者は香港を拠点とするカナダ籍の軍事専門出版社、「Kanwa information Center」の日本での代表を務めている。このため外国メディア向けのレクチャーに参加し、外国メディアに対する差別待遇を実感した。
国家安全保障戦略では情報発信の強化が謳われ「国家安全保障政策の推進にあたってはその考え方について、積極的かつ効果的に発信し、その透明性を高めることより、国民の理解を深めるとともに、諸外国との協力関係の強化や信頼熟成を図る必要がある(中略)多様なメディアを通じ、外国語による発信の強化等を行う」と、ある。だが今回の国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画に関する外国メディアへの対応を見る限り羊頭狗肉である。
まず、防衛省では昨日(12月16日)、つまり本日(12月17日)の閣議決定前に、記者クラブ一般と、記者クラブのキャップクラスを集めた説明会を都合二回開いている。対して外国メディア向けの説明会は17日の午後1時から行われた。つまり閣議決定後、既に日本のメディアが報道した後に行われている。
現場では日本語、英語の資料が配布されたが、外務省が所管する「国家安全保障戦略」に関しては「暫定的英訳」が配布された。つまり暫定的であるので、細かなところは外務省は責任を負いませんよ、ということだ。防衛大綱はサマリー(要約)だけ。中期防に至っては12行のサマリーと別表だけという有り様だ。しかも防衛省の担当課長からは中期防に関する説明はなかった。
これだけではない。説明を行った外務省、防衛省の両課長の官姓名を公表するなということはよくあることだが、説明の質疑応答の内容を使用する際は、事前に外務省ないし、防衛省にお伺いを立てることを要求された。これは事前検閲、つまり憲法違反の疑いまである。会見時間は約1時間半ほどだったが、同時通訳を挟むので実際はその半分。しかも質疑応答は僅か10分足らずで、各自質問は1つに限られたらが、質問は計3名しかできなかった。
この会見を主催したのは内閣府内閣官房である。つまり、このような外国メディアに対する差別的な扱いは安倍政権の意思であるということになる。またこのようなやり方が対外情報発信の強化であり、安倍首相のいう「美しい国」とか「日本を取り戻す」とか「戦後レジュームからの脱却」なのだろうか。
筆者はまるで中国政府の記者会見にいるような気がした。
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