[朴斗鎮]未熟で知名度の低い金正恩の宣伝に日本のテレビメディアを利用する北朝鮮〜北朝鮮の対日メディア工作に応じてしまう日本の一部テレビの不可解
2012年の金正恩体制出帆後、北朝鮮は2012年4月の「金日成誕生100周年」や「日本人遺骨収拾問題」、2013年7月の「停戦協定60周年」などをからめて日本メディアを積極的に受け入れた。そして平壌リュニュアールの「成果」を誇示し、「新しい時代の北朝鮮」「変化する北朝鮮」「開かれた指導者金正恩」のプロパガンダを世界に発信させた。
この間、共同通信は石川洋児特別顧問(前社長)を責任者とする訪朝団を派遣し、金日成父子の銅像に「花かご」を献じ最敬礼した。 花かごのリボンには、『敬愛する金正恩元帥のご健勝を謹んで祈ります』という文字が記されていた。その一方では「核の先制攻撃で日本は例外ではない」との脅しもかけた。3月から4月にかけてのこの「タフな金正恩」宣伝に付き合わされた日本の各メディアは、毎日のように「恐るべき金正恩」報道を行なった。
この「脅し」を「本気だ本気だ」と騒ぎまくって煽った「北朝鮮問題評論家」を「朝鮮問題の第一人者」などと持ち上げた一部テレビ局もあった。しかしその後はこのことをケロッと忘れたかのように、いままた「新しい北朝鮮報道」に精を出している。10月には新しくオープンした「文繍(ムンス)プール遊戯場」の宣伝も行なった。
残念なことに、こうした報道では、夜間営業する遊園地や新しい建物のライトアップによる電力消費のために、一般家庭の電力事情がいっそう悪化しているということには一切触れられていない。今年の8月には電力の過剰使用で平壌全体が3時間にわたって停電したが、これは金正日時代にもなかったことである。
それだけではない。北朝鮮は、未熟で知名度の低い金正恩宣伝に日本のテレビメディアを利用する一方で、こうした取材と引き換えに、「北朝鮮にとって好ましくない人物」のメディアからの排除も求めた。
一部テレビ局はこれに積極的に応じている。
それにしても最近、一部の日本のテレビメディアはどこか変である。
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【プロフィール】
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。